第59話 結末
文字数 1,548文字
手にできる武器の代わりとなるような物を求めて走るシヴァルの背後でいくつかの悲鳴が聞こえる。村人の悲鳴なのか、それともあの化け物のような父親に斬り殺された兵士の悲鳴なのか。
それがどちらなのかは分からない。後ろを振り返るような余裕がシヴァルにあるはずもなかった。
シヴァルは近くにあった家の外に立てかけてある鍬を手にして、ようやく背後を振り返った。シヴァルの視界には武器を求めて逃げ惑う村人たちと、剣を抜いてそれを追いかける兵士たちの姿があった。
シヴァルの目の前で、中年の村人が背後から兵士に追いつかれて地面に引き倒された。兵士に引き倒されたのはシヴァルの二軒隣りに住むマヌエルだ。
マヌエルは背後から首の後ろを片手で兵士に掴まれて、まるで尻もちをつくような姿で大地に引き倒されている。兵士は残る片手で既に長剣を振り上げていた。
それを見てシヴァルは声にならないような叫び声を上げた。そして、鍬を振り上げてマヌエルに長剣を振り下ろそうとしている兵士に向かって行く。
マヌエルに長剣を振り下ろそうとしていた兵士の顔が、奇声を上げながら走ってくるシヴァルに向けられた。兵士はまだ若いようで、その顔は恐怖からなのか引き攣っているように思えた。
兵士は掴んでいたマヌエルの首から手を離すと、奇妙な叫び声を上げながら鍬を振り上げて向かってくるシヴァルに体を向けようとする。
その瞬間、兵士の両足にマヌエルが体ごと飛びついた。急に足を取られて体勢を崩した兵士は、マヌエルともつれるようにして大地に転がる。
それを見たシヴァルは頭で考えるよりも先に体が動いていた。大地に転がった兵士の頭を目掛けてシヴァルは鍬を力任せに振り下ろす。
一回、二回、三回。
振り下ろす度に鈍い痺れが鍬を握る両腕に伝わる。
振り下ろす度に鮮血が周囲に飛び散る。
そうして四回目の鍬を振り上げた時、マヌエルが何事かを必死で叫んでいることにシヴァルはようやく気がついた。
これ以上は鍬を振り下ろす必要がない。
どうやら、そんなようなことをマヌエルは言っているようだった。そう理解すると、シヴァルは荒い息を吐き出しながら、鍬を振り下ろす手を止める。
もう動くことがない大地の上に転がっている若い兵士に、シヴァルは改めて視線を送った。人を殺したという実感はなかった。シヴァルにあったものは、人の中からこんなにも血は流れ出るものなのだというどうでもいいような感想だけだった。
周囲を見渡すと既に大地の上で倒れて動かない村人を幾人か目にする。そして、それ以上に倒れている兵士の数が多いことにシヴァルは気がついた。
大多数の倒れている兵士は、体がどこかで両断されていた。
それを行った者。シヴァルは反射的に父親を探していた。
シヴァルの視界に入った父親は馬上のケネスに向けて長剣を振り上げている瞬間だった。
ケネスの顔は唖然としていて、何でこんなことになってしまったのかと切実にそれを訴えているかのようだった。次の瞬間、父親の長剣が振り下ろされた。ケネスの顔がそのような顔のままで胴体を離れて大地に転がった。
騒動の結末は早かった。ケネスが殺されたことに気がついた兵士たちは、我先にとでもいうかのように次々と逃げ出して行った。既に兵士たちは十名も残ってはいなかっただろう。誰もが長剣を振り回す災厄の固まりであるかのような父親から逃れようとしているように見えた。
何人の村人が犠牲になったのだろうか。シヴァルは改めて周囲を見渡す。大地に倒れて動けないでいる者に、無事な様子の村人たちが駆け寄っていた。
気がつくとシヴァルの横に父親が立っていた。父親は無言でシヴァルに茶色の瞳を向けている。その顔は無表情で、そこから何かを読み取ることはできなかった。
それがどちらなのかは分からない。後ろを振り返るような余裕がシヴァルにあるはずもなかった。
シヴァルは近くにあった家の外に立てかけてある鍬を手にして、ようやく背後を振り返った。シヴァルの視界には武器を求めて逃げ惑う村人たちと、剣を抜いてそれを追いかける兵士たちの姿があった。
シヴァルの目の前で、中年の村人が背後から兵士に追いつかれて地面に引き倒された。兵士に引き倒されたのはシヴァルの二軒隣りに住むマヌエルだ。
マヌエルは背後から首の後ろを片手で兵士に掴まれて、まるで尻もちをつくような姿で大地に引き倒されている。兵士は残る片手で既に長剣を振り上げていた。
それを見てシヴァルは声にならないような叫び声を上げた。そして、鍬を振り上げてマヌエルに長剣を振り下ろそうとしている兵士に向かって行く。
マヌエルに長剣を振り下ろそうとしていた兵士の顔が、奇声を上げながら走ってくるシヴァルに向けられた。兵士はまだ若いようで、その顔は恐怖からなのか引き攣っているように思えた。
兵士は掴んでいたマヌエルの首から手を離すと、奇妙な叫び声を上げながら鍬を振り上げて向かってくるシヴァルに体を向けようとする。
その瞬間、兵士の両足にマヌエルが体ごと飛びついた。急に足を取られて体勢を崩した兵士は、マヌエルともつれるようにして大地に転がる。
それを見たシヴァルは頭で考えるよりも先に体が動いていた。大地に転がった兵士の頭を目掛けてシヴァルは鍬を力任せに振り下ろす。
一回、二回、三回。
振り下ろす度に鈍い痺れが鍬を握る両腕に伝わる。
振り下ろす度に鮮血が周囲に飛び散る。
そうして四回目の鍬を振り上げた時、マヌエルが何事かを必死で叫んでいることにシヴァルはようやく気がついた。
これ以上は鍬を振り下ろす必要がない。
どうやら、そんなようなことをマヌエルは言っているようだった。そう理解すると、シヴァルは荒い息を吐き出しながら、鍬を振り下ろす手を止める。
もう動くことがない大地の上に転がっている若い兵士に、シヴァルは改めて視線を送った。人を殺したという実感はなかった。シヴァルにあったものは、人の中からこんなにも血は流れ出るものなのだというどうでもいいような感想だけだった。
周囲を見渡すと既に大地の上で倒れて動かない村人を幾人か目にする。そして、それ以上に倒れている兵士の数が多いことにシヴァルは気がついた。
大多数の倒れている兵士は、体がどこかで両断されていた。
それを行った者。シヴァルは反射的に父親を探していた。
シヴァルの視界に入った父親は馬上のケネスに向けて長剣を振り上げている瞬間だった。
ケネスの顔は唖然としていて、何でこんなことになってしまったのかと切実にそれを訴えているかのようだった。次の瞬間、父親の長剣が振り下ろされた。ケネスの顔がそのような顔のままで胴体を離れて大地に転がった。
騒動の結末は早かった。ケネスが殺されたことに気がついた兵士たちは、我先にとでもいうかのように次々と逃げ出して行った。既に兵士たちは十名も残ってはいなかっただろう。誰もが長剣を振り回す災厄の固まりであるかのような父親から逃れようとしているように見えた。
何人の村人が犠牲になったのだろうか。シヴァルは改めて周囲を見渡す。大地に倒れて動けないでいる者に、無事な様子の村人たちが駆け寄っていた。
気がつくとシヴァルの横に父親が立っていた。父親は無言でシヴァルに茶色の瞳を向けている。その顔は無表情で、そこから何かを読み取ることはできなかった。