第35話 地団駄を踏む
文字数 1,601文字
新婚旅行の海外から帰国した北田看護主任が旅先で凄いものを見たらしい、祥子は
空き病室の101号室に呼ばれた。
急ぎ早に質問の嵐が飛んで来た
「K病院にいた時に男女でスキーに行ったことある?」
「ある」
「どんなメンバーで?」
「男子は、薬剤師と製薬会社の営業マンと医事課の三人、女子は看護師の私と先輩と医事課の三人と併せて五人、全員で8人」
「婦人科で診察を受けたことはある?」
「あるよ」
「どこで?」
「S病院」
「何の病気?」
「生理痛」
「何歳の時?」
「看護学生の時、21歳」
「分かった、今はまだしゃべられないけど、なんとかする」
後日、医事課職員が病棟の看護職員を集めてカルテの処理の仕方をレクチャーした。
その後ろに北田主任が立っている、
「変質的趣向の婦人科医が月経過多など虚偽の病名を付けて、性器の写真を添付した場合には、当病院では、マジックで写真を塗りつぶし、上から全面を糊付けした紙を貼りつけてから、端をテープで止めるように対応することにしました」
同じようなレクチャーをK病院でも受けたことがある、違うのは、今回はマジックペンで写真を塗りつぶして、全面を糊付けした紙で貼りつけるということだ。
誰かが言う
「この病院にはそんな変態医師いませんよ」
北田看護主任が付け加える
「別の病院で問題になっています、当病院も対策を練ることになりました」
さらにこう付け加えた
「根本的な解決にはなっていないけどね、あー腹立つ」と言って、地団駄を踏んでいる。
北田主任から祥子の被害のあらましを聞かされたO病院の上層部にとっては、祥子は一看護師に過ぎず、本人が気づいていないのならそっとしておくのがベストと捉え、県立病院のS病院やK病院に対してはビデオが出回っているという報告はなされたであろうが、警察の捜査を差し向けるというよりも、同じ立場の病院を護る側になったのだろう。
それから
時折O病院内の男子職員が祥子の顔を確かめに来るようになった。
レイプビデオを探し出して鑑賞しようという目論見なのだろう、結局北田主任の行動は祥子を晒し者にしただけだった。
ところで、北田さんの指示通りだとすれば、S病院のカルテに貼られていた標本はマジックで塗りつぶされ、その前面に紙が糊付けされていたはずであるが、S病院内では「標本」という言葉が飛び交っていた。実際にはどうだったのだろうか、もう一度、耳を澄ませてS病院の通路を歩いてみた。
「標本は後で観に行く」
「標本は観てきた、でも、標本は蓋をされていた」
サイコバス・サイキが地下に向かうのを
「行くなー」と言って追いかけていく事務員がいたことも思い出した。
祥子は興味津々に事務員の後を付け階段を降りて行った、しかし階上から学生に呼び留められたのでUターンして廊下に戻っている、廊下に戻ると学生に扉を指さされ
「立ち入り禁止区域だったのね」と言っている。
しかし地下のカルテ室の光景を見ている、そこには何列も天井高の書棚が並んでいて、細い通路の奥ではサイコパス・サイキと事務員がカルテを奪い合っていた。
二人は祥子の気配に気づいていない、サイキが「あれっ?」と言って、カルテを開いたまま立ち呆けている、そしてそのページを事務員にも開けて見せ、二人で不思議がっている。
その様子からしてカルテは北田さんの指示通りの状態で保管されていたのだろう。
実は、カルテ室で観た光景は、その晩の夢の中で見た光景だ
長期記憶が夢の中まで再生されるとは脳とは実に奇妙なものだ。
そしてふと、
カルテ室の光景が見えたのは幽体離脱をしていたのかもしれないと思えた。
また幽体離脱で観てきたことは夢の中で再現される仕組みになっているのかもしれない。
もしそうだとしたら手を汚さずに復讐が出来るではないか、
催眠術にかかりやすい体質ならば幽体離脱も出来そうな気がしてきた。
祥子はストリートビューにてワルシの家を探している。