第14話 酒に呑まれたいと思う事もある

文字数 598文字

 S渡辺は自分の事を完璧だと思っている。いや、周りの奴らが不完全すぎると思っている。

 だから誰に何を言われてもその精神はちっとも揺るがないし、いつでもどんな状況でも正論で僕たちを諭す事が可能なのだ。

 そう、つまりS渡辺の視線は僕たちよりも上空にあるから。

 別に偉いわけじゃない。とS渡辺はよく言う。賢いわけでも、格差があるわけでもない、と。

「ただ俺は、自分自身でさえも客観的に見えているんだ。だから俺はその先にある未知なる部分が、ただひたすら前だけを見つめて生きている“眩しい”奴らよりも、よく見通せているだけなんだ」

「──稀にいるんだ人間の中にはそんな異質な存在が。体内の熱が常に一定とした“つまらない奴 ”が」

 S渡辺。相変わらず小難しい男。誰もそんな面白みのない話に興味などないのに。

 もっと気軽でいいんだ。友達なんてものは。好きだから一緒にいる。ただそれだけで。

 世の中は別に理由や理屈だけで成り立ってはいないのだから。

 嫌な奴だけど、好き。

 今さっき自らが勝手に述べた「眩しい」の台詞を、「まあ、それだけ頭皮も年齢を重ねてるわけだ」と無理矢理だけどしれっとした顔で自然と流してしまうような奴だけど、その無駄に機巧の利いた照れ隠しも含めて、まあ、好きだ。

 嫌な奴だけど。

 嫌な奴だけど。

 本当に嫌な奴だけど。


 ちなみに、これはできることなら述べたくないのだが、酒の席での話であったりする。











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