第31話 隠された事件

文字数 3,131文字

 地球代表部の大山参事の執務室では夜遅くまで職員の出入りが激しかった。事務局は、表向きはいつもと同じように装っていたが、職員が緊張して面持ちで深刻に話し合っていた。調査課の職員が突然消えた。何者かに拉致された可能性があった。
「まずは相手の出方を見るしかありません。」
「いやいや、それでは相手のペースに乗せられる。こちらから動きましょう。」
「しかしあまりに動きが目立つと総督府に・・・」
「だがこのままでは大ごとになる。いや、もうなっている。」
「こうなったら事件を公表しましょう。」
「もしかしたらマコウ人の協力を得られるかも・・・」
職員たちは意見を戦わせていた。
「こちらの特殊機動隊を出しましょう。場所はわかっているから救出作戦は実行できます。」調査課の山根課長が言った。作戦は可能のように思えたが、特殊機動隊など出せば、総督府に事件を知らせてしまうことになる。そうなれば調査課の扱う機密情報が漏れる可能性がある・・・
 職員の議論を聞いているだけだった大山参事は、考えた挙句、やっと発言した。
「このことは機密事項に関わる。マコウ人であっても知られてはならない。この地球代表部で内々に処理しなければならない。」
「しかし、どうやって?」山根課長が尋ねた。
「少し待ってくれ。当てがある。」大山参事はそれだけ言って、職員を部屋から出した。

 それから数時間がたった。外は風の音だけがビュービューと鳴っていた。真夜中の地球代表部の建物には大山参事の執務室だけに明かりがともっていた。大山参事はきっとあの男が現れると信じていた。
「来てくれたか!」大山参事は人の気配を感じた。部屋の隅の影が盛り上がり、それが人影になった。
「やはり待っておったのか?」現れた半蔵が言った。
「ああ。頼みたいことができた。」
「それは?」
「地球代表部の調査課の職員が5名行方不明になった。探して連れ帰ってほしい。」
「詳しく話を聞かせてくれ。」
「調査部は地球にいる異星人のことを秘密裏に調べ上げる、機密を扱う部署だ。先日、ある特殊な情報を渡すと言って、ある異星人から連絡が入った。そこで職員が秘密裏に接触しようと相手の指定したアハマの宇宙港のロビーで待ち合わせた。だがそこで姿を消した。」
「そうか。それから動きはないわけか?」
「いや、そうでもない。職員は安全のため発信機のチップを身に埋めている。それもごくわずかな電波でここでしかキャッチできない。」
「ということは職員の居場所はわかっておるのだな。なぜ救出に向かわない? 地球代表部なら特殊部隊を持っているだろう。」半蔵はやや強く言った。職員を見殺しにするのかという気持ちを込めて。
「もちろん考えた。しかしそれをすることはできない。」大山参事はきっぱりと言った。
「うむ・・・それは調査課が絡んでいるからか。そこまで秘密にしなければならぬ情報を持っているのか?」半蔵は問うた。
「ああ、そうだ。特に総督府、マコウ人に知られてはならない。もし地球代表部が機密を持っていると知ったら開示を指示してくるだろう。そうなれば地球代表部の今までの苦労は水の泡だ。自治を回復するのに必要な手も打てなくなる。」大山参事は言った。
「だから我らか。あと腐れのない・・・」
「そうだ。君らなら後で何とでもいいわけができる。何があってもな。」大山参事は目を光らせた。
「相変わらず厳しいことよ。」
「どうする? 受けてくれるか。」大山参事が言った。
「よかろう。だが我らだけでは難しいことがある。アハマまでどうするかだ。」
「それはこちらで用意する。アハマまで小型のステルスホバー機を用意する。職員を救出したら、空港に用意している小型機に乗せてくれたらいい。」大山参事が言った。


 サンキン局長が総督府のリカード管理官のもとを訪れていた。
「何か地球代表部に起こったようです。」
「ほう? それは?」リカード管理官は見ていた書類から目を外してサンキン局長を見た。
「代表部は建物全体を盗聴などから防ぐように対策を立てていますが、少し漏れてきた音声などを基にして情報を得ました。アハマで職員が数日前から数名、行方不明になったようです。」サンキン局長は言った。
「本当か? それならなぜそれを通報しない。探すにしても地球取締局の協力が必要だろう。」
「そこが問題だと思われます。なにか我らに知られたくないことが・・・」
「なるほど、そうだな。奴らにも隠しておきたいことがあるというわけだな。」リカード管理官はうなずいた。
「どうしましょう? ちょっとつついてやりますか?」サンキン局長が言った。
「いや、このまま様子を見よう。何か動きがあるはずだ。それをつかんで地球代表部を問い詰めるんだ。何が起こったかを。ついでに秘密にしていることをな。」リカード管理官はキラッと目を光らせた。


 笠取荘の隠し部屋に疾風以外の4人が集まっていた。
「疾風はどうした?」半蔵が聞いた。
「連絡はついております。遅れているだけかもしれません。」児雷也が答えた。すると隠し扉が開いて疾風が入ってきた。
「遅れました。申し訳ありません。」疾風は頭を下げた。
「うむ。何かあったのか? 遅参などお前らしくない」半蔵が尋ねた。疾風は蓮の父親である峰山吾郎のことを調べていた。地球代表部の職員名簿にはないし、第4係という部署もなかった。しかしそれは表向きのことだった。地球代表部には調査課という秘密の部署があり、どうも吾郎はそこの職員のようだった。その彼がいなくなるとすると・・・そこにはきな臭い匂いがした。
「いえ、何でもありません。」疾風は答えた。半蔵は疾風をじっと見て何かを思ったが、それには触れずに話を始めた。
「地球代表部の調査課の職員が5名、アハマで行方不明になった。探し出して連れ帰ることを頼まれている。」
「調査課?」疾風から思わず声が出た。
「何か知っておるのか?」半蔵が聞いた。
「いえ、何も・・・」疾風は首を振った。しかし彼はその事件に蓮の父親が絡んでいると直感した。
「それを探し出せということですか?」佐助が尋ねた。
「いや、発信機をつけているから場所はわかっている。地球代表部がアハマまでのホバー機の用意して、救出した職員を乗せる小型機も空港に手配しておくようだ。」半蔵が言った。
「それなら何も困ることはないわ。」霞が言った。
「ただの救出作戦ですか? そこまでできるのにどうして地球代表部は動かないのですか?」児雷也が聞いた。
「あまり表立って動けぬらしい。調査部自体が機密を扱う部署だからだ。変に騒げば総督府から調べが入る。そうなればいらぬ機密情報がマコウに流れる。」半蔵は答えた。
「向こうの様子はわからないのですか?」霞が尋ねた。
「そこまでの情報はまだない。しかし発信機から場所が特定されている。多分、倉庫だ。もっと詳しい情報は現地で与えられるだろう。」半蔵は言った。
「ではいつもの手で?」児雷也が言った。
「うむ。私と佐助でかく乱する。疾風と児雷也、霞で救出しろ。いいな。」半蔵は言った。児雷也、霞、佐助はうなずいたが、疾風は違う方向を見て何か考え事をしているようだった。
「疾風! 聞いておるのか!」半蔵が声を上げた。それにはっと我に返った。
「はっ。すいません・・・」
その疾風を半蔵は厳しい目で見ていた。

 翔は外に出て星を見ていた。幼い頃、こうして父を待っていたものだった。いつ会えるかわからぬ父が帰ってくると聞かされるだけで、夜通しでも星を眺めていた。だがそのうちに目を閉じて眠ってしまっていた。朝、目覚めて起きてみるとそこに父がいて笑っていた・・・
「蓮、きっとお父さんを連れ帰る。待っていてくれ!」蓮は自分に言い聞かすようにそう言った。
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登場人物紹介

半蔵 (井上正介) 闇のお頭 笠取荘という旅館で番頭として働いている。

疾風 (佐藤 翔) 闇の者  普段はフリーの雑誌記者

児雷也 (田中 令二) 闇の者 メカ担当 普段は田中運送社の社長

霞 (渡辺 飛鳥)  闇の者のくノ一 普段は雑誌モデル

佐助 (山本 健)   闇の者  普段は地球大学新東京校の大学生。笠取荘でアルバイトをしている。

リカード管理官  マコウ人 総督府のナンバー3  地球取締局を統括している。

大山 文明 参事  地球代表部のトップ 

サンキン マコウ人 地球取締局 局長

ジャコー 地球取締局 取締官

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