第2話 表の顔

文字数 2,066文字

 街では忙しそうに人々が歩いていた。
「私はフリー記者の佐藤翔と言います。ここで起こった事件についてちょっとお話を。」背の高い男が名刺を差し出して、歩いている女性に声をかけた。その翔と名乗った男はラフな格好をした体格のいい男だった。
「いえ、忙しいので・・・」その女性は忙しそうに歩いていった。
「やれやれ、今日は朝から誰も止まってくれないな。何か記事をもっていかないと編集長にどやされるぞ。」翔はため息をつきながらつぶやいた。
 その通りには数人の大学生が楽しそうに話しながら歩いていた。大学からの帰りのようだった。
「つまらない授業だったよ。」
「気晴らししたいところだな。」
「これからカラオケでも行かないか?」
「それいい。行こう!」
「健はどうする?」
「俺はパス。今日、バイトなんだ。」健と呼ばれた若い男は言った。彼は小柄で細身で優しい顔をしていた。
「そうか、つまんないな。」
「すまん。また今度行くよ。じゃあな。」健は手を振って走り出した。
 その通りにはおしゃれなビルが立ち並んでいた。そのビルの一つに撮影スタジオが入っていた。そのスタジオではファッション雑誌の撮影が行われていた。フラッシュがまぶしいほどたかれ、ベテランのカメラマンが、
「いいね!そうそう!」と話しかけながら「カシャッ!カシャッ!」軽快にシャッターを切っていた。その前には売り出し中の若いモデルが、あふれんばかりの笑顔をカメラに向けてポーズを変えていた。そして彼女の後ろにはややベテランとなった、3人のモデルがにぎやかしのためにポーズを取っていた。それが気に入らなかったのか、
「あ、君たちはもういいから。」カメラマンが手で合図しながら言った。その3人のモデルは顔を見合わせて不満そうにその場を出た。若いモデルは自慢げにまたポーズを取り、フラッシュを浴びていた。それを3人のモデルは舌を出して、つまらなそうにスタジオから出た。通りを歩きながら、
「今日はもう終わりか。こんなんじゃ売れないわ。」モデルの一人が言った。
「そうね。転職でもしようかしら。もう若くないしね。飛鳥はどうする?」もう一人が訊いた。
「私ね、もう少し頑張ってみようかな。」飛鳥は伸びをして答えた。彼女は三流モデルだった。雑誌の片隅に載ることはあっても、不思議なことに誰にも気づかれなかった。それはまるで気配を消して紛れ込んでいるようにも見えた。
 3人が歩く通りに面してこじんまりした事務所があった。そこは田中運送会社という小さな会社だった。中では社員が忙しそうに働いていた。そこに小太りの男が辺りを見渡しながらこっそり入ってきた。それをベテランの社員が目ざとく見つけて、
「社長、どこで油売ってはったのですか。猫の手も借りたいというのに。」社長に食ってかかっていた。
「ちょっと休憩に・・・」社長はバツの悪い顔をした。
「ちょっともぱっともありまへん。暇やったら配達でも行きなはれ。もう、先代がいてはったらなんと言われるか・・・令二さん、いいですか・・・」いつものように説教を始めるのであった。令二は頭をかいてそれを聞いていた。

「正介!しょうすけ!掃除が終わったら、玄関に来ておくれ。お客様がもうすぐお着きになるから。」受付にいる女将が大きな声を上げた。
「うるせえババアだな。すぐに行くよ。」正介は慌てて階段を下りて行った。ここは町はずれにある、寂れて古くなった旅館の笠取荘だった。ここに久しぶりに客が訪れた。
「さあ、こちらですよ。お荷物をお持ちしましょう。」旅館の半纏を着た正介は頭を下げて愛想よく言った。彼は客を案内して行った。
「しっかりやっているんだけど、お客様が少ないわねえ。」女将がつぶやいた。
「女将さん、来たよ。」そこに健が入ってきた。
「おや、健。よく来てくれたねえ。ちょっと人手がいるから頼むわ。」女将が笑顔で言った。
「じゃあ、着替えてくるよ。」健はそう言うと、靴を脱いで上がっていった。厨房では古株の菊さんが料理を作っていた。通りかかった健が、
「おばあちゃん。こんにちは。」と少し頭を下げると、不愛想な菊さんも頭を下げた。その時、突然、
「うわー!」という声とともに大きな音がした。健が振り返ると、階段の下で正介が腰をさすっていた。
「何だい!正介。」女将さんが慌てて飛び出してきて訊いた。
「すいません。ちょっと階段で足を踏み外して。」正介が言った。ここの階段は古くきしんでいた。
「気を付けておくれよ。お客様に何かあったらどうするんだい。」女将が言った。
「すいません。大丈夫ですか?私が落ちそうになったのを助けてくれたものですから。」階上にいる客が心配そうに言った。
「お客様こそ大丈夫ですか。この番頭はこんなことしょっちゅうですから、気にしなくても大丈夫ですよ。」女将が言った。
「ええ、私は大丈夫です。さあ、お部屋にご案内しましょう。」正介は笑顔で階段を上っていった。
彼らは社会に溶け込み、普通の人としてありふれた日常生活を送っていた。だが彼らは疾風、佐助、霞、児雷也そして半蔵の名を持つ闇の者だった。
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登場人物紹介

半蔵 (井上正介) 闇のお頭 笠取荘という旅館で番頭として働いている。

疾風 (佐藤 翔) 闇の者  普段はフリーの雑誌記者

児雷也 (田中 令二) 闇の者 メカ担当 普段は田中運送社の社長

霞 (渡辺 飛鳥)  闇の者のくノ一 普段は雑誌モデル

佐助 (山本 健)   闇の者  普段は地球大学新東京校の大学生。笠取荘でアルバイトをしている。

リカード管理官  マコウ人 総督府のナンバー3  地球取締局を統括している。

大山 文明 参事  地球代表部のトップ 

サンキン マコウ人 地球取締局 局長

ジャコー 地球取締局 取締官

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