第29話 ゴール

文字数 2,092文字

「しまった・・・」半蔵たちも爆弾に気を取られるあまり、反対するマコウ人たちのことを気にかけていなかった。
「やめろ!ここにいる者たちは純粋に競技に打ち込んできた者たちだ。決してお前たちを害するものではない!」忍び装束の半蔵はそのまま彼らの前に出て行った。だが彼らは、
「そんなことは関係ない! このまま中止にさせてやる!」と叫んでいた。もはや尋常な手段では止められそうになかった。
(どうするか・・・強制的に排除するか・・・それとも・・・)半蔵は考えを巡らしていた。その時、一団の人の群れが会場に入ってきた。それはマコウ人らしかった。その先頭にいた男がいきなりマイクを手に話し出した。。
「総督府のリカード管理官だ。この大会は地球の平和と友情を願って開催されている。このような妨害は許さぬ。逆らうものは地球取締局が逮捕する。ただし大人しく観戦するなら今までのことは不問にする。」その声は凛とした厳しさがあった。反対していたマコウ人たちは下を向いてあきらめたように観客席に戻っておとなしく座った。 それを見届けてリカード管理官は大きくうなずいて貴賓席の真ん中の席に座った。大山参事が立ち上がって頭を下げてあいさつしたのを、彼は軽く頭を下げて答えていた。

       ―――――――――――――――――――――

 競技が始まった。園山大樹は100メートル競走のスタートラインにいた。スタートの準備をしながら、彼はあの忍者たちのことを思い出していた。
(あの人たちのためにも僕は全力を尽くす!)
 彼はスタートラインについた。緊張感に包まれていたが、心を平静に保ち彼は待っていた。
「バーン!」号砲が鳴った。大樹は走り出した。懸命に・・・やがてゴールが迫ってきた。
「うわー!」歓声に包まれて大樹はゴールした。彼は真っ先にゴールに飛び込んでいた。
「やったー!」大樹はガッツポーズをして喜んだ。観客は惜しみない拍手を送った。

 その後も1500メートル走、400メートル走、200メートル走、走り幅跳び、走り高跳び…多くの競技が行われた。白けた表情で座っていたマコウ人も、次第にその雰囲気に酔って熱狂していた。彼らも選手を応援し拍手を送っていた。いつしかそれは地球人の中に交じり、仲良く言葉を交わしていた。
 その光景をリカード管理官はじっと眺めていた。そしておもむろに立ち上がった。
「管理官、どちらに?」その横で競技の応援に熱狂していたサンキン局長が尋ねた。
「私は帰る。君たちはこのまま十分に楽しみたまえ。」リカード管理官は一人でその場を立ち去った。

 競技場から出て行く道を歩いているのはリカード管理官一人だけだった。他の者はすべて競技場に残って応援していた。
「ん・・・?」リカード管理官は人の気配を感じて足を止めた。その方向に顔を向けると一人の忍者が立っていた。それは半蔵だった。
「リカード管理官とお見受けした。今回のこと、お礼を申し上げる。」半蔵は頭を下げた。
「地球人に礼を言われる筋合いはない。」リカード管理官は冷ややかに言った。
「しかし大会は無事に行われ、大成功した。地球人もマコウ人も一緒になって応援して・・・。このような姿は今まで見ることはできなかった。」半蔵は言った。
「何が言いたい?」
「このような人たちの在り方がより良いとは思わぬか?」半蔵は問いかけた。
「考えておこう。」リカード管理官はそう答えた。
「我らは闇の者。闇に生まれ闇に生きし者。この世の人たちを輝かせるためにある。次に会うときには答えをいただきたいと思っている。」半蔵はそう言うと姿を消した。リカード管理官はまた歩き始めた。
「地球人め・・・。」彼はそうつぶやいていた。


「大樹、すごいじゃないか!」忍び装束を脱いだ健が大樹にお祝いを言いに行った。
「ありがとう。みんなのおかげだ。大会を開くのに協力してくれた方々と観客の方々、多くの方に感謝している。」大樹は言った。そして健に耳打ちした。
「忍者たちにもだ。」
「えっ!」健は驚いた。
「僕は見たんだ。忍者たちが密かに動き回ってくれていたことを。彼らが陰ながらサポートしてくれたんだ。」大樹は声を潜めて笑顔で言った。そこにコーチが走って来た。彼は誰かを探しているようだった。
「君たち、あの忍者を知らないか? どこへ行ったのかを。」
「いえ、知りませんが・・・」健は首を横に振って答えた。
「そうか。彼を探しているんだ。スタートのところからあの穴のところまで走ったんだが、偶然、それをストップウオッチで測っていたんだ。それがすごいタイムだ。まるで人間業とは思えない。競技会に出たら楽々、優勝だ。ぜひスカウトしたい。見かけたら私に教えてくれ!」コーチは慌ててまた走って行った。その姿を見て健と大樹は顔を見合わせた。

 競技会は無事に終わった。あれほど反対していたマコウ人は手のひらを返したかのように競技会のことを話して盛り上がっていた。そこには地球人も混じっていた。彼らはまるで古くからの仲間の様に仲良く語り合っていた。
 大山参事はその光景を見て深くうなずいていた。彼にも未来の展望が見えてきた様だった。
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登場人物紹介

半蔵 (井上正介) 闇のお頭 笠取荘という旅館で番頭として働いている。

疾風 (佐藤 翔) 闇の者  普段はフリーの雑誌記者

児雷也 (田中 令二) 闇の者 メカ担当 普段は田中運送社の社長

霞 (渡辺 飛鳥)  闇の者のくノ一 普段は雑誌モデル

佐助 (山本 健)   闇の者  普段は地球大学新東京校の大学生。笠取荘でアルバイトをしている。

リカード管理官  マコウ人 総督府のナンバー3  地球取締局を統括している。

大山 文明 参事  地球代表部のトップ 

サンキン マコウ人 地球取締局 局長

ジャコー 地球取締局 取締官

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