第28話 ヤカン①
文字数 996文字
ワルシは毎年参加しているようだ。
この冬は八方尾根、朝食と夕食は部屋ごとに(同じ職場の女子)が一つのテーブルで食べた、そのときのお茶は、厨房カウンターにヤカンが並んでいて、各自でテーブルに持って来て飲むのであるが、初日か二日目の夜
「女子には美味しいお茶を用意したったでぇー」と言って、ワルシがヤカンを持って来てくれた、一見、他のヤカンと変わりないが、当時は、冗談だと思いながらも気を良くしながらヤカンを受け取り、それぞれの湯呑に注いでいた、その時
「やっぱり特別なそのお茶は、隣のテーブルにあげて」とワルシは言いにきた、
「なんでよ!、もう注いでるし、お隣さんにはカウンターのお茶を取ってあげてよ」
「あかん、そのお茶をお隣さんに回して」と強引に言って、放射線科の下村さんに置き換えるように指示を出している。気の優しい下村さんはワルシの指示通り、祥子達のヤカンを隣のテーブルに渡した。
翌朝、スキー場へ行こうとしていたとき、出入り口付近で男子が一人ずつ尋問を受けていた。そしてこんな噂が流れてきて騒然となっていた。
「大部屋の女子が寝ている間にレイプされていたらしいよ」
「寝ている間に?大部屋で?」
実際にそんなに大胆なことが起こるなど信じられなかった、そんなとき
「妄想という噂も流れてんぞ」と祥子の後ろに立っているワルシが言った。
「どこから?」と言ってワルシの後方の人を振り向いた、その人はキョトンとした顔をしていて、噂の出どころは知らない様子だった。ワルシは少し遠い方向を見て、
「誰かがそう言っていた」と言う。どこから噂が流れて来たのかが気になっていた時に
下村さんが呼ばれて、他の人たちに比べて尋問の時間が長いのが気になった。下村さんがそのようなことをするわけがないので、直ぐに解放されるだろうと思って待っていたが、
「濃厚らしいよ」という噂が流れてきた。
〝まさか!同じ職場の人が犯人であるはずがない!‟
「そんなん、何かの間違いやで」
そんなときにワルシが
「わしが文句言うてきたる」
そう言って警察官に何かを言いに行った。それによりようやく下村さんは解放され、ゲレンデへと向かうことが出来た。このときのワルシの行動をみて、やはりワルシは頼りがいのあるリーダーなのだと勘違いしてしまっていた。