其の九  赤沢 剛史 (Ⅱ)

文字数 2,279文字

「何者なんや、その男」
「うちに聞かれてもわからんし、そやしあんたに来てもうたんやん。でも話し方も関西の人やないし、いままで会うたことのない感じの人やった」
「歳はいくつくらいや」
「たぶん、五〇くらいやと思う。いや、もうちょっと上かな。わからん。身長は一七五くらいで、細身やけど筋肉質でがっちりしてて、黒調のオシャレな織りの着物に洋風のコートで、やくざでもないけど堅気でもないいう感じ。でも細かい紬やったし、コートもものすごい上等やということだけはわかった」
「あほか、それだけでは何にもわからんやろ」
「あんたとも面識はないって言うてはったけど、東京の組織の、相当上の偉い人の知り合いやということだけは確かやと思う。『東京におる古い友達から、赤沢さん言うのが、京都で孤軍奮闘ガンバっとるから、時間があったら店に寄ったってくれ言われた』って、来てくれはったんやし」
「写真かなんか、ないんか」
「そんなん無理に決まってるやろ。失礼になったら元も子もないやん」
口応えしながらも、真理子は見たことないくらい上機嫌でウキウキしている。こいつも他のクラブのママからは、東京の尻軽女だと陰口をたたかれている。店が繁盛していることもあって、この町で味方になるものがいない。それを見返すチャンスだとおもっているのだろう。
それは、俺も同じだ。これまで永井の顔で、おとなしかった京都のヤクザも、最近は訳のわからんチャチャを入れてきている。友祇会が看板上げてホテヘルやデリヘルを始める計画があるだの、永井がそれを後押ししているだの、くだらない噂を流している奴がいるらしい。確かに永井からは、嵌めた女子大生を脅して風俗をやれ、裏DVDを売って金を作れと言われているが、それに手を出せば確実に戦争になる。
ゴチャゴチャと鬱陶しいのは、京都だけではない。
京都友祇会は、関東の大組織に属しているとは言え、古いだけの田舎の三次団体の更にその下、吹けば飛ぶような末席に属する小さなもので、まだ本部の組織図にも挙げられていない。親父も上納の期日には厳しく、偉そうに指示をするだけで、何をしてくれるわけでもない。この間、呼ばれて上京した時も、「これは京都永井組のお友祇会さんかいなぁ、わざわざ東京の田舎までようこそどすえ」と、大勢の前で笑いものにされた。
「なぁ、誰やと思う? 組長さんかな、もっと上の人やろか」
「うちの親父やったら大げさに自分の名前言うやろ。あの人はそれほどのタマやない」
「赤沢に叱られますからって、何度もお名前お聞きしたけど、『こういう組織やから、目をかけてるとわかるだけで、あとがゴタゴタする』言うて、教えてくれはらへんかった。でも、そのお友達さんが、あんたのこと、なかなか見どころのある男や言うて褒めてはったって。はよう京都で手柄上げて、のぼってこいって。それでポンと百万」

そう言われて頭に浮かんだのは、本部の若頭補佐の顔だ。
歳はうちの組長よりもひとまわり以上も年下だが、男としても、ヤクザとしても貫禄が違う。次の若頭は間違いなし、その次の総長候補筆頭だとさえ言われている。確かに俺に目をかけているとわかると、うちの親父はいい顔をしないだろう。
雲の上の人だが、一度だけ声がかかったことがある。
「赤沢いうらしいな、しょうもないことして、関西とゴタゴタするなよ」
名前を知ってもらっているとも思わず、鋭い眼光でそう呼ばれただけで震えたが、今から思うと、それは逆の意味ではなかったか、裏の意味があったのではないか。
「まぁ、見とる奴は見とるいうことやろ」
「そうそう、その人もおんなじこと言うてはった」
大きな胸をすり寄せ、俺のものをズボンの上からさすりながら、舌足らずな声を出す。
「ほんまよかった、あんたについてきて。最近、うちの店の女の子に手だしてんのは知ってるしね。ちょっとくらいやったら、甲斐性やおもて目つぶるけど、出世しても、うちを捨てたら承知せんよ」
笑いながらベルトを外して手を入れると、俺のものを引っ張り出してこねくり回す。
三十路を超えたグラビアモデル崩れの、金とセックスにしか興味がない女。細身に揉みちぎれそうなデカい胸と、軽い斜視がサディスティックな色気を増幅させている。金がなくなったらソープにたたき売ろうと考えていたが、あそこの締まりだけでなく、思ったよりも商才がある。手をいれると、我慢していたのか、オナニーのしすぎで膨れた小指の先ほどもある肉芽を固くしている。
頭を上から抑えて、喉の奥まで突き入れると、目に涙をためながら、ゴホゴホとえづく。それでもチラリと媚るようないスケベな顔を見せ、咥えたものを離そうとはしない。袋をさすりながら、より大きな音を立てて、しゃぶり上げてくる。
「わかっとるわい。前祝に、もう堪忍してくれいうて泣き入れるまでヒイヒイ言わしたろ。そこでケツ上げて広げてみいや、ビショビショにして、どうせさっきまで一人でしとったんやろが。このど変態が」
「そんな言い方ひどいわ。最近、ちっとも相手してくれへんさかいやんか」
そう言いながら、待ちきれないように黒のロングドレスをまくり上げる。急いでパンツを降ろすと、テーブルの上で四つん這いになって、両手で二つの穴を大きく横に広げる。
「あんたぁ、ほんまに真理子を捨てたら嫌やでぇ」
女に対しては徹底したサディストだが、男に対しては真正のマゾ。白いケツを叩くといい声で鳴く。頭の軽いスケベなだけの女も、それはそれで可愛い。
永井からも、電話ではできない大きな話があると言ってきた。
京都に流れて八年、やっと俺にも運が向いてきた。
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