第37話 女神の思い

文字数 1,391文字

 地球取締局の牢は地下のコンクリートの中に作られていた。中は冷え冷えとして日の光は全く入らず、薄暗い灯りが辺りをぼんやり照らしていた。
香音はその牢の真ん中に座り、目をつぶって迫りくる不安を押さえていた。強がっていたが、彼女の心はもう折れそうになっていた。だが彼女は自分の掲げる主張を通すために必死に耐えていた。
(私は決して負けない!)香音は何度も自分に言い聞かせていた。その時、
「聞こえるか・・・」香音の耳に声が聞こえた。彼女は目を開いたが、そこに誰もいなかった。
(気のせいか・・・)香音がそう思ってまた目をつぶろうとした。だがまた
「我々はあなたの味方だ。聞こえるなら、瞬きするんだ。」と声が聞こえてきた。
(気のせいではない。誰かいる。)香音は瞬きをした。
「周りに誰もいないな?そうなら瞬きをするんだ。」
香音はそっと牢の外を見た。看守は今、他所に行っているようでここにはいなかった。香音は瞬きした。すると
「今、姿を現す。驚かないように。」また声が聞こえた。香音は辺りを見渡した。しかし人影はなかった。
(誰もいない。幻聴?)香音が正面に目を戻すと、そこに2つの人影があった。あまりのことに彼女は声を上げそうになった。
「お静かに。」一つの人影が右手を出して香音の口に当てた。その人影は忍び装束の疾風だった。香音はわかったという風に首を縦に振った。それで疾風は彼女の口から右手を放した。
「助けに来た。一緒に来たらいい。」疾風は言った。
「あなた方は?」香音が尋ねた。
「我らは闇。疾風と言います。」疾風が答えた。
「同じく、霞です。すぐにここを出ましょう。」霞が言った。だが香音は首を振った。
「私はここから出ません。」
「なぜ? ここにいれば裁判にかけられ死刑になるかもしれない。」疾風が言った。
「それでもいいのです。裁判で世間に向かって地球自治を訴えられればそれでいいのです。」香音が言った。
「それではあなたが・・・。もしあなたがいなくなったら運動はどうなるのです?」霞が言った。
「私がいなくても後に続く方がきっといるはずです。私は人柱でいいのです。」香音は言った。
「しかし・・・」疾風は言いかけたが、それを香音が遮った。
「助けに来てくれてありがとう。でも私はここから動かない。もしできることなら誰かに伝えて。私は地球自治に命を懸けたと。」香音が言った。疾風と霞は彼女の意志が固いことを悟った。それでは無理に連れ出すこともできず、2人はそのまま香音の前から姿を消した。


「やはりそうか。」半蔵は疾風と霞からの報告を聞いてそう言った。
「お頭はわかっていたんですか。こうなることを。」疾風は強い口調で言った。
「ああ、彼女は運動に命を懸けている。裁判で死刑を言い渡されようともその意志を曲げないだろう。地球自治のために命を捧げる覚悟だ。」半蔵は言った。
「でもそれでいいのですか。私はなんだか・・・」霞は言った。
「彼女は自分が助かろうともしていない。地球代表府も彼女の死が地球自治運動を盛り上げると思っている。ましてや取締局はだ。誰も彼女が生きていることを望んでいない。」半蔵は冷ややかに言った。
「そんな・・・そんなことが。」霞は言葉が出なかった。
「俺は納得がいかない。どうして!」疾風は拳で机をたたいた。半蔵はそれを見て、
「治安部はそんなに甘い所ではない。彼女の目論見ははずれる。」ときっぱりと言った。
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登場人物紹介

半蔵 (井上正介) 闇のお頭 笠取荘という旅館で番頭として働いている。

疾風 (佐藤 翔) 闇の者  普段はフリーの雑誌記者

児雷也 (田中 令二) 闇の者 メカ担当 普段は田中運送社の社長

霞 (渡辺 飛鳥)  闇の者のくノ一 普段は雑誌モデル

佐助 (山本 健)   闇の者  普段は地球大学新東京校の大学生。笠取荘でアルバイトをしている。

リカード管理官  マコウ人 総督府のナンバー3  地球取締局を統括している。

大山 文明 参事  地球代表部のトップ 

サンキン マコウ人 地球取締局 局長

ジャコー 地球取締局 取締官

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