第40話 セカンドレイプ

文字数 1,851文字

 1995年、妊娠4ヶ月の祥子と敬寿の家に、敬寿の親友である山岸悟さんと記理子さん夫婦が「近くまで来たから寄ってもいい?」と電話が掛かってきて、やって来た。この妻の記理子さんは祥子の姉の友人で、この夫婦の紹介によって敬寿と祥子は結ばれたのだ。
 山岸さん夫婦が到着して早々、玄関のところで妻の記理子が
「今、このマンションの大家のところに行っててん、突然呼ばれて、行ってみたら、『自分らの仕業やろ!』と言って、祥子の裸の写真を見せられたわ」
「え、どういうこと?」という祥子の声と
「止めろ」と言う悟の声と、
「またか」と言う敬寿の声が重なった
「なんかあったんか」と悟が敬寿に聞く
「妊娠中やし、あっちで話そう」
 と言って祥子には聞かせないようにしているが、聞こえて来た。
「その写真もパソコンから取り込んだやつやろ、顔の部分を合成してるんや」

 山岸夫婦はリビングの置物を見て回っている、敬寿は
「よー点検したらええわ」と不機嫌そうに投げかける

 おそらく山岸夫婦は大家から隠しカメラを仕掛けたという疑いを掛けられ、違うと言えば、カメラを探せと言われたのだろう。
 デリカシーのない大家は歩いている祥子に指を指し
「あの人やで」と近所の人に教えている場面を見かけたことがある。送られた写真を私物化して近隣に見せていたのかもしれない。
 出産後に子供を連れて近くの公園に行くと、サーと人がいなくなったのは、気のせいではなく避けられていたみたいだ。

 2001年、山岸夫妻の家に呼ばれて行ったときのこと
 北海道旅行をしたと言っている。敬寿に話があると言って、悟は敬寿を自分の書斎に連れて行った。
 二人が戻って来てから、なにやら会話をしていたが、しびれを切らした様子の記理子が突然敬寿にこう言った。
「こんな子紹介してごめんな」
 腹が立つが意味が分からず、直ぐには言葉が出なかった、しかし、敬寿がすかさず
「祥子で満足してます」と言い返してくれている。
 夕ご飯を一緒に食べに行くことになった。車の中で記理子は
「他人の多いところは嫌やで」という。
「何故」と祥子が尋ねると
「祥子がいるから」
「どういうこと?」と怒り口調で問いかけると、敬寿が
「そっくりな人はいるもんや」と言う
「私に似ている人がいるの」と祥子が言いう
「そう」と記理子が言う
「どんな人」
「知らんでもええ」と敬寿
「そっくりさんなんやから、教えたったらええやん」と記理子
「教えて」と祥子も言う
 敬寿は黙る。
「ほら、やっぱり、敬寿さんも認めてるやん」と記理子
「何を?何?教えてよ」と祥子は言うが、敬寿は無言、記理子は不服そうな顔
 
「老夫婦の営む店にしよう」と言って、記理子が連れてくれたのはお好み焼き屋さんだった。味は美味しかった。

 半年後に大型スーパーで会うことになった。
「人の多いところは嫌やし」と記理子
「気にせーへん」と敬寿
「嫌やし」
「気にせーへん」
 祥子は敬寿と記理子の間に入って、敬寿を諫めている
「記理子さんが嫌やというのやから、他人の少ない店にしよう」
「気にせんでもええんや」と敬寿
 敬寿も記理子もどちらも頑固で譲らない、

 今、全てを悟った祥子は記理子に言いたい。
 〝強姦映像を好むやからがいるから犯罪は絶えないのだ、あんたは加害者側の人間、私はあんたを軽蔑してる〟


 2007年、敬寿の会社内でビデオらしきものが回されている。
「似ている」「別人だと思う」「いや本人だ」と言う言葉が囁かれていた。
 またその頃からパート社員の吹井典子が興奮気味に、祥子へ意味深な発言を連発するようになった。
「アダルトビデオはね、知り合いが出ているかも知れないので、たまには観た方が良いですよ、私なんて同じものを3回も4回も観ましたよぉ~返すのがもったいないから携帯で写真に撮りましたよ、その画像は社員さん達にも送ってあげたんですよぉ~」
 吹井は祥子を見るたびに愉快そうに意味深な発言を繰り広げ、祥子にも
「何だと思いますぅ~」と言って、マグマのような流血写真を送ってきた。
 吹井はその頃より社内で孤立しており、夫の転勤という理由で退職している。
 専門書によれば女性のサイコバスは見落とされやすく、パーソナリティ障害として診断されやすいそうだ。

 祥子は憎い奴らの顔を思い浮かべて鏡を睨みつけた、すると目の色が黒々と光り凄みを増してくるではないか、
「私だってサイコバスになれるのよ」と祥子は独り言を呟き、奥歯を噛み締めながら掌を握りしめ、親指と人差し指で次々とエア人形の頭蓋骨を潰しまくるのであった。
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登場人物紹介

祥子・・55歳~57歳、温厚な性格の夫と、成人になった二人の子供と猫との4人と1匹の家族、独身の頃は看護師をしていたが結婚退職の後は専業主婦、その後起業した夫の会社で働く、手術を要する病気2回(一つは癌)を乗り越え、仕事と家事の合間に短歌、作文、絵、神社仏閣巡りなどの趣味を嗜む

敬寿・・祥子の夫(59歳~61歳)41歳で起業する、その頃は祥子の看護師復帰を反対するほどワンマンではあったが、祥子が病気になってからは祥子の身を案じ、家事も手伝い、ワンマンさは消える。寡黙でありながら家族から尊敬されている。趣味は釣り、祥子の付き合いで神社仏閣巡りにも行く。

二木輝幸さん・・青年のシルエットが祥子の瞼の裏に現れて訴えかけてくる。その後名前が分かる、祥子は「輝君」と呼んでいる。

大黒仁志(おおぐろひとし)/別名「オオ、ハラ黒ワルシ」・・薬剤師、祥子とはK病院時代からの知り合いであるが、祥子がK病院を退職した同時期に、独立して調剤薬局の経営者となる、今ではS県内に10店舗経営しているが、裏稼業にレイプドラッグ及び強姦映像の販売をしている。悪行を企てている時の目がランランと光りテンションが高い、一見して明るく社交的で饒舌、リーダーシップを発揮するために頼りがいのある人物に見間違えるが、女性を嵌める為の機を窺っていて、巧みに嘘を重ねる。

夏美・・大黒仁志の妻、祥子とは看護学生時代の同級生であり、K病院では同じ病棟で働いたいた同僚でもある。

六林婦人科医・・この物語では過去の人物としてしか登場しないが、六林医師の盗撮がなければ、祥子はワルシに狙われる事はなかった為に重要人物である。

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