第55話 ガキだけど隊長してました!え、なんで?知らねえよ!

文字数 2,963文字

ああ、本当にイヤになる。本当に、ガッカリだ。
今の俺を一番ガッカリさせるのは、俺を理解しない、しようとしない

「エンプティ、いや、カラン・グレイル。
お前には失望した。俺はもう、お前をコードネームで呼ぶことは無い。」

馬上から吐き捨てる俺に、エンプの顔が歪む。

「……ぃちょう、……ぉれは……ごふっ」

小さくかすれた声で、身じろぎして必死で手を差しのべる。
こいつはもう駄目だ、命の光がどんどん小さくなる。

エンプよ、

エンプよ、お前は俺のなにを見ていたんだ。
俺はお前をちゃんと見ていたんだぞ。
お前は俺を1つの戦力ではなく、俺として見てくれていたじゃないか。
なのに、何で道を間違えた!

馬鹿野郎。 馬鹿野郎。 ボスの口車に乗りやがって。

俺は、ベンを降りて奴の傍らに立った。
こいつが愛した雪雷を抜いて、眼前に突きつける。
見えているのか見えていないのか、きっと見えていないだろう。

「こんな……くだらないことで、俺の大事な部下が1人死ぬなんて。
俺への最大の屈辱だ。」

吐き捨てると、エンプが大きく目を見開いた。


まだ、 まだ、部下だと、言ってくれるのか。

“ エンプティ! ”

俺をそう呼んだあんたに、俺は きっと

犬みたいに、 好きで、 好きで、 付いていった。

笑えばいいさ。
大人が、こんなガキに、焦がれてた。 なんて。

ああ、光が見える。
澄んだような輝きが……

魅入られたんだ、
あの森で切られたときから。

澄んだように輝き、艶めかしく、俺の血をまとうその、刀に。
それを、操る、ああ…… 隊長。 あんたの姿に。
ずっと、見ていたかったんだ。  ずっと

あんたの、 横に いたかった。
た  隊長、  あ  ……

かすかに笑って、ガクリと手が落ちた。
穏やかな顔に、少しホッとする。
ジンが横でハッと息を吐いた。

「あーあ、死んじまった。馬鹿な野郎だぜ。
笑ってやがるじゃん、なんで手向けなんかするんだよ。」

「さあな」

雪雷を戻すと、大きくため息付く。
確かに俺は、殺しに来たこいつになんであんな事言ったのかはわからない。
それでも、こいつはずっと俺の右に立っていたんだ。
嫌な顔1つせず、 いや、元来鉄仮面だけど、新聞読んでくれた。
お前の声は、落ち着いてて心地よかったぜ。エンプよ。

「きっとさ、雪が言えって仕向けたんだろうよ。」

ジンがヒョイと肩を上げ、ヘッと笑う。

「じゃあ仕方ねえな。」

「だな」

小さくエンジン音が響き、それがどんどん近くなる。
軍のトラックが走ってきて、目出し帽で顔を隠した一軍が降りてきた。
負傷者と遺体と武器類を手早く回収しはじめる。
やがて軍用車が間を縫ってきて2人の前に停まり、デッドとその部下が降りて来て敬礼した。

「お手数おかけしました、元隊長。イエロー、ジンを連行しろ。」

「イエス、隊長。」

「は?」

イエローがエンプの遺体にシートをかけ、ポカンと口を開けるジンの腕を後ろに回し手錠をかけた。

「は??!!なんでお前が隊長??俺は?!」

「キヒッ!バーカ、お前は今、容疑者だ。
名目上は士官のクセして、同僚2人殺して無事に済むと思うな、バーカ。」

「えーーーー、マジかよ。」

「クソ汚え物ぶら下げやがって、潰すぞ。おい!」

言われて1人が防水シートをジンの腰に巻く。
そして、車に引いていった。

「サトミー!またな!また遊ぼうぜ!」

「普通に来い、普通に!人を殺すな、バーカ。」

「けっ!面白くねーの!」

「普通に来たら、またパフェおごってやるよ。」

パッと、明るい顔で、車に乗り込んだ。
トラックは、移動して1人残らず回収していく。
やがて、すべて回収したのかこちらへ走って来る。
サトミは視線を落とし、エンプを見ながらデッドに話しかけた。

「今回は金と武器がそろいすぎている。恐らくボスが絡んでるだろう。
ボスはこいつのストレスを利用しただけだ。
ボスはその場にいなくても、敏感に誰が不満を持っているかを感じとる天才だ。
部下が利用されないように注意しなくてはならない。
こんなくだらない事で、いちいち減っていたらやってらんねえだろ。
まあ今回は強盗で処理されて大事にはならないだろう。負傷者は治療を頼む。」

「イエス、恐らく回収した奴らは治療後は逮捕されると思います。
今回は申しわけありませんでした。まさかこんな行動を後押ししやがるとは。
自分たちでエンプの行動は止めるべきだったと思います。
で、あのー」

スッと、デッドが衛星電話を差し出した。

「何だよ。」

「持ってて欲しいです。熱望。いつでも相談出来るし〜」

デヘッとデッドが満面に笑顔を浮かべる。
サトミが顔をヒクヒクさせて、差し出す電話にガッとナイフを突き立てた。

「あーーー!!!」

「残念だったな、壊れてるようだぜ?」

苦々しい顔で、デッドがナイフの刺さった電話をいそいそと直し込む。
恐らく自分のコレクションにしやがるんだ。

「壊さないで下さいよ、また持ってきますからね!今度は受け取って下さいよ?」

「また壊れるだけだろ、俺は辞めたって事に慣れろ!」

「サトミ〜、俺のジンセー相談して下さいよ〜」

「ウソつけ、ボスの指示だろ。あーーー、もう!俺は退役したんだ!!
俺は郵便局のメールマンなの!」

「キシシシシ、似合わねー」

ブロオオオオオ、キキーッ!

喋ってるうち、トラックが来てみんなが降りてきた。

「元隊長に、敬礼!」ザッ!

ずらりと並んで敬礼する。
サトミも敬礼して返すと、何か語りたい奴を引っ張り、サッとトラックに乗り込む。
デッドが車に乗りながら手を上げた。

「じゃ!また来ます!そのパフェっての、俺らにも食わせて下さいよ。」

「あれ高いんだぞ?あー、まあ、来たら食わせてやるよ!」

「イエス!では失礼します!」

敬礼して、車に乗り込み走り出す。
気がつくと、背後にガイド達が歩み寄って、は〜とため息付いていた。

「マジ?お前隊長やってたの?」

リッターが呆れたように聞く。
まあ、そうだよな。
俺は少年兵って奴だろうが、下っ端の経験は無い。
あのガラの悪い部隊に放り込まれて、班長になって、隊長になって。
戦時中、聞き分けの無い奴らは自分勝手にさっさと死んじまって、気がつけば規律はいいがリーダーやりたいって目が血走った奴らが消えちまって、俺はダラダラ隊長を続けるハメになった。

まったく最初はひでえ部隊だった。
ほとんどが犯罪者で、凶悪犯なんてザラ。
ガキの俺は舐められて、かなり嫌がらせや襲われたりして、変な寝癖が出来てしまった。
規律はバラバラで自分勝手な殺し屋集団、辛うじてデッドがまとめていたA班はまとまっていて軍人然としていた。

俺は隊長になると能力別に班を分け、ファーストからサードまで3つの班に分けてファーストをコードネームで呼び始め、特別感を出して競わせることにした。
何でそんな事考えたって?
俺はオヤジに、人を育てるなら競わせろって聞いていたんだ。
人間ってのは、便所掃除するより、してもらう方になりたいもんだってな。
何よりコードネームはいい、特別感がメッチャ出るのに金がかからない。

「「たいちょーう!!また来まーーーす!!」」

トラックの幌上げて、デカい声で手を振ってくる。

「馬鹿野郎!全員で来るなよ?俺が破産するだろうが!」

「「「  ワハハハハハ!  」」」
「おごってくれるってよ!」「まったく可愛いガキだぜ!」

ガキの俺は、いい大人の部下達の慕ってくれる気持ちが嬉しくて、思わず手を振った。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

・サトミ・ブラッドリー

日系クォーター、15才。黒髪、ブラウンの瞳。短髪だがボサボサ。中肉低身長、禁句はちっこい、チビ。

使用武器、主に背の日本刀、鰐切(わにきり)雪雷(せつらい)

11才まで全盲。周囲にいる者を感知できる。

小柄でよくチビと言われるが、生まれつきか日本刀を振り回す為か人間離れした筋力を持つ。

入隊を条件に目の手術を受けたため、家族の顔を知らない。両親と妹がいた。


・ビッグベン

サトミの愛馬。栗毛くりげの馬。

ロバと間違えられるほど小型の馬だが、未知数の脚力を持つ。

盗賊の頭が乗っていたが、サトミに出会って彼を選ぶ。

なぜか人語をしゃべり、子供くらいの知恵がある。数字は100まで。

・ダンク・アンダーソン

18才、アタッカーの先輩。元少年兵。黒髪碧眼、一人暮らしも長く料理上手。

使用武器、ハンドガン2丁。馬の名はエリザベス。

・ガイド・レーン

30才。黒髪、無精ヒゲの最年長。妻子あり。

戦時中から最前線でポストアタッカーを続けた。

ロンド郵便局のポストアタッカー、リーダー。

使用武器、アサルトライフルM27。他国海兵隊仕様を横流しで手に入れて外観をカスタムしている。

・リッター・メイル

22才。金髪碧眼の白人。ポストアタッカー。

母親似で良く女に間違えられるのが悩み。

美麗な容姿と大きくかけ離れた粗野な性格で、大酒飲みでケンカっ早い。そして強い。

使用武器、ショットガンM590M ショックウェーブ。多様な弾を入れ換えて使用する。

・キャミー・ウィスコン

22才。赤毛のポニーテイル。

エクスプレスではガイドと二人、リーダー的存在。

人員不足からアタッカーをしていた。

・エジソン(カリン・ルー)

ロンド郵便局で配達局員専用に護身用武器を研究している。

メーカーに提供し、商品化で特許料を局の収入源の1つとしている。

元軍所属、嫌気が差して辞めた所を局長にスカウトされ、局の一部に部屋をもらった。

・カリヤ婆ちゃん

隣の婆ちゃん、一人暮らし。朗らか元気。

・ジン

21才。某隊長。死にたくない男。浅黒い肌に白髪と赤っぽいブラウンの瞳。

高身長、すらりとした体躯にモデルのような顔。だが、総隊長では無い。

・デッドエンド

23才。某副隊長。おかっぱ黒髪碧眼。中肉中背、爽やか青年。

趣味セックス。いつもニコニコ、微笑みにあふれた男。

・エンプティ

30代。本名 カラン・グレイル。白髪、ブルーの瞳。無表情。

サトミの強さに惹かれ、人生まで狂ってる男。

・地雷強盗の女

強盗を生業とする一団の、仲間の1人。アタッカーに仲間を殺され、逆恨みから生き残りの仲間と地雷強盗に見せかけたアタッカー殺しをもくろむ。

サトミの入局で、計画が大きく阻まれることになる。

・ジェイク

デリー本局のリーダー、古参アタッカー。戦中からアタッカーをやっている強者。面倒見のいい男。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み