第5話 地球大学

文字数 2,259文字

 地球取締局に乗り込む異星人の一団があった。それは銀河帝圏本部から派遣された文化統制部のハバル人たちだった。彼らはものおじもせず、サンキン局長の部屋に入った。
「これは、これは・・・」予期せぬ客にサンキン局長は驚きながらも平静を保ちつつ、彼らを迎えた。
「我らの役目をご存じだろう。早速、この地球で調査を行わせてもらう。」ズガン部長が居丈高に言った。
「それは・・・」
「我らの調査を止めさせる権限はないはずだが・・・」
「少しお待ちを・・・。リカード管理官と相談いたしまして・・・。」サンキン局長はなんとか即答を避けた。文化統制部は銀河帝圏の執行部でも悪名高いところだった。その星の文化を破壊するほど過激な思想矯正をするとうわさされていた。いくら保護惑星の地球であっても大きな混乱を産むと思われた。
「リカード管理官か・・・。よかろう。相談してくるといい。しかし我らは役目に従い、すぐに仕事に取り掛かる。何かあれば言ってこられよ。」リカード管理官の名前に少しひるんだものの、ズガン部長はそう言った。


 街中の老朽化したビルに地球大学新東京校があった。地球大学はマコウ人が唯一、存在を許した大学だった。総督府の監督の下、その分校が各地に立てられ、細々と教育を行っていた。
 健もその一人だった。彼はそこで異星人たちにとって都合のよい歴史などを学ぶことになっていた。だが裏では各校の地球人教師が真実を伝えていた。現代史の野々口教授もその一人だった。
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 西暦3129年、いや地球新暦9年現在、地球は銀河帝圏の保護惑星となっている。銀河帝圏について説明すると、それは銀河の有力な星で構成される組織であり、銀河全体の平和と秩序を守るため多くの星をその影響下に置いた。その帝圏首脳部は有力な星の代表から選ばれた幹部で構成される。銀河帝圏では星々を文明の発達程度によって分類している。ある星は帝圏を支える主要惑星として、またある星は帝圏を構成する独立惑星として、またある星は帝圏の管理を強化する管理惑星としてそれぞれの役目を負っている。
 10年前、地球は紛争の耐えない、まとまった政治体制のない惑星と帝圏首脳部に認識されていた。そのため帝圏が総督府を置いて、直接統治する保護惑星ということになった。いわば自治が失われた星になり、我々は異星人に支配されることになった。実際、主に地球を統治するのは主要惑星から来たマコウ人たちであり、総督府や地球取締局など主要機関が置かれた。
 地球に来たマコウ人をはじめとする異星人は、我々地球人を下等な人種と見下している。彼らは地球人の権利を次々に奪っていった。また反抗する地球人は収監され、拷問を受け、挙句の果てに死に至ることは多かった。
 また地球が保護惑星になってから銃器やレーザー刀剣の類を一掃した。地球取締局が銃器やレーザー刀剣を探知する優れた小型機器を使用し、それらを所持することは不可能になった。隠し持った者は厳罰に処せられた。地球人が反逆のために武器を使用するのを恐れたからだった。もちろんマコウ人側も銃器を持たなかった。それは地球人に奪われて使われる可能性があるためだ。その代わり金属の剣を持ったバイオノイドの兵士が配備された。その兵士が総督府など重要施設を警備し、街中を巡回して目を光らせて治安を維持していた。
 地球人はマコウ人ら異星人の支配に抗議して大々的なデモ活動、一部はテロ活動に走ったことがあった。それを弾圧するため帝圏から多数のバイオロイドの兵士が送られて、多くの血が流れた。それからさらに地球取締局により地球人の活動は徹底的に監視され、不穏な運動に対する過激な弾圧は続けられている。そのため、地球人から戦う心と独立の意志が奪われていき、その活動は下火になってきている。
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 野々口教授は学生を見渡した。そこにはあふれるような若さと大きな可能性を秘めていることを感じていた。
「だが憂慮すべきことばかりではない。この状況を変えられる可能性はある。地球新暦10年にまた帝圏の審査があり、場合によれば自治を勝ち取れるかもしれない。もっともそれには様々な条件が付けられており、それを満たすのは難しいが・・・。だが君たちのような若者が立ち上がればきっと変えられるはずだ。今は暗くてもきっと夜明けが来る。未来に希望を持つんだ!」野々口教授は熱く語っていた。


 サンキン局長が総督府のリカード管理官の部屋を訪れていた。
「文化統制部の調査団が地球に来ています。それもあのズガン部長が直接乗り込んでいます。」サンキン局長は流れる汗を拭きながら言った。
「ハバルのズガンか・・・。なるほど何か起きそうだな。」リカード管理官は静かに言った。
「そんな生易しいものではないと思われます。その星の文化そのものを否定するような者たちですから・・・。騒動が起きる前に。」
「騒動? それがどうした?」リカード管理官は落ち着き払っていた。その様子にサンキン局長は気抜けした。
「管理官は驚かれないのですか?」
「文化統制部のやり方にはいろいろ意見がある。だがそれに対してどう反応するかは地球人の問題だ。我々が干渉するものではない。」リカード管理官は言った。
「そうですか・・・。」サンキン局長はため息をついた。彼は確かにそれはそうだと思い直した。我々はこの星の取締を考えればいいのだ。この星の文化や思想がどうなろうが関係ないと・・・。

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登場人物紹介

半蔵 (井上正介) 闇のお頭 笠取荘という旅館で番頭として働いている。

疾風 (佐藤 翔) 闇の者  普段はフリーの雑誌記者

児雷也 (田中 令二) 闇の者 メカ担当 普段は田中運送社の社長

霞 (渡辺 飛鳥)  闇の者のくノ一 普段は雑誌モデル

佐助 (山本 健)   闇の者  普段は地球大学新東京校の大学生。笠取荘でアルバイトをしている。

リカード管理官  マコウ人 総督府のナンバー3  地球取締局を統括している。

大山 文明 参事  地球代表部のトップ 

サンキン マコウ人 地球取締局 局長

ジャコー 地球取締局 取締官

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