第43話 飯を食うぞ、それからだ!

文字数 2,642文字

「えー、えー、えーと、ウ、ウルル、ムズ、さん?」

ニッコリ、ドアの向こうの不機嫌そうなおっさんに問う。
プフッと笑いが漏れ、満面の笑みに変わった。

「坊主、ほんと可愛いなあ。
ハッハッハ!これはな?ウィリアムズって読むんだ。
そうか、そうか、お前さんか。
俺はお前さんに会いたくて、親戚に速達出すよう頼んだんだ。俺は運がいい!」

へえ〜〜〜〜、しっかり気持ち悪いな、おっさんよ。

「元払いです。どうぞ、サインを。」

おっさんがサインして、チップに5ドルくれた。
金渡すとき身体に触れようとするので、スッとなにげに避ける。
避けると、何度も腕を掴もうと手を伸ばしてきた。

この野郎、ペド(ペドフィリア(小児性愛者))だな。
俺はわかるんだ、ねっとりした嫌な気をまといやがって、くそったれ。
とは言え、お客様だし笑顔は絶やさない。
デッドを見習おう。

「何だつれないなあ、おじさんに撫でさせてくれよ。」

「申しわけありません。それはサービスに含まれておりませんので。」

ムウッと、おっさんが本性出して、ネズミの鼻毛くらいの圧を出してきた。

「5ドル払ったじゃないか!髪や手足をさわらせろ!たかが郵便屋風情(ふぜい)が、何気取ってやがる!」

この野郎、風情(ふぜい)と言いやがったな。
あーーーーー!!!!ムカつく。サックリ殺っていいかな、こんなの犯罪予備軍だろ。
でも刀汚すのは嫌だ、直で心臓止めてやってもいいが、俺は殺しはしないと決めている。
まあ、生ぬるいけど。 うん、 ぬるいよな、まったく下界はぬるくて嫌になる。

「答えはノーだ、それ以上近づくな。」

と、言ってもじわじわ近づいてくる。
本性出したおっさんには、ちょいと脅すことにした。
もらった1ドル紙幣を指2本にはさむ。

「見てろよおっさん、手品だ。4ドル分の価値あるぜ。」

ニイッと笑って目の前にかざす。
グチャグチャの紙幣がビリビリと音を立て、シワがピンと伸びて行く。

「な、何で……」

「キシシシシ」

おっさんの目が、奇妙な状況を理解出来ず、釘付けになる。
その紙幣を、アルミの郵便受けにかざした。
加減して紙の振動を派手な音が出るくらい気を送る。
ビリビリ振動する紙幣の音が止み、それは紙幣からカッターに変貌した。

ビビビビビビビビ  ────────

ピンと張った紙幣が当たり前のように、開いて立っていたアルミのフタを切り裂いてゆく。
スウッとなめらかにアルミのフタが半分切れて、ポトリと落ちた。

「え?」

おっさんの口が、ポカンと大きく開けたままそれを見つめている。
俺は紙幣を縦に2つに折ると、その口に差し込んでぺこりとお辞儀した。

「またのご利用をお待ちしております。それでは失礼します。」

「あ、お、お、」

しつこいなー
追ってくるおっさんに、クルリと振り向き、指さした。

「今のは貴様ヘの警告だ。その辺のガキに手え出すなよ。お前がそのフタになるぜ?」

おっさんが、ガクガクとぎこちなく何度もうなずく。
キシシシ!面白いほど気がそげ落ちた。

「あー忙しいのに、手間取らせんなよな。」

俺はベンに乗ると、次の家を目指した。





戸別回りから帰って、ベンの世話して事務所に入ると、誰もいなかった。

「キシシシシ、誰も!いない!!じゃん!」

俺は急いでロッカーから砂糖を取り出すと、ザーッと口に流し込んだ。
最近砂糖食うとマジで怒られる。
ケンコーとか、俺は砂糖食って普通にケンコーなのに、いい迷惑だ。

モシュモシュモシュ、ごくん。
ザーーーッ、モシュモシュモシュ、ごくん。

「はあ〜〜〜〜」

スウッと身体中が甘みで満たされ、俺はかなりハッピーになる。

「あーーいい、やっぱ砂糖はいいよなー」

ぷはー、砂糖をいっぱいやって、いい気持ちでいると、外でダンクの気配を感じた。
まあ、あいつはいつも馬の世話してから来るし、直で入ってくることないだろ。

ザーーーっと、もう一口流し込んだとき、ピピッ!ッとドアのロックが鳴った。

ぐふうっ!
俺は味わう間もなく、懸命に飲み込む。
バーンとドアが開いて、ダンクが飛び込んできた。

「キャミー!ガイドからなんか連絡は?
なんか銃声が派手に聞こえたって聞いたけど!
あーっ!またこいつ砂糖食ってやがる!コラ!砂糖食うのやめろ!」

「うるせー!これは俺の栄養補給だっ!」

ドタドタドタと、パーテーションから足音が響く。
いきなりキャミーが飛び込んできた。

「ガイドから!ダンク取って!行きにやられたって!」

ダンクが血相変えて衛星電話を受け取る。
怖くて手が震えている。サトミは耳を澄ませた。

「もしもし?」

『ダンクか?行きにやられたけど、2人とも無事だ。
4人も襲って来やがった、まったくひどい目にあったぜ。よく生きて行き着いたよ。ハハッ
今病院、あちこち弾浴びて軽症だけど診てもらってる。少し遅くなるけど心配するな。
サトミが動きそうなときは止めろよ!』

「うん、うん、無事で良かったよ、うん」

ダンクが涙をふきながら答える。
通信を切り、大きく息を吐いて、ソファにドスンと座った。

「無事だって、良かったー、ビックリした。」

大きく息を吐いて水を飲む。
サトミが腕を組み、買って来たバーガーをテーブルに出した。

「ダンク、馬の世話は?」

「ああ、丁度マイクがいたから頼んだ。」

「よし、飯を食うぞ。それからだ。」

ダンクが目を見開く。

「な、なんで?」

サトミは座って袋からバーガー取って、ガブリと食いつく。
立ち上がりコップを出して、冷蔵庫からリッター専用と書いてあるオレンジジュースを自分とダンクのコップに入れた。

「いいから食え、食ってから話す。」

「だからなんで!」

ダンクが立ち上がった。
サトミがバーガー飲み込んで、座れと指で椅子を指す。
ストンとダンクが座った。

「次に来るのは帰りだ。2人は負傷している、馬も恐らく全力で走れない。」

ホッとしていたダンクが愕然とする。

「なんで、なんでそんなこと言うんだ。
行きでやられたら帰りは…………って、普通……普通思うだろ?」

「普通思う。だから油断する。
ガイドは、“ まったくひどい目に遭ったぜ ” って言ったろ?
過去形で話すとき、その人物にとっては終了した言葉だ。
だが、実際は現在進行形で待ち受けている。
ガイドが殺ったのは4人だ。奴らは人を雇っている、恐らく頭を潰しちゃいない。」

「な、んて、耳のいい奴だよ……」

ダンクが息を呑んで、ガックリ息を吐きうつむいた。
目の前のホットドックの袋掴み、中から1個取り出す。

「なんでだよ、なんで……クソうっ!」

ガブリと食いちぎった。
ストレスでとても喉に通らないと思うそれは、意外と美味くて涙が出そうになった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

・サトミ・ブラッドリー

日系クォーター、15才。黒髪、ブラウンの瞳。短髪だがボサボサ。中肉低身長、禁句はちっこい、チビ。

使用武器、主に背の日本刀、鰐切(わにきり)雪雷(せつらい)

11才まで全盲。周囲にいる者を感知できる。

小柄でよくチビと言われるが、生まれつきか日本刀を振り回す為か人間離れした筋力を持つ。

入隊を条件に目の手術を受けたため、家族の顔を知らない。両親と妹がいた。


・ビッグベン

サトミの愛馬。栗毛くりげの馬。

ロバと間違えられるほど小型の馬だが、未知数の脚力を持つ。

盗賊の頭が乗っていたが、サトミに出会って彼を選ぶ。

なぜか人語をしゃべり、子供くらいの知恵がある。数字は100まで。

・ダンク・アンダーソン

18才、アタッカーの先輩。元少年兵。黒髪碧眼、一人暮らしも長く料理上手。

使用武器、ハンドガン2丁。馬の名はエリザベス。

・ガイド・レーン

30才。黒髪、無精ヒゲの最年長。妻子あり。

戦時中から最前線でポストアタッカーを続けた。

ロンド郵便局のポストアタッカー、リーダー。

使用武器、アサルトライフルM27。他国海兵隊仕様を横流しで手に入れて外観をカスタムしている。

・リッター・メイル

22才。金髪碧眼の白人。ポストアタッカー。

母親似で良く女に間違えられるのが悩み。

美麗な容姿と大きくかけ離れた粗野な性格で、大酒飲みでケンカっ早い。そして強い。

使用武器、ショットガンM590M ショックウェーブ。多様な弾を入れ換えて使用する。

・キャミー・ウィスコン

22才。赤毛のポニーテイル。

エクスプレスではガイドと二人、リーダー的存在。

人員不足からアタッカーをしていた。

・エジソン(カリン・ルー)

ロンド郵便局で配達局員専用に護身用武器を研究している。

メーカーに提供し、商品化で特許料を局の収入源の1つとしている。

元軍所属、嫌気が差して辞めた所を局長にスカウトされ、局の一部に部屋をもらった。

・カリヤ婆ちゃん

隣の婆ちゃん、一人暮らし。朗らか元気。

・ジン

21才。某隊長。死にたくない男。浅黒い肌に白髪と赤っぽいブラウンの瞳。

高身長、すらりとした体躯にモデルのような顔。だが、総隊長では無い。

・デッドエンド

23才。某副隊長。おかっぱ黒髪碧眼。中肉中背、爽やか青年。

趣味セックス。いつもニコニコ、微笑みにあふれた男。

・エンプティ

30代。本名 カラン・グレイル。白髪、ブルーの瞳。無表情。

サトミの強さに惹かれ、人生まで狂ってる男。

・地雷強盗の女

強盗を生業とする一団の、仲間の1人。アタッカーに仲間を殺され、逆恨みから生き残りの仲間と地雷強盗に見せかけたアタッカー殺しをもくろむ。

サトミの入局で、計画が大きく阻まれることになる。

・ジェイク

デリー本局のリーダー、古参アタッカー。戦中からアタッカーをやっている強者。面倒見のいい男。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み