第39話 聞くだけ聞いて沈黙しろ。

文字数 2,284文字

2日後、午後の3局周りの当番で、3局目のミルド局に向かっていると、町の入り口付近に軍用車が1台見えた。
サトミが近づくと、助手席から見慣れたおかっぱ頭が降りてくる。

「チェッ、デッドがこんな所で何してやがる。」

話があるんだろう、まあ気分がいいから止まってやろうか。

と、見せかけて!俺は行く!

「キヒッ!」

ベンのスピードを緩めず、駆け抜ける!! つもりでいた。
が、奴は道の真ん中に出ると、ビシッとこれ以上無いほどきれいな敬礼をしてきた。

ドカッドカッドカカッカカッカカッカッカッカ

奴の真横を通り過ぎて、そして手綱を引いてゆっくり止まる。
大きくため息を付き、その場で足踏みするベンをなだめた。

バッと振り返り、デッドエンドは迷うことなく自分から、年下の15のガキに早足で近づいて行く。
ベンを返して振り返り、口元覆ってたスカーフ降ろして、ゴーグルを上げた。
デッドは俺の顔を見ると、メチャクチャ嬉しそうに子犬のように駆けて来た。

「はあ、はあ、ふう、お久し、ぶりです。」

なんかツヤツヤしてやがるな、またこいつ性行為で遊んでやがったな。

「お前、部隊の奴に手ぇ出してないだろうな。」

「だっ、出してません!出してませんよ!いきなり何ですか〜もう!ビックリするなあ。」

「まあ……てめえには前科があるし、テンパー(10%)信じとく。まあもう関係ないし。」

ハアッと息を飲んで手を合わせる。
うるうるした目で悲しそうな顔をした。

「カンケー無いとか、ウルトラハイパーショックです。
お待ちしていましたのは、ご報告がありまして。」

「ああ……  ジンが逃げた?」

「正解!!さすがサトミ!!  なんでわかったんです?」

「んー、そうだなあ。て言うか、あいつわかりやすいだろ?」

笑い男のデッドが、ますますニイッと笑う。

「ヒヒ、まったくで。」

「監視役、やられたのか?」

「やられました、GPSも置いて行かれて野放し状態です。
夜だったので、追跡も出来ませんで。
付いていくつもりだったんですが、来るなと言われましてこの体たらくです。
申しわけありません。」

「だから、奴にはGPS身体に仕込めって言ったんだ。
行き先はわかっている、目標はどうせ俺だ。エンプの潜んでる場所は特定出来たのか?」

「エンプに関しては、情報の開示が一切ありません。
恐らくボスが一枚噛んでるかと。」

大きくため息付いて、ゴーグルを付ける。
スカーフを上げる前に、デッドを見下ろし言い放った。

「俺は一般人だ。お前ら軍人には保護する義務がある。保護だ、保護!
今の仲間に危害を加えたら、ボスの家まで殺しに行くと言え。
一般人舐めるな、税金払わねえぞ。」

「わかりました。伝えます。」

デッドが視線を落とす。無言で何かを待っている。

もう俺はこいつらとは何の関係も無い。
でも、何か言葉が欲しいのだ。
特別こいつらが判断力が無いとか、そう言うのではない。
ただ、言葉が欲しいのだ、後押ししてくれる何かが。責任転嫁を俺に押し付けるわけでも無く。

恐らくボスは、俺をまた軍に引き入れようとしている。
一般人の仲間を殺し、俺の居場所をなくした頃に戻れと言うのだ。
その片棒を担ぐ命令を受けたとき、こいつらはどう動くべきか、すでに自分の中では答えが出ているのだろう。
いや、すでにその命令がきているのかもしれない。

だが、ボスの命令は絶対だ。それを上手くごまかしやり過ごすには、今のヘッドであるこいつは生真面目すぎる。
この隊の頭は、多少抜けてるぐらいで丁度いいんだ。

その丁度良かった俺というはしごが外れた状況で、こいつらは今が一番不安定なんだと思う。
だから前セカンドは全滅したのかもしれない。
ならば奴らを殺したのは俺だ。
暗い顔のデッドに、やれやれと思う。そして仕方なく最後に告げた。

「デッドエンド、コレは俺の参考意見だ。
無条件で情報開示されるまで動くな。聞くだけ聞いて沈黙しろ。
俺に銃を向けたら、俺はお前らを殺さなきゃならねえ。
俺はただの一般人だ、普通に生活したいだけのな。だから俺の前に敵として立つな。
ボスの命令を選別しろ。ボスの下では、時に通信機の具合が悪くなるものだ。
ただし、俺は一切の責任は負えない。」

顔を上げ、敬礼するデッドの瞳が、明るく輝いた。

「イエス、サトミ。
そう言えば、最近通信機の具合が悪いと思っていました。」

「だろ?この辺強盗が山のように出る。
抗戦になってもおかしくもなんともねえ。運悪く通信機みんなぶっ壊れることもあるさ。」

「ハハッ、一度やりましたね。
サトミ、我々は手出ししません。それでよろしいでしょうか?」

まるで生き返ったように、返答する。
こいつは、今こう命令しなければ、盲目的にボスの言いなりになるだろう。
そうやって、ガキの時から生きて来たのだ。

「お前に任せる。そしてもう一度言う、俺の前に敵として立つな。」

「了解しました。早く大人になってください、サトミ!」

「ハハッ!それをお前が言うかよ!」

「今度!今度、休暇の時、話しに来ていいですか?!」

「好きにしろ!」

「はい!好きにさせていただきます!」

スカーフを上げ、ベンをまわしてミルドに向かう。
しかし、俺の機嫌はご機嫌から不機嫌に簡単に変わった。
情報源として当てに出来るかと思っていたのに、全く最低だ。
すべての機材を取り上げられて、槍持って敵に突っ込めって言われた気分だ。
ボスが止めるとあいつらには一切の情報は入らなくなる。
まるで自分は神とでも言いたげに、手の上で転がされる方はたまった物じゃ無い。
ボスにとって兵隊は、補充の出来るただのコマなのだ。

「マジ、クソ野郎だ。辞めて清々するぜ。」

俺は軍を抜けて、心から良かったと思った。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

・サトミ・ブラッドリー

日系クォーター、15才。黒髪、ブラウンの瞳。短髪だがボサボサ。中肉低身長、禁句はちっこい、チビ。

使用武器、主に背の日本刀、鰐切(わにきり)雪雷(せつらい)

11才まで全盲。周囲にいる者を感知できる。

小柄でよくチビと言われるが、生まれつきか日本刀を振り回す為か人間離れした筋力を持つ。

入隊を条件に目の手術を受けたため、家族の顔を知らない。両親と妹がいた。


・ビッグベン

サトミの愛馬。栗毛くりげの馬。

ロバと間違えられるほど小型の馬だが、未知数の脚力を持つ。

盗賊の頭が乗っていたが、サトミに出会って彼を選ぶ。

なぜか人語をしゃべり、子供くらいの知恵がある。数字は100まで。

・ダンク・アンダーソン

18才、アタッカーの先輩。元少年兵。黒髪碧眼、一人暮らしも長く料理上手。

使用武器、ハンドガン2丁。馬の名はエリザベス。

・ガイド・レーン

30才。黒髪、無精ヒゲの最年長。妻子あり。

戦時中から最前線でポストアタッカーを続けた。

ロンド郵便局のポストアタッカー、リーダー。

使用武器、アサルトライフルM27。他国海兵隊仕様を横流しで手に入れて外観をカスタムしている。

・リッター・メイル

22才。金髪碧眼の白人。ポストアタッカー。

母親似で良く女に間違えられるのが悩み。

美麗な容姿と大きくかけ離れた粗野な性格で、大酒飲みでケンカっ早い。そして強い。

使用武器、ショットガンM590M ショックウェーブ。多様な弾を入れ換えて使用する。

・キャミー・ウィスコン

22才。赤毛のポニーテイル。

エクスプレスではガイドと二人、リーダー的存在。

人員不足からアタッカーをしていた。

・エジソン(カリン・ルー)

ロンド郵便局で配達局員専用に護身用武器を研究している。

メーカーに提供し、商品化で特許料を局の収入源の1つとしている。

元軍所属、嫌気が差して辞めた所を局長にスカウトされ、局の一部に部屋をもらった。

・カリヤ婆ちゃん

隣の婆ちゃん、一人暮らし。朗らか元気。

・ジン

21才。某隊長。死にたくない男。浅黒い肌に白髪と赤っぽいブラウンの瞳。

高身長、すらりとした体躯にモデルのような顔。だが、総隊長では無い。

・デッドエンド

23才。某副隊長。おかっぱ黒髪碧眼。中肉中背、爽やか青年。

趣味セックス。いつもニコニコ、微笑みにあふれた男。

・エンプティ

30代。本名 カラン・グレイル。白髪、ブルーの瞳。無表情。

サトミの強さに惹かれ、人生まで狂ってる男。

・地雷強盗の女

強盗を生業とする一団の、仲間の1人。アタッカーに仲間を殺され、逆恨みから生き残りの仲間と地雷強盗に見せかけたアタッカー殺しをもくろむ。

サトミの入局で、計画が大きく阻まれることになる。

・ジェイク

デリー本局のリーダー、古参アタッカー。戦中からアタッカーをやっている強者。面倒見のいい男。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み