第6話 パンドラの箱

文字数 673文字

 パンドラの箱。


 それは古来より禁断の箱と呼ばれている。そう──決して開けてはいけないと。


 知ってはいたんだ。そんな有名な話くらいは僕だって。もちろんS渡辺だって。

 だから奴はきっと言ったんだ。

「知っているか? 寝言を発してる奴に話し掛けると寿命が縮むって噂を」

「えっ、どっちの? 寝言に話し掛けてる方? それとも……」

 S渡辺は不敵に笑みを浮かべながら、Bくんことボトケを見つめた。

「ぐがーーー! ぐごごごごごッッッッ!!」

 深夜2時。酒に弱いボトケは案の定、誰よりも早く眠りに落ちていた。

「そろそろだな」

 中学からの付き合いである僕とS渡辺は、ボトケが鼾をかいた数分後に寝言を発する事を知っていた。

「ごぎゅ、ごぎゅ。あれ、たらばさん、今日から鋼のサイボーグ?」

 寝言劇場、開幕。

「ごぎゅ、ごぎゅ。あたしなんて、この店で働いてもう2年も経ってるのにまだアルミのサイボーグなのよ。凄いわね、さすがナンバーワンって事かしら?」

 どんな夢? なんでこいつは女口調でサイボーグがどうの言ってんの?? たらばさんって誰???

 回答は何故だかS渡辺が教えてくれた。

「なるほどな。今回の夢の舞台はある意味でニューハーフバーか。人間と機械の」

 ああ、だからサイボーグ。なるほど合点がいく。さすがはS渡辺。他の渡辺よりも不可能を嫌った素晴らしい回答だ。ちなみに鋼とかアルミというのはおそらくランクだとも教えてくれた。

「っで、どうするんだ?」

 僕はS渡辺にそう尋ねた。少しわくわくと心を踊らせながら。

「今から、俺は客だ」

 相変わらず頼もしい奴。


《次項に続く》
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