第30話 ヤカン②
文字数 1,226文字
「特別に美味しいお茶やから、全部飲めよ」とワルシに進められる、やはり冗談半分に聞いていて、素直に飲んでいる。
全員が食事中に眠気を催したので、誰かが、
「もしかして睡眠薬はってるとか?」と言い出したが、まさか本当だとは思わなかった。
その夜の睡眠中にワルシの声が聞こえて来た。
「またや、この子も生理中や、そっちはどうや?」
「こっちも」と小さな声が聞こえる。
祥子は眠りながら
「私も」と、自己申告している。
そうだ、メンバー6人のうち5人が生理中だったために、
「真紀ちゃんも生理がもうつるでぇー」と言って、生理中ではない真紀ちゃんをからかっていたのだ。
翌日、トイレから出てきたマキちゃんが妙な表情をしていた。
「やっぱりマキちゃんも生理になったんや」と言ってみたら、首を横に振った。
詳しい理由は教えては貰えなかったが、数人の子には伝えられていたようだ。
「夜中に誰かがこの部屋に入ったのか?」という会話が聞こえて来たので、祥子は平然と
「そういえば、夜中に大黒さんの声が聞こえて『生理中ばっかりや』と喋ってたで」と言っている。
「気持ち悪いー、私らも触られてたってこと!」と言ったが、真紀ちゃんの顔を見て、言葉を止めている。祥子は
「まさか、触ってないと思うで、私は触られてないで、でもなんで生理中やと分かったのかなー? なんで部屋に入ってきたのかなー?」
スキーツアーが終わって出勤してみると、真紀ちゃんは体調不良を理由に長期間休んでいて、出勤したときに、退職の話になっていた。
「旅行中には退職の話をしていなかったのに、何があったの?」と尋ねても、
「一身上の都合で」としか答えてくれなかった。
夏美との会話が蘇った、夏美はスキーを趣味にしていない、それについて
「大黒さんにスキーを誘われることはないの?」
「スキーは嫌いやねん、それに大黒も『スキーは貼りつけの刑にされるから、せん方がええ』と言いうのよ」
「貼りつけの刑ってなに?」
「分からないのよ」
ワルシは毎年、S県立公立病院の青年交流会スキーツアーに参加して、ヤカンの中に睡眠薬入りの何かを入れて、女子部屋に忍び込み、強姦・撮影を繰り返していたようだ。
ところで、スイーツアーに参加したK病院の男子の中にはワルシと組んでいるものがいたということだ、誰だろう、祥子は当時の写真を探ってみた。
一人、怪しい人が見えてきた、その人は院内では出会うことのない職種の人だ。スキーツアーの初日の夜のこと、全員が大部屋で自己紹介をしていた時、その人の順番になってワルシが横からチャチャを入れた。
「この人な、毎年、このスキーツアーだけ参加しよるねん、嫌らしいおっさんやで」
その人は今もK病院で働いているのかもしれない。