第36話 俺の歓迎会!タダ飯食える!
文字数 2,536文字
研修期間で逃げ出す奴が多いアタッカー業、研修終わってようやく歓迎会というわけだ。
サトミ以外みんな酒で、サトミはオレンジジュース。
もちろん俺の分はニンジン抜きだ!
で、ガイドがまずは一言。
「えー、大変な時だけど、よく来てくれた。ちょっと心配だけど〜、あ〜」
「あーもういいじゃんガイド、早く飲もうぜ。」
「うっせえ、リッター。つか、もう飲んでるじゃん。」
「うるせえダンク、飲んでねえよ!味見しただけ。」
「それ飲んだって言うんだよ!マテも出来ないのかよ、大人のくせに!」
何だか険悪に仲良く喧嘩を始めた。
「おいおい、主役の僕の為に争わないでくれねえかなー、ラブリーだと辛いなー」
「何が僕だ、てめえ、いい加減に猫かぶるのやめろ。つか、オレンジジュースにそれ以上砂糖入れるのやめろ!何でこんなとこまで砂糖持ち歩くんだよ!」
パンパンパン、いきなりキャミーが手を叩く。
「はいはいはい、血の気が多いのはよろしい。
でもリーダーが話してる時は静かにしようね、坊やたち。
ほんじゃ腹減ったから!
サトミ!来てくれてサンキュー!カンパーイ!」
「カンパーイ!」
「あーー!俺のセリフ……まあいいや、よく頑張ったな。
まあ、まだ個別配送が怪しいけど、その内慣れるさ。」
「うん、だいぶ文字に慣れた。名前の読み方がわかってきたし。」
「勉強したい時は局長に言えば教会に紹介してくれるよ。
余裕が出来たらした方がいい。」
「うん、そうする。」
やっぱ教会か〜。見た事ねえけど、入隊する前通ってたのも教会だったんだろうなあ。
学校って言ってたけど。
「なあなあお兄様よ〜」
ダンクがちびちび飲んでは隣のリッターに絡んでいく。
どうやら妹とはまだ正式に彼女じゃ無いようだ。
「なあ、セシリーちゃんと付き合ってもいいだろ〜?もう俺、寂しい!」
「誰がてめえの兄ちゃんだ。お前、あいつの要求クリアーしたの?」
「まだ。この間トライしてひっくり返った。」
ヒャハハハハ!リッターが大笑いしてひっくり返りそうになる。
ダンクはばつが悪そうだ。
「要求ってなに?」
サトミがガイドに尋ねると、ガイドが両手を広げて何か抱っこするマネをする。
「付き合う条件が自分をお姫様抱っこしてくれる人、だとさ。」
「くっっそおおお!!セシリーちゃん、ちょっと重量級なんだよおおお……
何で?同じの食ってて何で??アニキは鶏ガラなのに!
でもそのふっくらが柔らかくていいんだけどさっ。
下敷きになった時はフカフカあったかくて、バターの匂いして気持ちよかった。」
ウフフフと、不気味に笑う。
キャミーがダンクの背中をポンポン叩いて力づけた。
「仕方ないわ〜、セシリーって好きな物が超高カロリーだもん。
冷蔵庫にこんなでっかいバター入ってんの。
お昼ご馳走になった時、激甘砂糖たっっぷりバターシュガー載せたトーストご馳走になったけど、パンよりバターの方が厚いんだもん。
いやーあれはねー、サトミのコーヒーといい勝負だわ。」
「へえ、バターシュガーか、バターって何だっけ?美味そうだな〜
そうか、バターってのに砂糖混ぜてパンに塗るのか。」
「お前はやめろ。いいな、ぜったいやるなよ。」
ガイドの目がつり上がっている。
つまり、ケンコーに悪いのか……ケンコーに悪い=美味い。
「でもさ、リッターは?食ってるんだろ?」
リッターは、なんか遠い目してそうっと首を横に振る。
「あれはもう、食い物じゃねえし。飲み物だし。
俺の主食は酒だし、ガイドの家でたまに食ってるし、ま、俺はテキトーにギリで生きて行くさ。」
「そうそう!ガイドの奥さん料理上手よねえ。姐さん女房っていいわあ。」
「アネさん女房ってなに?」
「年上の奥さんさ。ガイドは危険な仕事だからって、終戦まで家族作らなかったんだよ。
奥さん高齢出産で、ガイドすげえ取り乱してんの、ヒャハハハ!!」
酔っ払いのリッターが馬鹿笑いして、ガイドに殴られた。
ガイドもまさか自分の話になるとは思わなかったので、渋い顔だ。
「子供は諦めてたんだがな、まだ3つだから俺が死ぬわけには行かない。
子供ってのはいいもんだ、ダンクも鍛えてさっさと家族作れ。
アニキはアル中だけどな。」
「うるせー、まだアル中にはなってねえよ。」
ダンクがヨシと肉を食う。
「俺が一番がんばらなきゃな。とにかく好きな女いたらすぐ結婚したい!
いざとなったら邪魔なアニキは追い出せばいいし。」
「俺は出て行かねえからな。弟よ、俺の老後は任せた。」
「お兄ちゃん、頼むから自立して。」
ダンクの声遠く、リッターはそこそこ食べると酒飲んでばかりだった。
翌日デリー行きもあるので、早々にお開きになってキャミーはガイドが送っていった。
店を出ると、リッターはまた家と反対方向に行く。
気分がいいので一人二次会らしい。
あれだけ飲んだのに、本当に飲んだくれだ。
通りを歩いていると、声をかけられ店に消える。
ダンクが大きくため息付いて、見送りながらぼやいた。
「夜の知り合いの多さは、飲む量と関係すると思うんだわ。
俺、あいつにちょっと憧れてる感じ。」
「ははっ、女一人抱えて言えよ。」
「バーカ、マジで彼女は重いんだ。
初めて会った時からどんどんふっくらして、きっと寂しいんだと思うから、早く支えてやりてえ。
じゃ、明日な。」
「おう、じゃあな。」
ダンクらしい言葉だ。優しい奴。
あーー、女かーー、女と付き合うってどんなんだろう。
1人、部隊に結婚までこぎつけたアレがいるけど、もうすでにただの金づるだからなあ。
夢も希望もねえ見本になっちまってるし。
うん、まだ俺は刀振り回してる方が面白えや。
ダンクと別れ、一人家へと足を向ける。
しばらく歩いて足を止めた。
「クソったれ、なんでここにいやがるんだよ。なんで俺の家、知ってんだよ!」
ため息付いて、思い切り振り返る。
「ヒャッホー!サートミー!来ちゃった〜!」
グレーのスーツ着崩して、両手を挙げてニッコニコのモデルみたいな男に、ムキーッと歯を剥く。
通行人の女が、微笑ましい美青年にポッと頬を染め、微笑んだ。
「クッソーーー、一番来てほしくねえ奴が来やがった!
酒場には入れねえし、家には入れたくねえ!」
バッと、横にあるキャピキャピファンシーカフェを指さす。
ジンがニッコリ笑って、両手で大きく丸を作った。