第10話 金属片

文字数 1,856文字

 翌日から正介たちはあちこち飛び回った。取締局の事務所を回って不審な点がないかを見て回った。どの現場にも警備が厳重で、取締局が目を光らせていた。
「何も見つからないか・・・」近くを歩いていた令二はふと足元に小さな金属片を見つけた。それは何かの部品のようだった。令二は立ち止まると、右手をポケットに突っ込んでハンカチを出した。しかしそれは右手からこぼれて地面に落ちた。
「いけねえ・・・」令二は慌ててハンカチを拾った。落ちていた金属片とともに・・・。そして顔を動かさず眼だけで周囲を伺った。
(誰も見ていない。)令二はその場から足早に立ち去り、慌てて物陰に隠れた。そしてその金属片を手に取ると、目に寄せてじっくり中を見た。それは精密な超小型の部品が詰まっていた。
「何だ?これは・・・」令二はつぶやいた。

 地球取締局の事務所の警備は警備部の担当であった。
ヤエク警備部長は部下のダバ主任を呼び出した。
「警備はどうなっている。」ヤエク警備部長が言った。
「いつも通り、バイオノイドの兵士を配備していますが・・・」ダバ主任が答えた。
「これ以上、奴らの思うままにしてはならん。警備を強化するんだ。」
「はい。わかりました。」ダバ主任は頭を下げて部屋を出て行った。しかしその口元はなぜか笑っていた。

 夜になり、取締局の事務所周りは厳重な警戒が敷かれた。いつもより多くのバイオノイドが事務所の周りをまわって警備し、急遽派遣された取締官が周囲の状況を見張っていた。夜の暗闇にいくつものライトが交差していた。
 半蔵たちは分かれて、遠くからではあるが事務所の見える場所から見張っていた。緊張して見つめるが、時間はなかなか過ぎていかなかった。
(今夜は雲によって月が隠れる夜。必ず今夜仕掛けるはずだ。)半蔵は確信していた。ただそれがどの場所なのかが問題だった。5つの事務所に絞って、それぞれが見張っていたが、外れる可能性もあった。
(狙いが分からぬ。地球人の過激派の企みか?それとも・・・)半蔵は考えを巡らせていた。
疾風や児雷也や佐助や霞もそれぞれの場所で事務所を見張っていた。それぞれが見張ることに集中していたが、児雷也だけは気にかかることがあって考え事をしていた。
(あの金属片は何だったんだ?どこかで見たことがある・・・)
 拾った金属片のことを半蔵たちにも言ったが、それが爆弾の部品なのか、もしそうだとしてもどこで作った物かは判別つかなかった。機械に詳しい児雷也にさえ、それが何であるかわからなかったのだから・・・。だがそれを以前、見ている気がしていた。
「まさか・・・」児雷也は急に思い出した。
 児雷也が考え事をしていた時間はわずかのはずだった。しかし彼がふと事務所の方を見ると、一つの人影がバイオノイドたちにも気づかれずに、事務所から出てきて走り去っていくのが見えた。
「しまった!」児雷也がその人影を追おうと隠れている場所から出た。その瞬間だった。
「ドッカーン!」と事務所が爆発した。
「きゃあ!」と悲鳴が上がり、警備のバイオノイドや取締官はあわてて周囲を駆けまわった。児雷也はその光景に呆然と立ち尽くした。
「怪しい奴がいるぞ!」その姿を取締官に見られた。
(見つかったか!)児雷也はあわてて建物の上に飛び上がって逃げた。
「追え!追え!」と取締官とバイオノイドたちが追ってきた。バイオノイドたちのセンサーは強化されており、児雷也を完全に捕捉していた。
(まずい。このままでは捕まる!)児雷也は背中に冷や汗が流れるのを感じた。
「もう少しだ!網を放て!」取締官が叫んだ。するとバイオノイドたちが捕獲網を投げつけた。それを何とか児雷也はかわしたが、その拍子に建物の屋根から足を滑らし、地面に落下した。
「落ちたぞ!束になって捕らえろ!」取締官の声が聞こえた。児雷也はすぐに起き上がったが、すぐそこにバイオノイドの手が伸びてきていた。
「ドッカーン!」児雷也のそばで煙玉が爆発した。それはセンサーをかく乱する作用も持っていたのでバイオノイドたちは右往左往した。
「行け!」児雷也の耳に声が聞こえた。それは半蔵の声だった。事務所の爆発を聞きつけてすぐに駆け付けてきて、助けの手を差し伸べたようだった。
(助かった・・・)児雷也はその煙に乗じて、すぐに屋根に飛び乗って逃げた。そしてその反対の方向の屋根に人影が浮かんだ。
「あそこだ!」取締官はその方向を指さした。児雷也が逃げられるように半蔵がおとりになってくれたようだった。取締官とバイオノイドは別の方向に走って行った。
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登場人物紹介

半蔵 (井上正介) 闇のお頭 笠取荘という旅館で番頭として働いている。

疾風 (佐藤 翔) 闇の者  普段はフリーの雑誌記者

児雷也 (田中 令二) 闇の者 メカ担当 普段は田中運送社の社長

霞 (渡辺 飛鳥)  闇の者のくノ一 普段は雑誌モデル

佐助 (山本 健)   闇の者  普段は地球大学新東京校の大学生。笠取荘でアルバイトをしている。

リカード管理官  マコウ人 総督府のナンバー3  地球取締局を統括している。

大山 文明 参事  地球代表部のトップ 

サンキン マコウ人 地球取締局 局長

ジャコー 地球取締局 取締官

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