第22話 終焉の魔女
文字数 1,551文字
そこまで考えたシモンは、グレイが茶色の瞳を自分に向けて凝視していることに気がついた。自分の考えが見透かされた気がして、シモンは取り繕うように慌てて別のことを口にした。
「ミアと言ったか。お前の娘は?」
その言葉にグレイが無言で頷く。その顔には相変わらず表情がない。未だにどこまでいっても不愛想な男だった。
「こんな仕事をしていて、娘のことが心配じゃないのか?」
シモンの言葉にグレイは意味が分からないといったような顔をしてみせた。シモンは更に言葉を続けた。
「仮にお前が死んだら、あの娘はどうなる。それに、お前が仕事をしている間は右も左も分からない所で、荒くれ者に囲まれて娘が過ごすことになる。単純に心配じゃないのか?」
その言葉にグレイは薄い笑みを浮かべた。
「余計な心配だな。俺は死なない。それに前も言ったが、ミアのことをお前らごときがどうにかできやしない」
俺は死なないという言葉もそうだが、今ひとつグレイの言っていることが分からない。この男、やはり頭が壊れているのだろうか。
まあいいと思う。この男の頭が壊れていようが、娘が不幸になろうが、シモンの知ったことではないのだ。自分の目的はイベルダの売女をぶち殺して、兄のガイルを取り戻すことなのだから。
「俺も一つ、質問に答えてもらおうか?」
グレイが珍しく自分から口を開いてきた。
「終焉の魔女を知っているか?」
終焉の魔女?
シモンは心の中で呟いた。急に魔女の話など……。
「魔女って、あの魔女か? 魔法を使ったりする童話の中に出てくる魔女か?」
ふざけているのかとも思ったが、グレイはそれまでと変わることのない表情で黙って頷いた。シモンは少しだけ考える素振りをみせた後、再び口を開く。
「この街は占いが有名だからな。魔法とやらを使えるという嘘くさい占い婆あなら幾人か知っている。だが、生憎とそんな名前は聞いたことがない」
「そうか」
グレイは落胆する感じもなく言葉を返す。
終焉の魔女……。
それを知らないという事実が、何故か逆に気まずくなってシモンは再び口を開いた。
「大体、魔法なんて人には使えないだろう。あれが使えるのは耳長種だけだって話だ。そして、奴らが人の住む街にいるはずもない」
「耳長種の話を聞いたことは?」
「そいつもないな。耳長種なんて見たこともない。大体、奴らが暮らしているのは、もっと北の大地って話だ。人と交わることも少ないと聞いたことがある」
「ああ、そうらしい」
グレイはそう言うと、考える素振りを見せて黙り込むのだった。
襲撃の日は早く訪れた。シモンが襲撃を決意した翌日、ガイルが根城としている屋敷にいるのは間違いないとの報せが入ったのだった。
その屋敷にはガイルを含めて十数人がいるとの話だった。それに対してこちらはシモンも入れて丁度、十人。その中には怪我人のクルトとあのグレイも頭数に入っている。
数的にはこちらが不利だったが、問題ないとシモンは思っていた。これは戦争ではないのだ。騎士や傭兵たちのように人を殺すことに特化した者同士が戦うわけではない。ならず者といっても所詮は素人だ。なので、結局は素人同士でする喧嘩の延長でしかない。
素人の喧嘩は勢いがある方が圧倒的に有利で、つまりは襲う側が有利ということなのだ。ガイルたちは自分たちが襲われるとは思っていないだろう。
ましてやこちらには、傭兵くずれで常人離れした強さを見せるグレイがいる。奴が二、三人を残忍に叩き斬れば、自分が襲われて返り討ちにした時のようにガイル側は戦意を喪失して逃げだすように思えた。
ガイルを取り戻すのだ。あの売女から。
そう思うと気分が高揚してくるのを感じる。
そんな高揚した気分の中、扉が叩かれてクルトが姿を見せた。
「シモンさん、皆の準備はできてます」
「ミアと言ったか。お前の娘は?」
その言葉にグレイが無言で頷く。その顔には相変わらず表情がない。未だにどこまでいっても不愛想な男だった。
「こんな仕事をしていて、娘のことが心配じゃないのか?」
シモンの言葉にグレイは意味が分からないといったような顔をしてみせた。シモンは更に言葉を続けた。
「仮にお前が死んだら、あの娘はどうなる。それに、お前が仕事をしている間は右も左も分からない所で、荒くれ者に囲まれて娘が過ごすことになる。単純に心配じゃないのか?」
その言葉にグレイは薄い笑みを浮かべた。
「余計な心配だな。俺は死なない。それに前も言ったが、ミアのことをお前らごときがどうにかできやしない」
俺は死なないという言葉もそうだが、今ひとつグレイの言っていることが分からない。この男、やはり頭が壊れているのだろうか。
まあいいと思う。この男の頭が壊れていようが、娘が不幸になろうが、シモンの知ったことではないのだ。自分の目的はイベルダの売女をぶち殺して、兄のガイルを取り戻すことなのだから。
「俺も一つ、質問に答えてもらおうか?」
グレイが珍しく自分から口を開いてきた。
「終焉の魔女を知っているか?」
終焉の魔女?
シモンは心の中で呟いた。急に魔女の話など……。
「魔女って、あの魔女か? 魔法を使ったりする童話の中に出てくる魔女か?」
ふざけているのかとも思ったが、グレイはそれまでと変わることのない表情で黙って頷いた。シモンは少しだけ考える素振りをみせた後、再び口を開く。
「この街は占いが有名だからな。魔法とやらを使えるという嘘くさい占い婆あなら幾人か知っている。だが、生憎とそんな名前は聞いたことがない」
「そうか」
グレイは落胆する感じもなく言葉を返す。
終焉の魔女……。
それを知らないという事実が、何故か逆に気まずくなってシモンは再び口を開いた。
「大体、魔法なんて人には使えないだろう。あれが使えるのは耳長種だけだって話だ。そして、奴らが人の住む街にいるはずもない」
「耳長種の話を聞いたことは?」
「そいつもないな。耳長種なんて見たこともない。大体、奴らが暮らしているのは、もっと北の大地って話だ。人と交わることも少ないと聞いたことがある」
「ああ、そうらしい」
グレイはそう言うと、考える素振りを見せて黙り込むのだった。
襲撃の日は早く訪れた。シモンが襲撃を決意した翌日、ガイルが根城としている屋敷にいるのは間違いないとの報せが入ったのだった。
その屋敷にはガイルを含めて十数人がいるとの話だった。それに対してこちらはシモンも入れて丁度、十人。その中には怪我人のクルトとあのグレイも頭数に入っている。
数的にはこちらが不利だったが、問題ないとシモンは思っていた。これは戦争ではないのだ。騎士や傭兵たちのように人を殺すことに特化した者同士が戦うわけではない。ならず者といっても所詮は素人だ。なので、結局は素人同士でする喧嘩の延長でしかない。
素人の喧嘩は勢いがある方が圧倒的に有利で、つまりは襲う側が有利ということなのだ。ガイルたちは自分たちが襲われるとは思っていないだろう。
ましてやこちらには、傭兵くずれで常人離れした強さを見せるグレイがいる。奴が二、三人を残忍に叩き斬れば、自分が襲われて返り討ちにした時のようにガイル側は戦意を喪失して逃げだすように思えた。
ガイルを取り戻すのだ。あの売女から。
そう思うと気分が高揚してくるのを感じる。
そんな高揚した気分の中、扉が叩かれてクルトが姿を見せた。
「シモンさん、皆の準備はできてます」