第56話 いちいち立ち止まってちゃ生きてらんねえ! 終わり!だっ!
文字数 3,863文字
いつもの静かで、ただ鳥が空飛んでる荒野を見回す。
血の臭いが風に流され、土草の匂いが戻ってきた。
終わった。
終わっちゃったかー。
騒々しい一時が、ウソみたいに静かだ。
「おーーーい!」
ロンド側の道の向こうから、ダンクがエリザベス飛ばしてきた。
「ごめん!ごめんな!サトミ!マジごめん。」
デカい声で謝りながら走ってきて、近くで止まって飛び降りる。
サトミの前に来ると手を合わせて頭を下げた。
「まあ、最終的に撃てたんだし、誰も死ななかったし問題ない!
悪かったな、嫌だってのにやらせてよ。」
「は〜、なに?なんで急に軍が出てきたの?」
ダンクはワケがわからず辺りを見回す。
リッターが、ヒョイと肩を上げて言った。
「こいつの元部下だってよ。」
「ああ、元上司?」
「いや、部下だってよ。」
「え?上司だろ?え?誰の部下?」
「こいつの。」
ダンクが、ああ、とニッコリ笑った。
「部下だったんだよね。」
「どうでもいいじゃん?」
「まあ、辞めたんだしな。今はぺーぺーだ。ハハッ」
何か話が合わずハハハッと笑い合う。
ダンクが、鞍にはさんだ腕章3枚がくくりつけられた棒を取った。
「あっ、これ。もうバリバリだけど、引き抜いて取ってきた。
どうする?どっか埋める?」
「デリーの分は持ち帰って遺族に渡すよ。」
「リードのは血だらけだからな。埋めようか。」
「うん、そうしよう。」
サトミが近くの木の根元をナイフで穴を掘った。
血が乾いて真っ黒の腕章を取り、穴に入れて土を戻し墓標のようにナイフを突き立てる。
その前に並ぶと、ガイドが呟くように言った。
「リード、敵は討ったぜ、新入りと元新入りがな。褒めてやってくれよ?」
は〜
何だか、みんながようやく息を付いた。
「やっと、地雷から解放されたな。」
「まあ、しばらく出なかった強盗が戻ってくるだろ?」
「ハハハ!まったくイヤになるぜ!」
「戻ろうぜ、キャミーがまってる。」
「おうっ!」
ガイドが、リッターが、デリー郵便局の2人が、サトミとダンクの肩を叩いて馬に乗る。
サトミが顔を上げると、ダンクがニッと笑って手を上げた。
パンッ!
手を叩くと、その手を差し出す。
それに握手して、ポンと肩を叩く。
そしてそれぞれ馬に乗り、先を行くみんなのあとを追った。
そうして、郵便局には平和が戻った。
ような気がしてた。
が!
ドカッドカドカッドッドカッドカッ!
「来たッ!!」
通常業務に戻った数日後、ベンを走らせながら俺は思わずワクワクして声を上げた。
パンパンパンパンッ!
「ヒュウッ!撃って来やがった、久しぶりィッ!」
後ろから、入り乱れる蹄の音!
あー、強盗、やっとやる気だして来やがったなー
「オラ!郵便局野郎!荷物置いて行けやっ!!」
おっさん達の声が俺の耳には良く聞こえる。
「よーし、よし!
やる気が見えるぜ、いいダミ声じゃねえか!」
よしっ!
どんどん近づいて、俺のやる気もメキメキ上がる。
しかし強盗の声は、突然叫び声に変わった。
「ギャアアアア!!!あいつはッ!!」
「ヤバいヤバいヤバい!引き返せーーーーーー!!」
「クギ野郎だ!」
「クギが来るぞ!!!ヤバい、ヤバすぎる!引き返せっ!!」
ドドドドドドド!!ドカッドカッドカッドカッ……
入り乱れてUターンし、遠ざかる蹄の音にベンの足が止まり、ボーゼンと振り返った。
は???
クギ野郎って???
俺はなんとなく先日郵便局にかかってきたデッドからの電話を思い出した。
「なんでお前、仕事中にかけてくるんだよ。
この野郎、俺のタイムスケジュール掴んでやがるな?」
『いーじゃないっすか、俺は用があって、わざわざかけたんですから〜
あれですよ、あれ〜
サトミ〜、あれはヤバいっすよ、ダメッすよ〜、こっちでもみ消し難しいですよ〜』
「なにが??俺は健全に生活してるつもりだぜ?
イジョーなお前にとやかく言われる事は……」
『クギですよ!!あれ、医者がメチャクソ引いて、こっちが被害者じゃないかってうるさかったんですよ〜
もう、誤魔化すの必死です。最後は口止め圧力フルパワーですよ。
もうちょっとですねー、下界にスキルを合わせて下さらないと〜』
「なんで??!!殺さねえアイデア大勝利だろ??」
『だから〜、サトミは自分がイジョーだって事、理解した方がいいんですよ〜
クギ投げてナイフでくぎの頭キレイに叩ける奴が、この世のどこにいると思ってんですか〜?
拷問して一本一本刺したんじゃないか、人道的に何らかの法に違反するって滅茶苦茶うるさくて、特にあのーーですね。』
ネチネチグチグチ、延々と愚痴が続く。
確かに、確かに!うるさい。医療関係者はとかくうるさい。
人道にうるさい。患者の今後にうるさい。
軍医が上に報告したって最終的にはもみ消されるので、更にうるさい。
『だからですねー、聞いてます〜?』
「聞いてる。」
『報告に辟易したボスから、 あのっ! ボスからですよ?! 下界で異常な行動は慎むように、と、クレームが来ました。』
「はーーーーーー??」
『異常ッすよ、イジョー。ヒヒッ、あいつに言われたくないですよね。
まあ、イジョーな事やってっと、また変なあだ名付きますぜ?キシシシシ』
「うるせーーー!!余計なお世話だ!」
と、切ったわけだが。
で、しっかり付いたじゃん!クギ野郎って、冴えないあだ名が。
ク、ク、クギ野郎???
いっっっ
嫌だああああああああ!!!
冗談じゃねえ!俺がなんでクギ野郎なんだよ!
キュートボーイの俺がクギ野郎なんて付いたら、チップが減るじゃん!!
は??
つか、なんでクギ撃ったのバレたんだよ!
“ あなどるなよ、悪い噂も一気に広まるんだぜ? ”
「うわああああああああああ!!」
ダンクの言葉を思い出し、頭抱えてドサンとベンの首に倒れた。
「どした〜?」
は〜〜〜
「下界は暮らしにくいなあ。」
「ニンジンくれ」
「お前はニンジンあればオールオッケーなんだろうけどよ〜」
ベンが前を向き、とっとこ走り始めた。
「おいおいおい、俺もー、やる気無いんだけど。」
「食いたきゃ働け」
なんだよ〜、馬に説教されてちゃ元隊長の名折れじゃん。
「仕方ねえなー、クギ野郎でもいいや!もう何とでも呼べ!
行こうぜ!ベン!」
「おお!」
ベンが、デリーへの一本道を走り始める。
難所の道は、すでに岩棚と岩山の間の道に戻されている。
時々道の入り口に花が置いてあるのは、郵便局の誰かかもしれない。
それでも、戦後のこの国はいまだ物騒なことは身近すぎて、いちいち立ち止まってちゃ生きてらんねえ。
ふと、岩棚の上に視線を送る。
ククッと笑って、前を向いた。
ザッと、岩棚の崖の縁で見下ろす。
サトミがどんどん近づいて、そして、下の道を通り過ぎて行く。
馬を走らせながらふと身を起こして、見下ろすジンと目を合わせ、そして過ぎ去っていった。
「行くぞ」
後ろから呼ばれ、チラリと見て顔を上げ空を見た。
「お前の住む場所はキレイだよな、なあ、サトミ。」
俺がここにいたの、わかってたんだろ?お前はそんな奴だ。
サトミ、強すぎだろ?
俺もあいつには敵わねえ。
でも、あいつはいい奴だ。
だからあいつの下でもいいやって思ってた。
だから…………
俺もあいつ、手放したくないって思ったんだ。
そしたらボスが、手放したくないなら、あいつの家族殺して来いってさ……
でもよう、あいつの親父殺しに行ったけど、あいつの親父もすげえのよ。
サトミの親父もやっぱりサトミだったわ。
一撃目以外、俺の神速ナイフ、紙一重で避けやがる。
銃撃ってもちっとも当たらねえ。
そんですっげえ重い突き受けて、気がついたらみっちりテープ巻かれて、おがくずだらけの木箱の中よ。
信じらんねえ……夢かと思ったわ。
輸送トラック乗せられて、着いたの全然知らねえ国。
俺、脱水と小便と糞まみれで、泣きながら死ぬかと思ったわ。
あんとき生まれて初めて死を覚悟したぜ、ひでえ思い出よ。
サトミに言ってやろうと思ったのに、カッコ悪くて俺の黒歴史になっちまった。
ほんと……よう…………
ああ言うすげえ奴ら、世の中にはいるんだなあって……さ…………」
ジンが荒野に続く地平線を見つめる。
自分がなんで生きてるのかわからない。
自分は、人を殺すために生きてんだろうかと思う。
サトミを殺したいのに、大事な友達だと思う。
どちらが本当の思いなのかわからない。
あいつの言う通り……俺は、支離滅裂だ。
でも…………お前のいなくなった今は、お前は大事な友達だと思う。
「サトミ、今度は飯食おうな。大丈夫だ、殺さない。
信用しないで安心しろ。
俺は、お前が殺したいほど大好きだ。」
小さくなるサトミに懸命に手を振り、監視が待つ車に放り込む。
「なんでここに来たかったんだ?」
問われても、答えるのが面倒くさい。
新しく付けられた監視役は、奇妙なほど明るい奴だ。
前の奴ほど俺を恐れていない。
きっと俺のことを知らされてないんだろう。
「しばらく会えないからさ。」
「いい友達なんだな、うらやましいぜ。」
監視役が車を走らせる。
うらやましいなんて、変なこと言うやつだ。
だが、人にうらやましがられるなんて、初めてだ。
「お前、いい奴だな。」
「いい奴だろ?だから殺すなよ。
これからよろしくな。」
笑いかける顔が、明るく輝いて見える。
俺は何だか殺したくなった。
今日もポストアタッカーが走る。
銃を撃ちまくり、刀で切り捨て、それでも一攫千金を夢見て追ってくる盗賊どもを蹴散らし、蹄を鳴らして早馬が行く。
BANG! BANG! BANG!
地雷強盗、成敗!!
ポストアタッカー狩り ~終了!!!
BANG!!
「また会おうぜ!!」
サトミが背から雪雷を抜いて切り裂いた。
それではまた。