──その終

文字数 769文字

「ま、取り敢えず話はそんな感じだから。それでな、Yの助……」

「ん?」

「暫く俺は夜の街に行けそうにないから、その間はこの町から出るわ。夜遊び出来ないのは辛いからな。まあ一ヶ月もすればあのチンピラ達もこの件を忘れるだろうからすぐに戻ってくるけど。まあ、そんなワケだからこの事はよっぴ達にも上手く伝えといてくれ。暫くは鍋パーティーとかに集まれないからってよ」

 僕は、そんな事は自分の口から伝えろよ。と告げたが、するとケイは少しテレくさそうな笑みを浮かべながらこう言ってきた。

「そんなこと言ったらまた怒られて、おまけに殴られちまうだろうが」

「でんちゃんにか?」

「ばーか。でんの助のパンチなんかちっとも怖くねーよ。その“百倍は痛いよっぴのビンタ”が怖いんだよ俺は。だからよっぴに直接言えないんだろうが。何発殴られても決して耐えることの出来ない痛みだからなアレは。超重量級だからなアレは」

 そう言ってどこかくすぐったそうにケイは笑った。

 よっぴのビンタ。確かにそれは最重量級にして最強に痛いビンタ。

 僕は、解った伝えておく、と告げると、続けて「そのかわり戻ってきたらちゃんとよっぴにビンタされに来るんだぞ」と釘を刺しておいた。

「それは当たり前だ。じゃないと俺の人生にはただの一つも、“不自由”が無くなっちまうからな」

 ケイはそう言ってまた笑った。

 自由だからこそ必要な不自由。そのフレーズに僕もなんだか笑った。

 そんな僕とケイの穏やかな笑みを眼前に、一人不満気な表情を浮かべるのはナガ……。

「すいませーん。スペシャルパフェ追加で」

 自由と不自由。文句をつけるのは当然でありながらも、ナガの気持ちもよく解る為に文句を言えない。

 スペシャルパフェ追加。

 その日の食事の請求金額は、実に僕の一日分の給料を軽く越えた。


 自由と不自由。金はいつだって不自由だ。
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