-27-それから 

文字数 1,209文字

---これは、わたしと彼が生きた記録である。



はじめに

わたしが後述する結論に至った研究について
被験者は第一次感染者である花酔いただ一人であることから
花酔い全体の研究結果とするものではない。


花酔いとは、花酔いウイルスにより引き起こされる感染症の名称である。
感染すると自己免疫疾患を引き起こす。
特に動物性食品に対し過剰反応を示す為、植物以外の摂取は出来ない。

著しい体温の低下がみられ、合併症に罹りやすく、感染後の5年生存率は15%を切る。
ごく稀ではあるが、母子感染による先天性の花酔いは後天性の花酔いに比べ多少寿命が長いとみられる。

色素の欠乏が全身に起こり、多くは肌や毛髪が金(または白)に、瞳が淡青や灰色となることが多い。
後天性の場合、もともとの色素により個人差がある。
メラニン色素欠乏による皮膚癌のリスク、低体温による火傷のリスクにより長時間にわたり紫外線下にいることは危険である。
また、健常者の平熱(36.5°)でも火傷するため、ヒトとの物理接触も避けた方が良い。

感染経路は、「体液の交換(性交渉、唾液の交換、など)」「花酔いによる母体感染」のみ。
しかし花酔いとの性交渉・妊娠・出産自体が困難な為、後者の実例は非常に少ない。
ウイルス自体は二酸化炭素と結合することで無毒・結晶化される為、結晶化した体液を健常者が摂取しても花酔いに感染することはないが
強い中枢神経抑制効果を示し、その強さは結晶化した体液の種類により異なる。
※現在は麻薬取締法により結晶の扱いは制限されている。


長きにわたり、花酔いの具体的な治療法はないとされてきたが
ここにひとつの実証例を示す。

・花酔いワクチンは、投与する花酔い自身のウイルスにより精製すること。
・ワクチンに含まれる化合物を花酔いは摂取することができない為、まず健常者にワクチンを投与し、体内に花酔いの抗体を生成する。
・ワクチンに含まれる花酔いの成分により、健常者には多少の体温の低下などが見られるが、花酔いに感染するリスクは限りなく低い。(色素の欠乏、免疫疾患、拒絶反応などがみられた場合は即座にワクチンの投与を中止すること)
・抗体が生産されるようになった健常者の体液を花酔いが取り込むことで、花酔い体内のウイルスが弱体化し始める。1ヶ月ほどで体温の上昇、紫外線への耐久など、花酔い特有の症状がある程度緩和され始めた。
・健常者側の体温の低下、花酔い側の体温の上昇により被験者間での物理接触が可能になる。
また、健常者の体内において花酔いウイルス抗体が十分に生産され始めると、抗体が作られている花酔いの体液を直接介したとしても花酔いに感染しなかった。

しかしあくまでも被験者間でのみ有効な手法であり、治療法と呼ぶにはあまりにリスキーであるため一概にこの方法を推薦することはできない。



それでも---




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登場人物紹介

斎藤 縁日(サイトウ エンニチ)

生後間もなく親に捨てられ、修道院で育てられる。

自分が孤児だという意識があまりなく、戒律厳しい修道院で育ったわりに信仰心もあまり高くない。

一人称は「僕」


山谷 眞秀(ヤマヤ マホロ)

花酔いである母親からの胎盤感染によって、生まれながらにして花酔いに感染している。

自分の出生の特殊性もあってか全てを受け入れて生きてきたため、あまり「自分が花酔いだから」という意識はしていない。

月白色の髪と瞳をもつ。

一人称は「俺」

夕凪 十影(ユウナギ トカゲ)

親同士で交流があり、幼い頃から眞秀の面倒を見て育つ。
書生として山谷の屋敷に下宿していたが、大学教授として就職を機に屋敷を離れる。
愛煙家。

一人称は「俺」

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