第30話 男の子

文字数 1,858文字

 地球の地方都市アハマ、ここには銀河帝圏の各惑星につながる宇宙港があった。多くの異星人でごった返すロビーに、場違いな地球人の一団がいた。彼らは誰かと接触しようとしていた。
「アールフォー。」そこにマコウ人がそばに寄ってきて密かに声をかけた。
「ベータツー。」地球人の一人が答えた。そして彼は後辺りを見渡した。辺りは足早に歩く異星人だけで、この様子を監視している者はいないようだった。そのマコウ人が大きくうなずいた。そしてついて来いという風に歩き出した。その後を地球人の一団も歩き始めた。
 その一行は慌ただしいロビーを抜け、寂しく人気のない倉庫棟の方に進んでいた。やがてある倉庫に入っていった。その様子をサングラスをかけた男が陰から見ていた。
「これでいい・・・」彼の口元から笑みがこぼれた。

 翔は雑誌の取材のため街に出ていた。
「雑誌の取材でちょっとお話を・・・」
街行く人に声をかけるが、今日もことごとく無視されていた。
「今日もおけらか・・・」そう呟いた翔はあきらめて行こうとした。その時、一人でいる小さな子供に出会った。その男の子はとぼとぼと下を向いて歩いていた。周りに大人の姿はなく迷子のようにも見えた。
「僕、どうしたんだい?」気になった翔はその子のそばに行ってみた。その子は翔の顔も見ようともせず、ただ黙っていた。
「迷子になったのかい?」翔は尋ねた。
「違うよ!」その子は迷子という言葉に反応して強く否定した。
「それは悪かった? 僕は佐藤翔。君の名前は?」
「蓮・・・峰山蓮。」
「どうしてこんなところに一人で来ているの?」
「うん。お父さんに…お父さんに会いに来たんだ!」蓮ははっきり言った。
「そうか。お父さんはどこにいるの?」
「地球代表部・・・そこに勤めているんだ。でも・・・」蓮は顔色を曇らせた。
「でも・・・どうした?」
「帰ってこないんだ・・・ずっと・・・だから・・・」蓮は涙をこらえていた。
「そうか・・・。お父さんが勤めているところに聞いてみようか?」
「ううん。地球代表部に行ってみたけど、そんな人いないって。おばあちゃんは、お父さんは仕事で遠くに行っているから帰ってこないって言っているけど、そんなの嘘だ。こんなに長く帰ってこなかったことがないもの。」蓮は翔に強く訴えていた。翔は何か訳アリとは思いつつも、ここまで聞いてしまった手前、そのまま蓮を放っておくことはできなかった。
「家の人が心配しているよ。お母さんは?」
「死んじゃっていないよ。おばあちゃんの家にいるの。」
「ごめんね。嫌なことを聞いて・・・」
「いいんだ。寂しくなんかないよ。お父さんがいてくれたから・・・」
「そうか・・・」彼は自分の幼い頃の境遇と照らし合わせて蓮を見ていた。
「いなくなったお父さんは僕が探すんだ!」蓮は言った。
(この子はしっかり生きようとしている・・・何かわけがあるかもしれないが力になってやろう。)
「じゃあ、僕に任せてくれないか? 僕は記者なんだ。お父さんを探すよ。なんという名前なんだ?」
「峰山吾郎。地球代表部の第4係って聞いたんだ。」
「そうか。それならすぐわかるよ。家まで送っていくよ。」
翔は蓮を家まで送っていった。かなり距離があったが、蓮は小さいのに自分の家までの道を覚えていた。翔は蓮と話しながら昔のことを思い出していた。

 翔は幼い時から祖母のいる里に預けられていた。そこは自然豊かな山の中だった。老人と女子供の多い里で、働き盛りの男は少なく、里の者はわずかな田畑を耕して生活をしていた。翔は古い藁葺き屋根の家に祖母と二人で暮らしていた。母は物心ついたころからいなかった。でも寂しいと感じたことはなかった。里の者が皆、彼をかわいがってくれたからだった。
 ただ彼にも不思議に思うことがあった。それは父の存在だった。父はどういうことをしているのか小さい頃は理解できなかった。ふいに帰ってきて、顔を見たかと思ったら、すぐに出て行った。
「お父さんは何をしているの?」と祖母や周りの者に聞いたことがあったが、
「大事なお勤めをしているんだよ。」と答えるだけだった。
 ただ父は翔にとって大事な存在だった。短い時間であったが翔に深い愛情を注いでくれていた気がしていた。だが・・・

「ここだよ。僕の家は。」蓮が一軒の家を指さした。
「そうか。じゃあ、待っていてくれ。お父さんのことを調べてくるから。」翔は言った。
「約束だよ。きっと探してくれるって!」
「ああ、必ず家に連れ帰る。それまで君は家で待っていてくれ。ここは任せてくれ。」翔は蓮にそう約束した。
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登場人物紹介

半蔵 (井上正介) 闇のお頭 笠取荘という旅館で番頭として働いている。

疾風 (佐藤 翔) 闇の者  普段はフリーの雑誌記者

児雷也 (田中 令二) 闇の者 メカ担当 普段は田中運送社の社長

霞 (渡辺 飛鳥)  闇の者のくノ一 普段は雑誌モデル

佐助 (山本 健)   闇の者  普段は地球大学新東京校の大学生。笠取荘でアルバイトをしている。

リカード管理官  マコウ人 総督府のナンバー3  地球取締局を統括している。

大山 文明 参事  地球代表部のトップ 

サンキン マコウ人 地球取締局 局長

ジャコー 地球取締局 取締官

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