──その終
文字数 1,624文字
人は生きてる間に多くを学び、そして理解していくといわれているが、死については理解する事が不可能とされている。
学ぶことはできるけど。
ガンバ。
小学一年の入学式より、少し遅れて彼は僕たちのクラスにやってきた。
ひとつの歩を刻むのでさえ顔を強ばらせるような、そんな生れつき体の弱い彼。
同じ生命体でありながら、何故にその誰よりも小さな背中に十字架を背負っているのか。まるで重い岩のような業を……。
ガンバ。
そう名付けられたのは、無知な小学生の純粋な同情。だからこその悪意だとは、もう少し年令を重ねなければ解らないこと。
ガンバ。
結局、一緒に卒業式を迎えることは夢となってしまったね。
あとちょっとだったのに……ほんの、あとちょっと。
ガンバってたのにね。ほとんどの食物が喉を通らなくなっても、僕たちと遊んでる時には辛そうな顔をみせず、いつも平静を装っていたよね。
それが、きみの強さだから。
ガンバ。
噂ではきみの寿命は僕たちの“十倍以上”はあるらしい。
なのに、担任が言っていたけど、(たぶん)二百歳くらいで死んじゃうなんて……。
おかげで僕たちは卒業式の日に涙を流せなかったんだ。
教室の後ろの水槽には、もうきみが居なかったから。
水槽の隣に添えた卒業証書はそっちに届いただろうか? きっと天国に居るだろう、きみに。
ガンバ。
生物というちっぽけな観点では、きみは“亀”だったけど、僕たちは皆、確かにきみと友達だった。
◇◇◇
*君の一歩が未来を創る。幸せへと繋がらないと知りながらも*
「なに、この歌詞? バカにしてるの? ノブはガンバをバカにしてるの!? 友達をバカにしてるの?」
酒豪といえども、もしかしたらよっぴは酔っているのかもしれなかった。ヒステリックに言葉を連呼してるのが絡み上戸のように思う。
ちなみにガンバの事を思い出して、さっきから泣いてる僕は泣き上戸かもしれない。舐める程度にしか酒を呑んでないのにもかかわらず。
「それにノブ! あんたのバンドでの呼び名だけど、F.NOVEってナニよ? あんた苗字にFなんて入ってないでしょ。Fってなによ? Fって!?」
「……ファ、ファイト……ガンバにちなんで勝手に……」
「だからあんたバカにしてるの? ガンバを! ファイトって……ガンバだからファイトって……。ぷふッ。ガンバでファイトって。ぷぷぷッッッ」
がはははは。
よっぴは突然笑いだした。
「何がそんなに面白いんだよ、よっぴ。ガンバでファイトなんてちっとも面白く……ぷほッ!」
ぷはははは。
迂闊にも僕もよっぴの笑いにつられた。そして、ノブまでも。
緊急事態、笑い上戸発生。こうなってしまうと、もう何を言っても聞いても脇腹をこちょばされているような気持ちになって可笑しくて仕様がなくなる。
「ファイトって、なんのつもりのファイトよ。がははははは。ってか、もっかい、もう一回言ってみて」
「ファ、ファイト! どうだ!」
「どうだって何がだよ。ぷははははは。語勢を強くするなよ、語勢を」
がははははは。ぷははははは。あはははははは。
──なので、残念ながらその後のことはよく覚えていない。目が覚めたら成人式の翌日の昼過ぎで、気分が優れないので皆でだらだらとしていたら、いつの間にかまた酒を飲み始めていて、気分の高揚と共にまた騒ぎ始めたのだから。次の日も、また次の日も。
ノブが東京に戻るまで、ずっと。
──今はどこで何をしているのか……。バンドグループDOU.3を突如として脱退したノブの、今を知る者は誰もいなかった。
ただ僕たちは信じている。ノブの詞にも記されていた今年の冬には、ガンバに会いにまたやってくることを。
*卒業証書と一緒に送った招待状は読みましたか?
十年後、今より少し大人になった僕たちに会いに来てください。
きっとあなたは、笑顔になるはずだから*
「また騒ごうな、ノブ」
僕たちもガンバの笑顔を見たいから。
十年後の今年に。
学ぶことはできるけど。
ガンバ。
小学一年の入学式より、少し遅れて彼は僕たちのクラスにやってきた。
ひとつの歩を刻むのでさえ顔を強ばらせるような、そんな生れつき体の弱い彼。
同じ生命体でありながら、何故にその誰よりも小さな背中に十字架を背負っているのか。まるで重い岩のような業を……。
ガンバ。
そう名付けられたのは、無知な小学生の純粋な同情。だからこその悪意だとは、もう少し年令を重ねなければ解らないこと。
ガンバ。
結局、一緒に卒業式を迎えることは夢となってしまったね。
あとちょっとだったのに……ほんの、あとちょっと。
ガンバってたのにね。ほとんどの食物が喉を通らなくなっても、僕たちと遊んでる時には辛そうな顔をみせず、いつも平静を装っていたよね。
それが、きみの強さだから。
ガンバ。
噂ではきみの寿命は僕たちの“十倍以上”はあるらしい。
なのに、担任が言っていたけど、(たぶん)二百歳くらいで死んじゃうなんて……。
おかげで僕たちは卒業式の日に涙を流せなかったんだ。
教室の後ろの水槽には、もうきみが居なかったから。
水槽の隣に添えた卒業証書はそっちに届いただろうか? きっと天国に居るだろう、きみに。
ガンバ。
生物というちっぽけな観点では、きみは“亀”だったけど、僕たちは皆、確かにきみと友達だった。
◇◇◇
*君の一歩が未来を創る。幸せへと繋がらないと知りながらも*
「なに、この歌詞? バカにしてるの? ノブはガンバをバカにしてるの!? 友達をバカにしてるの?」
酒豪といえども、もしかしたらよっぴは酔っているのかもしれなかった。ヒステリックに言葉を連呼してるのが絡み上戸のように思う。
ちなみにガンバの事を思い出して、さっきから泣いてる僕は泣き上戸かもしれない。舐める程度にしか酒を呑んでないのにもかかわらず。
「それにノブ! あんたのバンドでの呼び名だけど、F.NOVEってナニよ? あんた苗字にFなんて入ってないでしょ。Fってなによ? Fって!?」
「……ファ、ファイト……ガンバにちなんで勝手に……」
「だからあんたバカにしてるの? ガンバを! ファイトって……ガンバだからファイトって……。ぷふッ。ガンバでファイトって。ぷぷぷッッッ」
がはははは。
よっぴは突然笑いだした。
「何がそんなに面白いんだよ、よっぴ。ガンバでファイトなんてちっとも面白く……ぷほッ!」
ぷはははは。
迂闊にも僕もよっぴの笑いにつられた。そして、ノブまでも。
緊急事態、笑い上戸発生。こうなってしまうと、もう何を言っても聞いても脇腹をこちょばされているような気持ちになって可笑しくて仕様がなくなる。
「ファイトって、なんのつもりのファイトよ。がははははは。ってか、もっかい、もう一回言ってみて」
「ファ、ファイト! どうだ!」
「どうだって何がだよ。ぷははははは。語勢を強くするなよ、語勢を」
がははははは。ぷははははは。あはははははは。
──なので、残念ながらその後のことはよく覚えていない。目が覚めたら成人式の翌日の昼過ぎで、気分が優れないので皆でだらだらとしていたら、いつの間にかまた酒を飲み始めていて、気分の高揚と共にまた騒ぎ始めたのだから。次の日も、また次の日も。
ノブが東京に戻るまで、ずっと。
──今はどこで何をしているのか……。バンドグループDOU.3を突如として脱退したノブの、今を知る者は誰もいなかった。
ただ僕たちは信じている。ノブの詞にも記されていた今年の冬には、ガンバに会いにまたやってくることを。
*卒業証書と一緒に送った招待状は読みましたか?
十年後、今より少し大人になった僕たちに会いに来てください。
きっとあなたは、笑顔になるはずだから*
「また騒ごうな、ノブ」
僕たちもガンバの笑顔を見たいから。
十年後の今年に。