第35話 同罪

文字数 1,604文字

 ルイーズが鼻息を荒げながら自分の上で腰を振っていた。

 十五歳の痩せ細った体。
 そこに女性としての魅力があるとも思えない。それでもルイーズは必死で腰を振っていた。そこに滑稽さがあるぐらいに。

 カレンは俯瞰から見るかのように、行為の中でそんなことを考えていた。

 やがて少しの呻き声と共にルイーズの体液がカレンの中で放出された。その不快感でカレンの全身に鳥肌が立つ。

 ルイーズ自身はそんなカレンを気にする素振りなどは見せず、そそくさとカレンの部屋を後にした。

 夫人に知られることを恐れているのだろう。ルイーズが年端もいかない奴隷の女の子たちに手当たり次第、手をつけているのは公然の秘密だというのに。

 ……馬鹿らしすぎる。
 カレンは軽く溜息をついて、自身の中から出てこようとするルイーズの体液を乱暴に拭う。

 早く戻らないと他の奴隷たちに嫌味を言われてしまう。こちらは好きでルイーズの相手をしているわけではないというのに。

 兄がいればこんなことはなかったのだろうか。こんなことがあったとしても、もっと穏やかな気持ちでいられたのだろうとカレンは思う。

 兄のネイトは自分が六歳の時に十歳で死んでしまった。兄のネイトが死んだ時のことをカレンは覚えていない。

 病気で意識を失っていて、意識を取り戻した時に兄のネイトが死んでしまったと聞かされたのだった。

 カレンが後から聞いた話では病気で苦しむカレンを医者に診させようとして、薬を与えようとしてルイーズに直訴し、酷い暴行を受けたとのことだった。

 カレンの幼い頃の記憶ではいつでも優しかった兄のネイト。そんな優しかった兄を思うと、それはいかにも兄らしい行動だったのだろうと思う。

 暴行を受けた直後のネイトにはまだ辛うじて息があったらしい。病気で意識を失っていた自分の横に寝かされたまま、二日後の夜半に息を引きとったとのことだった。そして、それと入れ替わるようにして意識を取り戻したのがカレンだった。

 自分の横に寝かされ……。

 寝かされてと言えば聞こえがいいだけで、結局は病気で意識がなかった自分の横にネイトは放置されていただけだとカレンは思っていた。

 酷い暴行を受けてそのまま大した処置もされないままで放置されていれば、死んでしまうのも当然だろうと思う。

 暴行したルイーズも許せないが、その後で兄を放置するだけだったイアンとシャーリーンの夫婦も許せない。それがカレンの率直な思いであり、怒りだった。

 もっと言えば、妹のために直訴して怪我をした兄を見殺しにしたルイーズが抱えている奴隷の全員がカレンには許せなかった。

 当時、兄はまだ十歳でしかなかったのだ。奴隷の理屈などが明確に分かるはずもなく、病で苦しむ妹を何とか助けようとするのは当然ではないだろうか。

 だからルイーズだけではないのだ。兄のネイトを見殺しにした他の奴隷たちも同罪だ。奴らが兄を見捨てて殺したように、今度は自分が奴らを殺してやる。

 ルイーズの喉笛などはいつでも噛み切ることができる。猿のように自分の上で腰を振っている時に噛み切ってやればいいだけなのだから。

 だが、他の奴隷はどうするのか。奴隷すべてとなると力で敵うはずもない。

 カレンは痩せ細った自分の腕を見て軽く溜息をついた。ルイーズを殺すのは容易だとしても他の奴隷たち、あるいはルイーズの家族。彼ら全員に兄のネイトを殺した責を負わせるにはこの細腕では難しく思えた。

 優しかった兄。自分もお腹が空いているはずなのに、いつもカレンに少ない食べ物を分け与えようとしてくれていた。両親が亡くなってから、カレンにとってたった一人だけ残されたはずの家族。

 そんな優しい兄を傷つけ見殺しにして、自分から奪った奴らを絶対に許さない。

 カレンは改めて大きな溜息を吐き出して、粗末な寝台から立ち上がった。そろそろ奴隷としての仕事に戻らないと、本当に何を言われるか分からなかった。
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