──その3

文字数 996文字

「だからだと思うんだ。“彼ら”が“余計”に機嫌を損ねてしまったのは」

 彼ら……五人組のチンピラ登場。なんでも彼らはナガが星の数をかぞえるのと同じくらいに出現し、そしてそのままナガと一緒にホテルの前でたむろを始めたそうな。

 肌寒い空の下で。

「くそが、何でアイツら延長とかしてんの。マジむかつくんですけど。ってかあのアホ女、後でゼッテーお仕置き確定だからな」

 チンピラの一人がそう言い、ナガは途端に嫌な予感がした。なにせ、そのチンピラのすぐ隣には自分がしゃがんでいるのだから。

「なあ、おまえ誰? 何してんのよラブホの前で? 誰か待ってんのか?」

 不意にやってきたチンピラの質問にビクっと背筋を震わすナガ。だがここで無視をするのは火に油を注ぐ行為だというのは人生経験で学んでいる。

 故にナガは絶対に視線を向ける。その自慢のアゴをくいくいと豪快に動かしながら。

「あ、あ、そ、そそそうだったんだ……ここってラブホテルの前だったんだ。し、知らなかった。じゃ、じゃ俺は向こうに移動しようかな……」

 くい。くいくいくいくい。

「ん? あれ、あれれ。お前、俺らのこと馬鹿にしてんの?!」

「えっ、えっ、な、ななななんで?」

 くい。くいくいくいくい。

「チョーー! むかつくんですけど!!」

 理不尽な激昂。五人のチンピラは目を血走らせながらナガを囲んだそうな……。


「んで、俺がホテルから出た時には五人のチンピラがハアハア言いながら疲れちまってたワケだコレが」

 ケイはそう言うと結局スペシャルパフェに手をつける。

「やっぱりうめーこれ。デザートはやっぱ別腹だな」

「っで、なんでケイは暴行されてないんだ」

 僕が言う。満面の笑みを浮かべるケイの表情には少しの傷もなかったから。

「だから疲れちまったんだろうな。最近の奴らは体力ねーから。俺なんて3時間も頑張ってたってのに。でもまあ、50万よこせって言われたんだから俺もナガと同じ痛みは受けてるんだけどな」

「でも払わないんだろ」

「それは当たり前だ。今時、美人局ごときで金を取られてたまるか。あいつらに奪われた免許証やらケータイは“こんな時の為に予め用意してあった偽物”だしよ。まあ、金を払わなくても全く問題ないだろーな」

 その台詞を聞き、僕はナガがますます可哀想に思えた。ただの殴られ損、でも面と向かうと笑ってしまうかもしれないので哀れみもかけてやれやしない。

〈次項に続く〉
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