-1-花酔

文字数 442文字

花酔い―――そう呼ばれる人たちがいる。
正しくは“人”ではなくて、花酔いウイルスによって引き起こされる感染症の名称―――そう定義されているらしい。
世界一美しい奇病―――そんな論文を、どこかで読んだ。
論文と言っても、その著者が実際に花酔いに会ったことがないことが発覚して、結局白紙に戻ったんだけど。

例えば、声を失くし、海の泡となって消えた、あの人魚のような。
例えば、毒林檎に侵され眠りながら王子の口づけを待った、あのお姫様のような。

そんな、どこか御伽話めいた内容だったことを、覚えている。


治療法のない、第5類感染症。
植物からしか栄養を得ることが出来ず、日光に当たることが出来ない。
そして花酔いには―――触れてはならない。

精々それくらいが、花酔いに対する知識の上限と言える。
精々それくらいが、僕の花酔いに対する知識だった。


だから僕は、知ろうと思う。
もっと、彼らのことを。

人間になりきれなかった僕が
誰よりも人間として生きようとした、彼のことを。
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登場人物紹介

斎藤 縁日(サイトウ エンニチ)

生後間もなく親に捨てられ、修道院で育てられる。

自分が孤児だという意識があまりなく、戒律厳しい修道院で育ったわりに信仰心もあまり高くない。

一人称は「僕」


山谷 眞秀(ヤマヤ マホロ)

花酔いである母親からの胎盤感染によって、生まれながらにして花酔いに感染している。

自分の出生の特殊性もあってか全てを受け入れて生きてきたため、あまり「自分が花酔いだから」という意識はしていない。

月白色の髪と瞳をもつ。

一人称は「俺」

夕凪 十影(ユウナギ トカゲ)

親同士で交流があり、幼い頃から眞秀の面倒を見て育つ。
書生として山谷の屋敷に下宿していたが、大学教授として就職を機に屋敷を離れる。
愛煙家。

一人称は「俺」

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