第18話 ポイズ星人

文字数 1,781文字

 オーデコロンの小瓶を売る倉庫の中には数人の異星人がいた。彼らはポイズ星人だった。
「うまくいっているようだな。」
「ああ。あのオーデコロンには秘密がある。我らが苦心して作り上げた物だ。」
「実験はうまくいった。疑うことなく使っている。ビーロンという薬が隠されているとも知らずにな。」
「これなら使い物になる。心を落ち着かせるオーデコロンと思って使っているうちに知らず知らず精神障害が進む。気づいたころにはもう手遅れだ。これを厄介な星に送り込めばその星の住人はすべておかしくなる。」
「地球での実験はうまくいったからこのままずらかるか。」
「ああ、そうだな。取締局に踏み込まれても厄介だ。だがマコウ人も我らに手出しをしてこないかもしれぬがな。」
「ふふふ・・・。」
 倉庫の中には不気味な笑い声が響いていた。


 病室では美亜がベッドに寝かされていた。もう意識はなく、ただ眠っていた。病室にモニターの「ドンドンッドンドンッ・・・」という音が響き、医師が厳しい顔をして状態を見ていた。
「先生、美亜の状態はどうなんでしょう?」飛鳥が尋ねた。
「深い昏睡状態に入っています。薬物の影響でしょう。」医師は答えた。
「美亜は・・・美亜は元に戻るのですか?」
「わかりません。昏睡から意識が戻れば助かるのですが・・・このまま昏睡が続く方がほとんどで・・・」医師はそう言って病室を出て行った。飛鳥は美亜を見た。彼女は静かに眠り続けていた。
「美亜ちゃん・・・」飛鳥はこれ以上、言葉が出なかった。
(もう少し私が異変を感じていたら・・・。いえ、こんな危険なオーデコロンに頼る前に私がもっと力になってあげたら・・・)飛鳥は自分を責めていた。


「ドンドンドン!」倉庫の扉を叩く音がした。しかし中からは応答はなかった。
「地球取締局の者だ。ここを開けろ!」ジャコー取締官が声を上げた。その後ろには剣を抜いたバイオノイドが控えていた。耳を澄ませてみたが中で動きはないようだった。
(まさか・・・ここまで来て逃げられた?)ジャコー取締官は嫌な予感がしたがそれでも、
「行け!」と命令した。するとバイオノイドが扉を蹴破って中に入った。
「・・・」中はもぬけの殻だった。そこには何一つ残されていなかった。
「ここまで来て・・・くそ!」ジャコー取締官は地団太踏んでいた。


 真夜中に地球代表部の事務所に半蔵が来ていた。
「秘密裏にあの小瓶を解析した。わかったことがある。」大山参事が言った。
「そうか。それで。」
「お前たちが見た通り、中に入っている液体が人間の皮膚についてビーロンができる。そのビーロンは皮膚を通して吸収され、一時的な抗不安作用を及ぼすが神経系に対する障害も進む。その液体は人間の皮膚につかなければビーロンが検出されないような高度な処理がされている。それができるのはポイズ星の者だけだ。」大山参事はあの小瓶を半蔵に投げて寄越した。
「ポイズ星人? そのような者が地球に来ておるのか?」小瓶を受け取った半蔵が尋ねた。
「マコウ人に化けて地球に来ているのは地球代表部でも把握している。奴らは近隣の星を侵略しようとしているそうだ。多分そのために地球でこれを広めて実験をしたのだろう。」
「地球人で実験? なんということを・・・」
「ポイズ星人はそういう民族なのだ。だから銀河帝圏でも危険な星としてマークされている。それにもかかわらずそれを止めようとしない。どれほどの星が彼らの犠牲になったかわからない。」大山参事は言い終わると口をぐっと結んだ。
「ふむ・・・。だが腑に落ちぬ。我々がつかんだのだから地球取締局はどうだ? とっくにつかめているのではないか?」
「多分な。だがポイズ星人たちはもう姿をくらましたのだろう。取締局の手はもう届くまい・・・いや、ポイズ星人を恐れて手が出せぬかもしれない。もし奴らに目をつけられたらマコウ人でも被害は免れない。」大山参事が言った。
「我らは奴らを許さぬ。」半蔵は静かに言った。
「待て! これ以上、騒ぎを大きくするな。奴らはもう地球を離れようしているかもしれない。下手に刺激して地球にさらに被害をもたらすようになっては困る。」大山参事は手で制止した。
「我らは闇。この地球、いや人々を害する者をこのままにしてはおけぬ。」半蔵はそう言って姿を隠した。大山参事はため息をつくと、
「止めても無駄か・・・」とつぶやいた。
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登場人物紹介

半蔵 (井上正介) 闇のお頭 笠取荘という旅館で番頭として働いている。

疾風 (佐藤 翔) 闇の者  普段はフリーの雑誌記者

児雷也 (田中 令二) 闇の者 メカ担当 普段は田中運送社の社長

霞 (渡辺 飛鳥)  闇の者のくノ一 普段は雑誌モデル

佐助 (山本 健)   闇の者  普段は地球大学新東京校の大学生。笠取荘でアルバイトをしている。

リカード管理官  マコウ人 総督府のナンバー3  地球取締局を統括している。

大山 文明 参事  地球代表部のトップ 

サンキン マコウ人 地球取締局 局長

ジャコー 地球取締局 取締官

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