第47話 おいたには、せっかんだよな!

文字数 2,946文字

ダンクが岩山の下まで来ると、ウンザリした顔で山を見上げる。
山と言っても凄く低い。登るのに何分だろうって高さだ。

振り向くけど、まだサトミの姿は見えない。
あいつはまだ動かない。
一緒に来てくれなんて、腰抜けなセリフとても言えなかった。
お前はここ、俺はここ。
まるでチェスのコマになった気分だ。

エリザベスを近くの木に繋ぎ、銃を背負い直して岩に手をかけ登り出す。
サトミは不気味なガキだ。
自分たちとはどこか違う。
それでもなんだろう、この安心感。まるでこの先をビシバシ当てる占い師だ。



「いいか、良く聞けダンク。
普通、森の前か後ろかを考える時、人はホッとした後がヤバいと考えやすい。
緊張ってのは、目標があるとそこをピークに持っていく。
前準備する。
でも、俺に言わせると準備段階が一番隙がある。
隙を埋めるのが準備段階だ。隙を埋めることに意識が向く。
つまり…………」

「「 やるのは前だ 」」

声を合わせ、ダンクが呆然と息をついて、ハッと笑う。

確かに思い浮かべると、俺達はこの難所を越える前に1度休憩を置いて、それからここに挑む。
こいつの言う事はいちいち的を射て腹も立たない。

「お前のその自信は、いったいどこから来るんだ?
何でそんなに言い切れるんだよ。ほんと敵わねえ。」

「だろ?俺もそう思う。でも、俺の勘は外れたことが無い。
だが、想定を森の前とするなら最高に良い事に、こっちは背中になる。
安心して山登れ。
あと、てっぺんでは背後の岩棚側から攻撃を受ける可能性がある。
山を森側に少し降りて、山肌を背にして狙うのが理想だ。ポジション確保できるところを探せ。」

「わかった。降りるとこ無かったら寝っ転がる。
岩棚の方が低いから頭多少上げても撃たれないと思う。」

「よしっ!行け!俺は遅れて出る。」

「えっ、なんで?」

「俺はちょっとやることがある。」

ダンクが周りをグルグル見回す。
まあ、俺ってこう言うことには信用されてないよな。

「大丈夫だ!殺しじゃ無いから。」

「お前の大丈夫は信用出来ねえけど、今はそんな事言ってるヒマ無いから行く。」

「うん、行け!片が付いたら降りてこい、それまで死ぬな。」

「おう!」

サトミが手の平を上げ、その手にパンと叩いてエリザベスに乗って道に出る。
そして、岩山に向かって走り出した。




「はあ、はあ、はあ、」

つばを飲んで息を整える。
岩山は思ったよりゴツゴツと岩が出っ張って、足場が多く上りやすい。
ただ、それだけ落ちたらサヨナラと思う。

静かに、静かに。

息を整え、頂上が近くなるほど慎重に進む。
本当にいるのかわからないけど、山頂前で止まってじっと耳を澄ます。


「…………はい、了解しました……はい……」


ザッと血が下がった。
サトミの読みは、超正解だった。






遠くなるひづめの音を耳にしながら、サトミが乗合馬車の乗り場の小屋の壁をちらと見る。
モソモソ下草をはむベンが、のんびり顔を上げたとき、サトミが雪雷を抜き、小屋へ向けてバッと飛び上がった。

ドスッ

躊躇無く小屋の壁を刺し貫き、瞬時に抜いて飛び退く。

パンパンパンパンッ!

無言で壁向こうの誰かが反撃に出る。
サッとサトミが避けて、刀を直し、小石を数個拾った。

「キシシシシシシ!!お前が透明人間だって?俺には無駄な話さ。」

壁に空いた穴を目指し、石を指で弾く。

パンパンッ! 

ビシッ 「 ギャ! 」

右に移動し、また指で弾く。

バシッ!バシッ!バシッ!  バシッ!バシッ!

「いてえ!いてえ!この!」

悲鳴が上がり、たまらず横から顔を出す。
サトミが満面の笑顔で手を上げた。

「よう!ジン!
今のお前はクソ野郎か?それとも俺の友達か?」

苦い顔で、サッとまた壁に隠れる。
サトミが腰の背中側に横向きに刺しているサバイバルナイフを取り、ジンを追う。

ジンは俺との間に壁を置きたいらしい。
まるで追いかけっこのように、小屋を中央に回り込む。
だが、グルグル回って切りが無い、少し小屋から離れ、一気に助走を付けて小屋を飛び越えた。

「つれないなあ!ジンよ!」

軽く屋根を越えると、ジンが間抜けな顔を上げ、驚いて銃を向けてバンバン撃ってきた。

パンパンパンッ! キキンッ!

ドカッ!「ギャッ!」

ナイフで弾いて、思い切り顔を蹴って着地する。

「俺を殺すんだろう?!」

吹っ飛ばされて木にぶつかり、サトミが更に蹴りを出すと避けて転がり、起き上がりながらナイフを出す。

「ああ!殺してやるよ!!」

「いいぜ、来いよ!」

シャッ、キンッ!キンキンキンカシッ、キンキンッ!キンキンキンキンキン、ガッ!!

高速でのやりとりに、集中力が続かない。
鼻血を出しながらジンが次第に詰め寄られ、(やいば)を合わせていったん引く。
息を付きながら、間合いを取ってサトミを見つめる。

ガキがやる気満々じゃねえか。

トントントントン

フットワーク軽く、やるぜやるぜと生き生きしてやがる。
くいくいっと手であおってくる。
楽しそうで何よりだ。

「このガキィ〜」

「ジンよ、お前ほんと丈夫で助かるぜ。
俺がまともに蹴って殴って生きてるの、お前ぐらいだろ?
普通の人間、あっさりあの世に行きやがる。

ほら、やろうぜ!お前とやるの久しぶりだろ?
楽しいぜ、なあ!ほら!!」

バッと飛び込んでくる。
慌てて逃げる。
追われて応戦する。

シャッ!シュッシュッシュッ!シャッ!

サトミの刃は空振りしない。
この音は全部ジンの戦闘服をこする音だ。

ひいっ!マジで来るなよ、このガキ!

シャッ!キンッ、ガキッ!

ギリギリ顔の前で受けて、互いに押し合う。
あああーーーーーー!!駄目!駄目だ!!!この馬鹿力!
ギラギラした目でサトミの笑い顔が迫る。

怖い、怖い、怖い!!

ひいいい!!助けろこの!助けてーーーー!!

「ちょっ!ッと待てよ、サトミ〜
ハッハッハッハ!何マジになってやがる。
俺とお前はオトモダチだろ〜??」

ギラギラした刃が迫り、ダラダラ冷や汗流してニッコリ笑う。

「ヒヒヒヒヒヒ!!
ジン〜、何ビビってやがる。死ぬか殺されるか、どっちだ?選べよ。」

「ちょっ  ッと、待てよ、ベイビー。選択肢が少なすぎるぜ?」

「ヒャハハハハハハ!!
なあにがべイビーだ、似合わないぜ? ジン 」

ジンが、銃をサトミの額に向けて撃つ。

パンパンパンパンッ!

紙一重で避けられ、飛び退いて避ける先に向けて撃っても、ちっとも当たらない。

「よう、どんな死に方がいいか選べよ。」

ザッと立ち止まり、ゆっくりと抜く雪雷が、ギラギラと日の光を反射して、恐怖をあおる。


シャアアアアアアア


刃物の鞘にこすれる音が、背筋をゾッとさせる。

「待て!待てよ、あやまるから。俺は部隊に戻るよ。だから、な?」

「死んだ奴に示しが付かねえんだよなあ。」

「殺してねえ!まだ誰も。」

「何言ってやがる。
その合わねえズボンはどうしたよ。え?」

ハッとくるぶしまでしか無いズボンに触れる。
忘れてた。
2人殺して逃げたんだった。

そうだ!!上は借りたけど、下は戦闘服じゃ無い、普通のズボンだ!!

ジンが真っ青になって色を失った。

「おいたには、せっかんだろうが。」

「あやまるから。」

「聞こえないなああ!!」

「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさいーーーッ!」」

「これが俺のやり方だ。」

サトミが雪雷をひらめく。

ピュンッ!

ピュピュンッ!

「ギャアアアアアアアア!!!」

その休憩所から悲鳴がほとばしる。
ジンが泣きながら失禁して意識を失った。
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登場人物紹介

・サトミ・ブラッドリー

日系クォーター、15才。黒髪、ブラウンの瞳。短髪だがボサボサ。中肉低身長、禁句はちっこい、チビ。

使用武器、主に背の日本刀、鰐切(わにきり)雪雷(せつらい)

11才まで全盲。周囲にいる者を感知できる。

小柄でよくチビと言われるが、生まれつきか日本刀を振り回す為か人間離れした筋力を持つ。

入隊を条件に目の手術を受けたため、家族の顔を知らない。両親と妹がいた。


・ビッグベン

サトミの愛馬。栗毛くりげの馬。

ロバと間違えられるほど小型の馬だが、未知数の脚力を持つ。

盗賊の頭が乗っていたが、サトミに出会って彼を選ぶ。

なぜか人語をしゃべり、子供くらいの知恵がある。数字は100まで。

・ダンク・アンダーソン

18才、アタッカーの先輩。元少年兵。黒髪碧眼、一人暮らしも長く料理上手。

使用武器、ハンドガン2丁。馬の名はエリザベス。

・ガイド・レーン

30才。黒髪、無精ヒゲの最年長。妻子あり。

戦時中から最前線でポストアタッカーを続けた。

ロンド郵便局のポストアタッカー、リーダー。

使用武器、アサルトライフルM27。他国海兵隊仕様を横流しで手に入れて外観をカスタムしている。

・リッター・メイル

22才。金髪碧眼の白人。ポストアタッカー。

母親似で良く女に間違えられるのが悩み。

美麗な容姿と大きくかけ離れた粗野な性格で、大酒飲みでケンカっ早い。そして強い。

使用武器、ショットガンM590M ショックウェーブ。多様な弾を入れ換えて使用する。

・キャミー・ウィスコン

22才。赤毛のポニーテイル。

エクスプレスではガイドと二人、リーダー的存在。

人員不足からアタッカーをしていた。

・エジソン(カリン・ルー)

ロンド郵便局で配達局員専用に護身用武器を研究している。

メーカーに提供し、商品化で特許料を局の収入源の1つとしている。

元軍所属、嫌気が差して辞めた所を局長にスカウトされ、局の一部に部屋をもらった。

・カリヤ婆ちゃん

隣の婆ちゃん、一人暮らし。朗らか元気。

・ジン

21才。某隊長。死にたくない男。浅黒い肌に白髪と赤っぽいブラウンの瞳。

高身長、すらりとした体躯にモデルのような顔。だが、総隊長では無い。

・デッドエンド

23才。某副隊長。おかっぱ黒髪碧眼。中肉中背、爽やか青年。

趣味セックス。いつもニコニコ、微笑みにあふれた男。

・エンプティ

30代。本名 カラン・グレイル。白髪、ブルーの瞳。無表情。

サトミの強さに惹かれ、人生まで狂ってる男。

・地雷強盗の女

強盗を生業とする一団の、仲間の1人。アタッカーに仲間を殺され、逆恨みから生き残りの仲間と地雷強盗に見せかけたアタッカー殺しをもくろむ。

サトミの入局で、計画が大きく阻まれることになる。

・ジェイク

デリー本局のリーダー、古参アタッカー。戦中からアタッカーをやっている強者。面倒見のいい男。

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