第1話 闇に生きる者

文字数 10,405文字

 ここは銀河帝圏の保護惑星である地球。約30年前からマコウ人をはじめとする異星人の支配を受けることになってから、地球人への迫害は続いていた。

「おい、邪魔だ!」一人の異星人が道端の地球人をけり倒していった。この異星人はマゴウ人だった。彼らはここでは怖いものがなく、暴れ放題だった。
「お許しください。」地球人は彼にひれ伏した。そのマゴウ人はそれに満足して、また道を歩き出そうとしていた。だがその前に一人の幼い少女が取り残されていた。マコウ人は残酷な笑みを浮かべ、その少女を蹴飛ばそうとした。
「ドサッ!」と音がしてそのマコウ人ははね飛ばされた。彼を突き飛ばしたのはジーンズ姿の男だった。その男は素早い身のこなしで逃げて行った。
「待て!」マコウ人は追おうとした。しかしその足元に何かが飛んでいた。
「バン!バン!」と音がして地面に突き刺さった。それは手裏剣だった。これ以上、追うなという警告だった。そして足元にいた少女も消えていた。その少女は若い女性に抱きかかえられ、逃げ去っていた。
「くそっ!」マコウ人は地団駄踏んで悔しがったが、もうどうすることもできず、そのまま行ってしまった。
 このようなことが最近、よく起きていた。ただ不思議なことに助けた人の顔をはっきり見た者はいなかった。

 地球取締局では、マコウ人職員が監視カメラなどを駆使して地球人を監視していた。それは総督府でも最も大きな部署であり、多くのマコウ人が慌ただしく働いていた。
「最近、変わった事件が多い。」ジャコー取締官がつぶやいた。最近、支配層であるマコウ人たちから何らかの訴えがあった。マコウ人に逆らう気配があると・・・。ジャコー取締官から見ればとるに足らないことだったが気にはなっていた。それに監視カメラにはそれをとらえられないでいた。
「一応、上に報告しておくか。武器監視装置には引っかからないから過激な武器が使われた形跡はないが。我々に歯向かう地球人がいるのだからな。」ジャコー取締官は報告書を作成していた。

 街はひっそりと静まり返っており、地球人たちは目立たぬように街を歩いていた。
「届け者です。ここに置いておくよ。」小太りの配達員がある店に入った。そこは地球人が営む雑貨店だった。
「ありがとう。いつもすまんね。」店主が笑顔で言った。
そこに一人の異星人が数体のバイオノイドを連れて歩いてきた。彼はその店の前に立ち止まった。
「ここはいい場所だ。ここをもらう。やれ!」異星人が言った。するとバイオノイドが店を壊し始めた。
「おやめください。何事ですか。」地球人の店主が慌てて出て来た。
「ここは我らが接収する。ここを我ら通商隊の事務所にするためだ。」異星人が言った。
「そんなご無体な・・・。ここは祖父の代からの店。御見逃しを。」店主がその異星人にすがりながら言った。
「ええい、うるさい!」異星人が言うとバイオノイドが出てきて店主を道端に突き飛ばした。その店主は勢いあまって地面に倒れた。外にいた若い女性が駆け寄って声をかけた。
「大丈夫ですか?」
「ありがとう。大丈夫だ。それより・・・」女性に礼を言った店主は起き上がった。バイオノイドたちはなおも店を破壊していた。店主はあきらめがつかず、
「お許しください。」と異星人のそばに寄り、またすがりつこうとした。その騒ぎに町の人たちが集まってきた。しかしその多くは「またか。」というあきらめの顔をしていた。
「無礼者め!かまわぬ。痛い目に合わせてやれ。」異星人が店主を足蹴にして引き離すと、バイオノイドは剣を抜いて斬りかかろうとした。
「カキーン!」バイオノイドの剣に手裏剣が当たった。
「何者だ!」マコウ人が言った。
「ここから出て行け!さもなければ、今度は手裏剣がお前ののどを斬り裂く!」声が聞こえてきた。
「出て来い!バイオノイドども!探せ!」バイオノイドたちが剣を手に辺りを探し回った。群衆は遠巻きに見ているしかなかった。
「あの群衆に紛れているかもしれぬ。奴らを斬ってしまえ!」異星人が命じると、バイオノイドが群衆に斬りかかってきた。
「きゃあ!」群衆は悲鳴を上げて逃げ惑った。その中には逃げ遅れて倒れた人たちもいた。そこに剣が振り下ろされようとしていた。
「カチャ!」その剣に分銅鎖が絡みついた。
「我らはここだ。」気が付くと2人の黒ずくめの人影があった。黒い覆面に黒い衣装、それは忍者といった風体だった。
「貴様らか!バイオノイドども!斬り捨てろ!」異星人が大声を上げて命じた。するとバイオノイドたちは次々に斬りかかっていった。だが忍者たちは身軽に飛び上がってそれを避けた。そして手裏剣を投げて牽制した。
「おのれ!何をしておる!」異星人が叫んだ。その瞬間、
「!」異星人は背後に気配を感じた。
「お前の背中に短刀を当てた。このまま引け。でなければ死ぬことになる。」低い声が聞こえた。確かに背部に何か固く冷たいものが当たっていた。
「や、やめろ!わかった。今日のところは引く。だから許せ。」異星人が言った。
「ならばバイオノイドどもを引き上げさせろ!」声が聞こえた。
「バイオノイドども、引き上げろ。そのまま事務所に帰れ。」異星人がそう言うと、バイオノイドたちはそのまま帰っていった。
「これでいいな。」異星人はそう言ったが返事はなかった。後ろを振り向いたが、もう人影はなかった。周囲を見渡したが、他の忍者も姿を消していた。
「くそ!このことを地球取締局に訴えてやる。」異星人は怒りで真っ赤になっていた。

 この事件はすぐに地球取締局に通報された。
「異星人に無礼を働く地球人がいるようです。手裏剣や鎖や短刀を使うようです。それらの武器では武器探査装置にかかりません。ただ黒い服装と覆面をしていたという報告もあります。」ジャコー取締官がサンキン局長に報告した。全く分からなかった相手がようやく見えてきていた。
「まるで昔の忍者だな。犯人の目星は?」サンキン局長が訊いた。
「それがまだ・・・。奴らはなぜか姿を消す。不思議に後も残さないのです。」ジャコー取締官が言った。
「うむ。それはまずい。上の方の耳に入ったらえらいことだ。どんな手段を取っても構わん。必ず突き止めろ!」サンキン局長は強い口調で言った。

 一人の中年の紳士が車から降りた。
「参事。ここでよろしいのでしょうか。」秘書であり運転手の梶山が尋ねた。
「ああ、ここでよい。」その紳士は答えた。彼は地球代表府の責任者の大山参事だった。最近、異星人の非道を止める謎の集団が現れたことを知った。彼はある目的でその人物に接触しようと考えていた。
「うわー!」街で悲鳴が上がった。大山参事は、
(彼らが現れるに違いない。)と確信してその場所に急いだ。
「貴様ら気に入らぬ。根性を入れ直してやるわ!」異星人の声が聞こえた。見ると足を痛めてたてぬ老人に棒を振り下ろそうとしていた。
「いかん!」大山参事は飛び出そうとした。しかしそれより前に異星人に向かって何かが飛んできた。
「グサ!」それは手裏剣だった。異星人の振り上げた棒に突き刺さった。
「すぐに立ち去れ!これ以上に無法は許さぬ。」低い声が響いてきた。
「あ、あいつらか!」異星人は震えていた。うわさで彼らのことを知っているようで、すぐに棒を下ろして逃げ去った。しかしその場には集まった群衆以外に、ジャコー取締官とバイオノイドも来ていた。
「取り逃がすな!」ジャコー取締官たちには、手裏剣を投げた人影が見えていたようだった。バイオノイドたちがある建物に殺到すると、そこから一つの影が屋根から地面に飛び降りた。それはうわさに聞く忍者だった。
「斬り殺しても構わん!行け!」ジャコー取締官が命じるとバイオノイドたちは剣を手にして向かって来た。忍者は懐から短刀をとり出し、振り下ろされてくる剣を受けたり避けたりしながらその包囲から逃げ出した。
「逃がすな!」ジャコー取締官が叫んだ。戦士たちは剣を振りかざして追っていった。
(このままではあの者は斬られる。)大山参事は思った。しかし忍者は懐から何かを取り出し、地面に叩きつけた。
「ボン!」鈍い音がして白い煙が辺りを覆った。バイオノイドたちは視界を奪われて右往左往していた。やがて煙が晴れた後にはその忍者の影はなかった。
「逃げられたか!」ジャコー取締官は地団太踏んで悔しがった。
 しかし大山参事の鋭い目は忍者を見逃さなかった。彼は人目をくらまして思いもよらぬ方向を走り去っていた。
「追わねば!」大山参事はその後を走って必死に追った。その忍者は誰も追ってこないのを確信したのか、スピードを緩め、忍びの衣装を脱ぎ、シャツとズボンの男の姿になった。そしてそのまま歩いていた。大山参事も走るのを止め、彼をつけることにした。
(忍者は彼一人ではない。きっと隠れ家があるはずだ。このままつけていけば、そこが突き止められるかもしれない。)と思っていた。だがその男は急に走り出した。
(気づかれたか!)大山参事は危険を顧みず、その後を追った。しかし角を曲がると行き止まりになっており、その先に人の姿はなかった。
「そのまま動かぬように願いたい。大山参事とお見受けした。私に何か用ですかな?」低い声が響いてきた。
「君たちに用がある。」大山参事が言った。
「マコウ人の手先が我らに何の用があるというのだ。」
「それは違う。マコウ人をはじめ異星人の非道には目に余るところがある。しかし地球自治を取り戻すためには頭を下げて行かねばならん。」大山参事は言った。
「だからと言って地球人がひどい目に合ういわれはない。我らは戦う。」
「わかっている。だから手を貸したいのだ。」大山参事が言った。
「信用できぬ。」
「わかってくれ、というしかない。今の私には君たちを信じさせるものはない。だが私の心は本当だ。」大山参事は言った。男が考えていたのだろうか、しばらく時間がたった後、
「考えておく。」その言葉を最後に声は聞こえなくなった。
「聞こえるか!返事をしてくれ!」大山参事が周囲を見渡して大声を出した。しかし返事はなかった。

「取り逃がしたのか!」サンキン局長は言った。
「申し訳ありません。しかし見回りを強化すれば捕まえることができましょう。奴らは手裏剣と分銅鎖、短刀しかもっていないようですから。煙玉も子供だまし。バイオノイドにセンサーを強化させましたのでもう逃がすことはありません。」ジャコー取締官が言った。
「うむ。それならばよい。」サンキン局長が言った。
「それより気がかりなことがあります。」ジャコー取締官が言った。
「何だ?」
「地球人の行方不明者が多数出ております。もしかしたらガンマ人の貿易商が地球人を奴隷にして運び出したのかもしれません。彼らはまたやるかもしれません。」ジャコー取締官が言った。
「それは銀河条約違反の行為だ。止めねばならん。下等な地球人でも。」サンキン局長が言った。
「それがなかなか踏み込めません。そのガンマ人は総督府と強いパイプがあるらしく、許可が出ません。何か突発的な事件があれば別ですが・・・」ジャコー取締官が言った。
「そうか。それは上の方と相談する。それまで待て。」サンキン局長は言った。

 地球代表部の執務室で大山参事はじっと待っていた。彼はあの忍者の男が来ることを信じていた。時間はもう日が変わろうとしていた。
(来ないのか・・・)大山参事は席を立とうとした。その時、何かの気配を感じた。
「どこに行かれる?」その声はあの男の声だった。
「来たか。姿を現したまえ。君は何者だ?」大山参事が言った。
「いいだろう。だが顔は見せられぬ。」部屋の隅から忍びの衣装を着た男が現れた。目元を残して顔は隠されていた。
「名前を聞こう。」
「半蔵。」
「忍者か?」大山参事が尋ねた。
「我らは闇だ。」半蔵は答えた。
「そうか。聞いたことがある。時代を問わず、表には出ず、陰から非道を正す集団があると。その者か?」大山参事は言った。
「さあ、それはどうかな。」半蔵は言った。
「いいだろう。用件を言おう。手を貸してほしい。ガンマ人の貿易商が地球人を拉致して宇宙船で運び出し、別の惑星で奴隷として売りさばいている。それを阻止して欲しい。」大山参事が言った。
「そのようなことは地球代表部で対処できるのではないか。どうして我らに頼むのか?」半蔵は訊いた。
「そのガンマ人は総督府に太いパイプを持つ。地球代表部どころか取締局でさえ手が出せないだろう。しかし君たちならできる。」大山参事は言った。
「ふふふ。成功しようが失敗しようが我関せずを貫くつもりか。我らは捨て石か。」半蔵が静かに笑いながら言った。
「捨て石は嫌か?」大山参事が言った。
「いや、よかろう。所詮、われらは闇。引き受けよう。」半蔵は言った。
「ではこれを持っていけ。」大山参事は金庫を開けた。そこから大きなカバンを取り出した。半蔵はそれを受け取って開けた。中にはペンやボタンやバッジ、ガムなどが入っていた。
「君たちの武器では到底、彼らにはが立たないだろう。レーザー刀、電子手裏剣、防御装具、煙玉などの装備だ。超小型化し、身の回りの物と同じ形にした。武器探査装置にも引っ掛からない。起動すればその物の大きさと形になる。これなら怪しまれず持ち歩けるだろう。地球に残されたテクノロジーを結集して開発した。君たちの力を十分発揮できるはずだ。」大山参事は言った。
「確かに受け取った。」半蔵はカバンを閉めた。
「家族を拉致され、多くの人が嘆き悲しんでいる。頼むぞ。だが誰にも知られぬように密かにことを行ってくれ。」大山参事が言った。
「うむ。承知した。」そう言うと半蔵は部屋の隅から姿を消していった。
(今、私にできるのはこれぐらいしかない。頼むぞ。半蔵。)大山参事は心の中で思っていた。窓の外は深い夜の闇が広がっていた。

 暗い夜の闇の中、寂れた旅館に姿を隠すように人影が入ってきた。それは半蔵だった。彼は大きなカバンを抱え、一言も話さず、顔を見せて目で合図すると、受付の老女が奥の隠し扉を開けた。半蔵はうなずくと中に入っていった。
「お頭。」半蔵は呼びかけられた。部屋の中は小さな灯りが一つ点いているだけで薄暗かった。そこに4つの人影があった。
「そろったか。」半蔵は4人の顔を見渡した。
「お頭、今度は何か大きなことでもやるのですか?」長身の男が訊いた。
「地球人が奴隷として他の惑星に売られている。我らは地球から出る前に阻止する。」半蔵は言った。
「誰なんですか?そんなことをするには!」小太りの男が訊いた。
「ガンマ人の貿易商だ。総督府につながりがあるらしく、どこも手が出せない。」半蔵は言った。
「それで私たちに?」若い女が言った。
「ああ、そうだ。地球代表部の大山参事から依頼された。」半蔵が言った。
「しかし我らの装備では・・・」小太りの男が言った。
「大山参事からこれを預かった。」半蔵は持っていたカバンを開けた。各々がそれを手に取った。ペンはレーザー刀に、ボタンは電子手裏剣に、バッジは全身をまとう防御装具になった。ガムは爆薬の類のようだった。
「これほどのものを。」小太りの男はそれぞれをじっくり観察していた。
「地球に残されたテクノロジーを集めて作った物ということだ。地球代表部も無策ではない。裏で動いておる。」半蔵は言った。
「我らは操り人形というわけですか?」長身の男が言った。
「我らはいかなる時であっても、陰から非道はただせねばならぬ。闇として。」半蔵は言った。
「これはすげえ!」若い男がレーザー刀手に取って振り回した。彼は今まで手に取ることがなかった刀に興奮しているようだった。
「使い方はわかるな。」半蔵が言った。
「はい。これで日頃の鍛錬の成果を見せてやります。」若い男が言った。
「まずはガンマ人の貿易商のアジトを探すのだ。」半蔵が言った。
「それならB宇宙港倉庫です。そこなら情報が入っています。いますぐに?」若い女が言った。
「うむ。今夜のうちに拉致されている人たちを解放する。よいな。疾風。児雷也、霞、佐助。我らは闇。この世の人たちを輝かすためにある。」半蔵は4人の顔を順に見ながら言った。4人は口を結ぶと、同時に深くうなずいた。

「手筈はよいか。」B宇宙港倉庫に数人の人影があった。彼らはガンマ人の貿易商だった。
「すべて整った。」
「だが大丈夫なのか。我らは法を犯しているのだぞ。」
「これまでも地球人を奴隷として売り飛ばしてやったが、何の問題も起きなかった。奴らは下等な人間なのだからな。」
「そうだ。下等な地球人を奴隷として売り飛ばしても誰も文句を言わないはずだ。」
「しかし取締局が・・・」
「地球取締局だろうが、地球代表部だろうか怖くない。我らに口出しはできん。」
「そうか?大丈夫か?」
「フフフ。我らには総督府のさるお方がついておる。心配はない。」
「ならば安心していいんだな。」
「それより奴隷どもを集めねばならぬ。宇宙船に乗せるため、檻ごとここに集めてくれ。」
ガンマ人たちはそう会話していた。

 6個の檻に地球人が多数、収容されていた。彼らはろくに食事も与えられず、多くは衰弱してぐったりしていた。
「俺たちは別の星に売られるらしいぞ。」ある者が言った。
「いやだ。助けてくれ。」泣きわめく者がいた。
「もう誰も助けに来ねえよ。俺たちは見捨てられたんだ。」あきらめている者もいた。檻を見張っているバイオノイドが、
「うるさい!静かにしないか!」と檻を蹴った。
「ガシャーン!」との大きな音に地球人は黙り込んだ。彼らにはもはや絶望しかなかった。

 その夜は不思議なことが起こった。いくつかの黒い影が街中を音もなく通り過ぎたのだった。だがそれをはっきり見た者はいなかった。たとえ見たとしても何かの幻と見過ごすはずだった。
それは5人の忍者の影だった。彼らは音を立てず、風さえ起さず、B宇宙港倉庫に向けて走っていた。そして彼らが通り過ぎたのち、夜の闇は不気味に静まり返っていた。

「これですべてだ。」ガンマ人の一人が言った。宇宙船の前に6個の檻が並んだ。
「売り物にならぬ奴はここで始末しよう。」檻の中を見ているガンマ人は言った。
「そうだな。今回はこれだけだが、次はもっと大掛かりにやろう。」
「積み込んだらすぐに出発だ。これで我らは大金持ちだ。」
ガンマ人は残酷な笑いを浮かべながら、作業に移ろうとしていた。すると
「そうはいかぬ。お前たちをここから出すわけにいかぬ。」いきなり倉庫に不気味な低い声が響き渡った。
「誰だ!」ガンマ人たちが辺りを見渡して叫んだ。
「お前たちの悪行、天が許そうとも我らが許さぬ。」また声が響いた。
「姿を現せ!どこにいる!」ガンマ人はまた叫んだ。すると倉庫の隅の影から人影が浮かび上がった。ガンマ人は目を細めてそれを確認しようとした。それは彼らに近づいてきた。
「何だ!貴様らは!」ガンマ人が叫んだ。彼らの前にいるのは忍び装束の男だった。しかも次々に忍者が姿を現し、5人になった。
「我らは闇。」
「世間を騒がす地球人だな。忍者の姿をした。」ガンマ人が指さして言った。
「お前たちが罪のない地球人を拉致し、しかも奴隷にして他の星に売り飛ばそうとしているのであろう。」
「そうだ。それの何が悪い。下等な地球人にはそれで十分だ!」ガンマ人の一人が言った。
「そのような非道、我らが見逃すことができようか・・・いいや、見逃すことはできぬ。お前たちの非道を止めねばならぬ。天に変わって地獄へ案内仕る。」半蔵は静かに言った。
「なんだと!たかが地球人の分際で!バイオノイドども、奴らを叩きのめせ!」ガンマ人が叫んだ。するとバイオノイドたちは剣を抜いて斬りかかってきた。
半蔵は懐からペンを出し、それをレーザー刀にして手に取った。バイオノイドが向かってきて剣を振り下ろしてきた。半蔵は横に避けて刀を横に払った。
「ズバッ!」と音がしてバイオノイドが倒れた。他の4人もレーザー刀を手に取った。それでバイオノイドたちを斬り倒していった。
「おのれ!こうなったらこの奴隷の地球人を抹殺してくれる!やれ!」ガンマ人の命令で、剣を手にしたバイオノイドが檻に近づいた。
「カキーン!」半蔵が電子手裏剣を投げた。それは戦士の剣を叩き落とした。
半蔵はさらに電子手裏剣を放った。それはすべての檻の鍵を破壊して扉が開き、中の地球人はすぐに檻の外に逃げて行った。

「B宇宙港倉庫で騒動が起きたようです。通報がありました。」ジャコー取締官のとった電話から報告があった。
「よし、これで踏み込める。行くぞ。」ジャコー取締官は部下に声をかけた。
「しかし何でしょう?こんな時間に?」部下が言った。彼らは匿名の密告電話があったため、事務所に残っていた。
「そんなことはどうでもいい。チャンスだ。これを逃すともうないぞ。」ジャコー取締官は言った。彼らは急いで外に出て行った。

 B宇宙港倉庫ではまだ斬り合いが続いていた。戦士が次々に倒されていき、ガンマ人たちは焦っていた。
「おのれ!」我慢ができなくなったガンマ人たちはレーザー剣を手に取った。
「相手が悪かったな。我らは元々、傭兵。剣の扱いには長けておる。貴様らなど斬り殺してくれるわ。」ガンマ人は長大な剣を振り回した。半蔵は刀を慎重に構えた。
「行くぞ!」ガンマ人が斬りかかってきた。半蔵は進みながら右や左に剣を避けて通り抜けると振り返った。ガンマ人がまた振り返って斬り込もうとする隙に、間合いに踏み込み、
「ズバッ!」「ズバッ!」「ズバッ!」と立て続けに斬った。
「ぐあーっ!」ガンマ人は悲鳴を上げてばったりと倒れた。
「ふうっ。」と半蔵は息を吐いた。彼の前はガンマ人の死骸と血の海が広がっていた。

「全員、動くな!」ジャコー取締官が部下とバイオノイドを連れて、B宇宙港倉庫に踏み込んだ。しかしそこに残されたのは斬り捨てられたガンマ人たちだった。慌てて部下がガンマ人を調べた。
「貿易商のガンマ人と思われます。すべて一刀のもとに斬られています。」と報告した。ジャコー取締官はそのガンマ人の顎をつかんで顔を見た。
「確かにそうだ。だが一体誰が?」ジャコー取締官は周囲を見渡した。
「あつらか?まさか?いや、あいつらに違いない。」ジャコー取締官は独り言をつぶやいた。

 地球代表部の執務室ではまだ大山参事が残っていた。彼は両手を組んでじっと何かを待っていた。そのうち彼はふと、
「終わったか。」と声を出した。するとまた部屋の隅から人影が出て来た。
「終わった。拉致された地球人は逃がした。ガンマ人は始末した。今頃、地球取締局が踏み込んでいるだろう。」半蔵は言った。
「ご苦労だった。これは報酬だ。」大山参事は札束を投げて渡した。しかし半蔵は、
「いらぬ。」とそれを投げ戻した。その札束はデスクの上に静かに乗った。
「我らは闇。金で買うことはできぬ。これを返しに来た。」半蔵は大きなカバンを持っていた。
「それは返さなくてよい。これからもお前たちの力を必要とするだろう。また頼む。」大山参事は言った。
「我らは自分の信じる道を進む者。いつも参事の頼みを聞くとは限らぬ。それでもよいか?」半蔵は言った。大山参事は半蔵をじっと見てしばらく考えた後、
「よかろう。だがお前たちは必ず私に協力する。」大山参事はニヤリと笑った。
「ふふふ。だといいがな。」半蔵もニヤリと笑った。そして部屋の隅に消えていった。

次の日、多くの家で喜びの声が上がった。行方不明になっていた家族が戻ってきたからだった。
「よく帰ってきてくれた・・・」涙を流して抱き合っていた。彼らは誰が助けてくれたのかはわからなかったが、とにかく神に感謝の言葉を捧げていた。その光景を半蔵は陰から微笑みながら見ていた。

 総督府は朝から慌ただしかった。ジャコー取締官から報告を受けたサンキン局長が慌てて駆け込んできたからだった。彼はすぐに管理官室のドアを叩いた。
「入れ。」と声が聞こえ、サンキン局長はすぐにドアを開いて中に入った。
「リカード管理官、大変です。」サンキン局長は慌てていた。その前にいるリカード管理官が右手でそれを制した。彼は若かったが、鋭く光る眼ときりっと結んだ口をしていた。
「落ち着きたまえ。話を聞こう。」リカード管理官は冷静に言った。
「はっ。実は昨夜、地球人を奴隷として売り飛ばそうとするガンマ人の貿易商が殺害されました。」サンキン局長はそう言ってリカード管理官の顔色を窺った。しかしリカード管理官は驚く様子もなく、
「そのガンマ人は重大な犯罪を行おうとしていたのだな。」と言った。
「はい。そのために殺害されたのかもしれません。しかしそれが何者によってなされたのか、今のところわかりません。捕まっていた地球人も逃げておりました。」サンキン局長が言った。その言葉にリカード管理官は少し眉を動かした。
「その者たちの正体はわからないのか?」リカード管理官が訊いた。
「はっきりわかりません。しかし部下が申すのには、先頃、街に姿を現す忍者ではないかと言っております。その者たちならばこんなことも可能かと。」サンキン局長は言った。
「忍者だと?」リカード管理官が言った。
「いえ、推測だけで。詳しくは捜査中です。わかり次第、報告します。ところで副総督への報告はどういたしましょう?」サンキン局長が尋ねた。
「ありのまま報告せよ。ただそれだけだ。」リカード管理官は冷たく言った。
「はっ。それでは私は。」サンキン局長は部屋を出て行った。リカード管理官は
「ふうっ。」とため息をつくと、すっとデスクから立ち上がった。そして日が差す窓際に歩を進めた。そこからは外の町の様子が見えた。リカード管理官は外を眺めながら、
「地球人め・・・」と呟いた。窓の下では地球の日常の生活風景が広がっていた。
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登場人物紹介

半蔵 (井上正介) 闇のお頭 笠取荘という旅館で番頭として働いている。

疾風 (佐藤 翔) 闇の者  普段はフリーの雑誌記者

児雷也 (田中 令二) 闇の者 メカ担当 普段は田中運送社の社長

霞 (渡辺 飛鳥)  闇の者のくノ一 普段は雑誌モデル

佐助 (山本 健)   闇の者  普段は地球大学新東京校の大学生。笠取荘でアルバイトをしている。

リカード管理官  マコウ人 総督府のナンバー3  地球取締局を統括している。

大山 文明 参事  地球代表部のトップ 

サンキン マコウ人 地球取締局 局長

ジャコー 地球取締局 取締官

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