-1-花酔
文字数 442文字
花酔い―――そう呼ばれる人たちがいる。
正しくは“人”ではなくて、花酔いウイルスによって引き起こされる感染症の名称―――そう定義されているらしい。
世界一美しい奇病―――そんな論文を、どこかで読んだ。
論文と言っても、その著者が実際に花酔いに会ったことがないことが発覚して、結局白紙に戻ったんだけど。
例えば、声を失くし、海の泡となって消えた、あの人魚のような。
例えば、毒林檎に侵され眠りながら王子の口づけを待った、あのお姫様のような。
そんな、どこか御伽話めいた内容だったことを、覚えている。
治療法のない、第5類感染症。
植物からしか栄養を得ることが出来ず、日光に当たることが出来ない。
そして花酔いには―――触れてはならない。
精々それくらいが、花酔いに対する知識の上限と言える。
精々それくらいが、僕の花酔いに対する知識だった。
だから僕は、知ろうと思う。
もっと、彼らのことを。
人間になりきれなかった僕が
誰よりも人間として生きようとした、彼のことを。
正しくは“人”ではなくて、花酔いウイルスによって引き起こされる感染症の名称―――そう定義されているらしい。
世界一美しい奇病―――そんな論文を、どこかで読んだ。
論文と言っても、その著者が実際に花酔いに会ったことがないことが発覚して、結局白紙に戻ったんだけど。
例えば、声を失くし、海の泡となって消えた、あの人魚のような。
例えば、毒林檎に侵され眠りながら王子の口づけを待った、あのお姫様のような。
そんな、どこか御伽話めいた内容だったことを、覚えている。
治療法のない、第5類感染症。
植物からしか栄養を得ることが出来ず、日光に当たることが出来ない。
そして花酔いには―――触れてはならない。
精々それくらいが、花酔いに対する知識の上限と言える。
精々それくらいが、僕の花酔いに対する知識だった。
だから僕は、知ろうと思う。
もっと、彼らのことを。
人間になりきれなかった僕が
誰よりも人間として生きようとした、彼のことを。