第24話 イメージガール
文字数 1,202文字
休日の病棟は静まり返っている、そこに目をランランとさせてワルシが触れ回っている。
「これから病院の広告用撮影をするぞ、初代イメージガールは涼さんやで窓の下を歩いているところをプロのカメラマンが撮影するから見学しとけよ」
それを聞いて若い看護師たちは窓の外を観ると庭の植え込みの横で涼さんが立っていた。清楚な花柄のワンピースが初夏の風に揺れ妖精のように可憐だった。日頃は明朗活発に仕事をこなしながら後輩たちに優しく指導してくれる、そんな涼さんが初代イメージガールなのだと聞いて疑う者は誰もいなかった。撮影が始まった、涼さんの歩調に合わせて撮影用のカメラを肩に抱えて後ろ向きに歩くカメラマンがいて、撮影用のマイクの柄を涼さんの方に延ばし、質問しながら歩いているのはワルシだった、祥子は憧れの涼さんを間近で見たいと思い、1階に中庭に駆け下りて行った。しかし既に撮影は終わっていた。ワルシは一発で成功したと言って涼さんを褒めたたえている。撮影が終わるとカメラマンはさっさと帰り支度をして祥子の横を通り過ぎる。カメラマンの容姿は、髪は黒くて僅かにパーマがかっており、フワットした髪は耳を隠す程度の長さだ。歳は30歳代で中肉中背、そしてこの男の目も黒々と光っている。55歳の祥子はその顔に見覚えがあると思った。どこかで観たことのある顔だ、‥‥‥そうだ、あれはスナックのマスターだ、スナックのマスターとワルシが組んでいるということは、涼さんも被害者だったのかもしれない。
その夏、全国病院青年交流会のサマーキャンプに参加した。先輩看護師の澄子さんと涼さんも参加している。祥子は澄子さんと同じグループだった、部屋で夕食前の時間を過ごしている時に部屋には無料のアダルト動画が流れていた。次々に違うストーリが流れるが、セックスシーンはどの女性も眠っている。不思議に思っていると、涼子さんに似た人の横顔が流れて、花壇の横を歩いていた、祥子は思わず、
「涼子さんに似た人」と叫んだ、その時にTVが切れて、
「そろそろ食堂に行きましょう」と誘導された。
その時のリモコンに一番近いところにいた人は澄子さんだった。
涼さんが本当に被害に遭われたかどうかは分からないが、その秋に突然退職されている。その退職前のこと、看護部長と各病棟の看護師長が会議室に集って涼さんに退職の意志を取り下げてもらうようになだめているらしいという情報が流れていた、その時に会議室の方向に視線を向けていた記憶がある。もしかするとあの時の会議は、涼さんが後輩の看護師たちを守るために、強姦されていたことを打ち明けていたのかもしれない。もしもそうだとしたら、打ち明けた甲斐もなくワルシは処分されずにいたわけだから、さぞかし悔しかった事だろう、そして被害者であることを自覚しながら身を潜めるように生きてきた人生はどれだけ辛かったことだろう。