第7話 闇の動き

文字数 1,612文字

 その夜、笠取荘の隠し部屋に5人が集まってきていた。
「お頭。連行された地球大学の教員は拷問を受けていました。調査団が反抗する者を矯正するとか言って。この目で見ました。」佐助が言った。目の前の半蔵は腕組みをして聞いていた。
「文化統制部の調査団と言ったら悪名高いところです。」疾風が言った。
「確か・・・保護惑星のホコ星にも入っているはず。反抗する者たちは投獄され、すべて殺されたそうです。」児雷也が言った。
「では地球大学の教員は殺されてしまうのですか?」霞が聞いた。
「多分な・・・。お頭、こんなことがあっていいのですか!」児雷也が半蔵に問うた。
「このやり口は総督府のマコウ人以上だ。これは見過ごすわけにはいかぬ。」半蔵は重々しく言った。
「では早速、乗り込むのですか?」佐助が尋ねた。
「いや、待て。我らは闇だ。むやみに動くことはできぬ。まず地球代表部がどうするかだ。佐助は中の様子を詳しく調べろ。」半蔵は静かに言った。

 地球大学新東京校のビルの入り口はシャッターが閉じられていた。その上には「しばらく休校します・・・」と張り紙があった。街行く人たちはそれを目に止めるが、仕方がないという風にその場を離れていった。そんなことは今の地球ではよくあることではあったが、ついに教育の場にまで及んでいることに人々は失望の念をさらに強くしていった。ビルを通り抜ける冷たい風は張り紙を揺らし、落ち葉を吹き上げていた。

 文化統制部の調査団に連行された教員は牢に閉じ込められていた。そこは薄暗い地下室にあり、橙色の電灯がひとつだけがついていた。
「いつまで続くことやら・・・」教員の一人がつぶやいた。連日、厳しい取り調べと拷問を受けて全員が疲れ切ってやつれていた。このまま続けば頭がおかしくなって自己を失い、ハバル人の洗脳を受けて彼らの思うがままの操り人形になるのは確かだった。そして調査団のハバル人たちは彼らをまるで洗脳しようとでもしているかのように、何度の何度も欺瞞に満ちた偽の地球の歴史を植え付けようとしていた。
 だれもが気力を失い、あきらめの表情をしていた。だが野々口教授ただ一人だけは、まだ目に生気を宿していた。
「負けるわけがない。私が倒れても真実はきっと伝わっていく・・・。」

 夜中の地球代表部の事務局はひっそりと静まり返っていた。その中でまだ電気がついている部屋があった。そこは大山参事の執務室だった。
「ん?」大山参事は何かの気配を覚えた。彼はまたあの男が来たと感じていた。
「半蔵か?」大山参事が部屋を見渡すと、暗闇から人影が現れ、次第にはっきりした形になった。それは確かに忍び装束の半蔵だった。
「大山参事にお聞きしたい。地球大学新東京校のことは御存じであろう。」半蔵が聞いた。その言葉に大山参事は手に持っていた書類を机に置いた。
「知っている。」大山参事は静かに答えた。
「ではなぜこのままにしておく? 教員は今頃、ひどい拷問にあっている。彼らはこの地球の未来のために学生たちに教育をしてきた者たちだ。ひどい弾圧に会うのを覚悟してまで。」半蔵は言った。
「相手は銀河帝圏の文化統制部だ。総督府でも干渉できない。まして地球代表部では抗議すらできない相手だ。」大山参事は言った。
「だからといってこのままにしておくというのか?」
「…今は耐えねばならん。自治を取り戻す審査が来年には来る。銀河帝圏の指導部には従わねばならない。」大山参事は目を背けていった。
「しかしこのままでは教員たち、いや地球の未来を憂う人たちはすべて消されてしまうだろう。我らは救いに行く。」半蔵は言った。
「いかん。調査団を刺激してはならん。」大山参事は止めた。
「我らがやらねば誰がやるというのだ。我らは闇だ。人知れずことを行うのみ・・・」そこで半蔵の姿はすうっと消えた。
「半蔵!」大山参事が呼びかけたがもう返事はなかった。あわてて辺りを見渡したが夜の暗闇が広がるばかりだった。
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登場人物紹介

半蔵 (井上正介) 闇のお頭 笠取荘という旅館で番頭として働いている。

疾風 (佐藤 翔) 闇の者  普段はフリーの雑誌記者

児雷也 (田中 令二) 闇の者 メカ担当 普段は田中運送社の社長

霞 (渡辺 飛鳥)  闇の者のくノ一 普段は雑誌モデル

佐助 (山本 健)   闇の者  普段は地球大学新東京校の大学生。笠取荘でアルバイトをしている。

リカード管理官  マコウ人 総督府のナンバー3  地球取締局を統括している。

大山 文明 参事  地球代表部のトップ 

サンキン マコウ人 地球取締局 局長

ジャコー 地球取締局 取締官

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