第39話 聞くだけ聞いて沈黙しろ。
文字数 2,284文字
サトミが近づくと、助手席から見慣れたおかっぱ頭が降りてくる。
「チェッ、デッドがこんな所で何してやがる。」
話があるんだろう、まあ気分がいいから止まってやろうか。
と、見せかけて!俺は行く!
「キヒッ!」
ベンのスピードを緩めず、駆け抜ける!! つもりでいた。
が、奴は道の真ん中に出ると、ビシッとこれ以上無いほどきれいな敬礼をしてきた。
ドカッドカッドカカッカカッカカッカッカッカ
奴の真横を通り過ぎて、そして手綱を引いてゆっくり止まる。
大きくため息を付き、その場で足踏みするベンをなだめた。
バッと振り返り、デッドエンドは迷うことなく自分から、年下の15のガキに早足で近づいて行く。
ベンを返して振り返り、口元覆ってたスカーフ降ろして、ゴーグルを上げた。
デッドは俺の顔を見ると、メチャクチャ嬉しそうに子犬のように駆けて来た。
「はあ、はあ、ふう、お久し、ぶりです。」
なんかツヤツヤしてやがるな、またこいつ性行為で遊んでやがったな。
「お前、部隊の奴に手ぇ出してないだろうな。」
「だっ、出してません!出してませんよ!いきなり何ですか〜もう!ビックリするなあ。」
「まあ……てめえには前科があるし、テンパー(10%)信じとく。まあもう関係ないし。」
ハアッと息を飲んで手を合わせる。
うるうるした目で悲しそうな顔をした。
「カンケー無いとか、ウルトラハイパーショックです。
お待ちしていましたのは、ご報告がありまして。」
「ああ…… ジンが逃げた?」
「正解!!さすがサトミ!! なんでわかったんです?」
「んー、そうだなあ。て言うか、あいつわかりやすいだろ?」
笑い男のデッドが、ますますニイッと笑う。
「ヒヒ、まったくで。」
「監視役、やられたのか?」
「やられました、GPSも置いて行かれて野放し状態です。
夜だったので、追跡も出来ませんで。
付いていくつもりだったんですが、来るなと言われましてこの体たらくです。
申しわけありません。」
「だから、奴にはGPS身体に仕込めって言ったんだ。
行き先はわかっている、目標はどうせ俺だ。エンプの潜んでる場所は特定出来たのか?」
「エンプに関しては、情報の開示が一切ありません。
恐らくボスが一枚噛んでるかと。」
大きくため息付いて、ゴーグルを付ける。
スカーフを上げる前に、デッドを見下ろし言い放った。
「俺は一般人だ。お前ら軍人には保護する義務がある。保護だ、保護!
今の仲間に危害を加えたら、ボスの家まで殺しに行くと言え。
一般人舐めるな、税金払わねえぞ。」
「わかりました。伝えます。」
デッドが視線を落とす。無言で何かを待っている。
もう俺はこいつらとは何の関係も無い。
でも、何か言葉が欲しいのだ。
特別こいつらが判断力が無いとか、そう言うのではない。
ただ、言葉が欲しいのだ、後押ししてくれる何かが。責任転嫁を俺に押し付けるわけでも無く。
恐らくボスは、俺をまた軍に引き入れようとしている。
一般人の仲間を殺し、俺の居場所をなくした頃に戻れと言うのだ。
その片棒を担ぐ命令を受けたとき、こいつらはどう動くべきか、すでに自分の中では答えが出ているのだろう。
いや、すでにその命令がきているのかもしれない。
だが、ボスの命令は絶対だ。それを上手くごまかしやり過ごすには、今のヘッドであるこいつは生真面目すぎる。
この隊の頭は、多少抜けてるぐらいで丁度いいんだ。
その丁度良かった俺というはしごが外れた状況で、こいつらは今が一番不安定なんだと思う。
だから前セカンドは全滅したのかもしれない。
ならば奴らを殺したのは俺だ。
暗い顔のデッドに、やれやれと思う。そして仕方なく最後に告げた。
「デッドエンド、コレは俺の参考意見だ。
無条件で情報開示されるまで動くな。聞くだけ聞いて沈黙しろ。
俺に銃を向けたら、俺はお前らを殺さなきゃならねえ。
俺はただの一般人だ、普通に生活したいだけのな。だから俺の前に敵として立つな。
ボスの命令を選別しろ。ボスの下では、時に通信機の具合が悪くなるものだ。
ただし、俺は一切の責任は負えない。」
顔を上げ、敬礼するデッドの瞳が、明るく輝いた。
「イエス、サトミ。
そう言えば、最近通信機の具合が悪いと思っていました。」
「だろ?この辺強盗が山のように出る。
抗戦になってもおかしくもなんともねえ。運悪く通信機みんなぶっ壊れることもあるさ。」
「ハハッ、一度やりましたね。
サトミ、我々は手出ししません。それでよろしいでしょうか?」
まるで生き返ったように、返答する。
こいつは、今こう命令しなければ、盲目的にボスの言いなりになるだろう。
そうやって、ガキの時から生きて来たのだ。
「お前に任せる。そしてもう一度言う、俺の前に敵として立つな。」
「了解しました。早く大人になってください、サトミ!」
「ハハッ!それをお前が言うかよ!」
「今度!今度、休暇の時、話しに来ていいですか?!」
「好きにしろ!」
「はい!好きにさせていただきます!」
スカーフを上げ、ベンをまわしてミルドに向かう。
しかし、俺の機嫌はご機嫌から不機嫌に簡単に変わった。
情報源として当てに出来るかと思っていたのに、全く最低だ。
すべての機材を取り上げられて、槍持って敵に突っ込めって言われた気分だ。
ボスが止めるとあいつらには一切の情報は入らなくなる。
まるで自分は神とでも言いたげに、手の上で転がされる方はたまった物じゃ無い。
ボスにとって兵隊は、補充の出来るただのコマなのだ。
「マジ、クソ野郎だ。辞めて清々するぜ。」
俺は軍を抜けて、心から良かったと思った。