第3話 屁理屈を嫌う男

文字数 1,041文字

 宝くじを当てる方法を教えます。


「ああ。簡単だ、そんなのは」

 奴の名前はSこと、スーパー渡辺。スーパーな分だけ奴は他の渡辺よりも不可能を嫌う(もちろん自称)。故に彼はどんな難問でも簡単に答えてくれる(と豪語している)。

「──全て買えばいい。全国各地全ての宝くじ売場へ行って、宝くじを1枚残らず買い占めればいい」

 驚くことに彼は真顔でそう述べている。

「で、でもそれじゃ利益ないだろ? いや、むしろマイナスだろう間違いなく。なんだよそれ。甘くないってそんなに」

 僕がそう言ってやると彼は間髪入れずにため息を吐きかけてくる。

「やれやれ。そんな屁理屈にまで答えてやる義理はないが、まあいいだろう。ちなみに先に言っておくが、理屈ってのは相手がきっちりと理解できる発言をすることで、屁理屈ってのは自分だけしか理解できてない“押しつけ”発言のことだ。敢えて説明するまでもないが。いいか、俺が教えるのは方法だけだ。お前の損得は関係がない」

 スーパーな分だけ奴は人を逆上させるのもとても上手だった。

「──無根拠、不透明、曖昧。世の中はそれらの“なんとなく”では成り立ってはいない。理論。地道な足し算をする事で確率という真理へと歩を進める」

 残念ながらムカつく奴ってのはわりと頭がいいと相場が決まっている。

「──解るか? 夢は寝てる時にしか見ることが出来ないものなんだ。強運。もしもそんな奇跡が世の中に存在していたとしても、安心しろ、それをお前が持ってはいないから──何故ならそんな強運があるのなら、おまえはとっくに凡人ではないはずだから」

 僕は、なんて酷い事を言う奴だ、と思いながらも反論する糸口がなかなか見つからず、だからこそ余計に歯痒い気持ちにさせられた。

「──まあ、宝くじを全部買わないにしても、1等前後賞含みで3億円を当てたいのなら、せめて2億円分くらいまでは宝くじを買うことだ。そうすればプラス1億円になる確率がそれなりには上がるだろうから」

「……それでも、それなりなんだ……」

「──単純な話、金は金持ちの所に流れるようになってるのが、世の中の当たり前の仕組みなんだ」

「……」

「──宝くじ。宣伝でよく『あなたも夢を……』なんて謳っているが、特別に深い意味があるわけじゃないから気にするな──勘違いしたら負けなんだ。世の中は」

 スーパー渡辺。それはそれで悲しい夢を忘れた男。

「忘れたわけじゃない。常識なんだよ。これが」

 というのを僕の表情だけで見抜くのもまた、なんとも腹正しかった。










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