第24話 警備ロボット

文字数 2,627文字

「吐け!」縛り付けられた人たちをバイオノイドが木刀で叩きつけていた。
「お。お許しを。私は知らないのです。」叩かれている男が弱々しく答えた。彼はあざだらけで口から血を流していた。
「嘘をつけ!これでもか!」ペリー取締官は自ら木刀を手に取って叩いた。その目には狂気をはらんでいた。
「ヒーッ!ヒーッ!」男が声を上げた。それが聞こえる牢の中の者は震えあがった。

「儂ら、どうなるのだろう。」
「あいつらになぶり殺される。」
「助けてくれ!」口々に声を上げていた。

「うるさい!静かにしないと叩きのめすぞ。次はどいつだ!」ペリー取締官は鬼のような形相で叫んだ。そこにはマーサに向けていた優しい表情は微塵もなかった。
「フフフフ・・・」笑い声が響いた。
「何者だ!」ペリー取締官は辺りを見渡した。ここには逮捕した者とバイオノイドしかいないはずだった。だがそれとは違う方向から声が聞こえていた。
「出て来い!」ペリー取締官が叫んだ。すると隅から人影が沸き上がり、彼の方に進んできた。ペリー取締官が目を細めて見ると、それは忍び装束の男だった。
「来たか!貴様があの忍者だな! 一人だけか?」ペリー取締官は言った。するとあと4つの人影も現れた。
「我らは闇。闇に生まれ、闇に生きる者。何の罪もない人たちを捕まえて拷問にかけるとは誰が許そうか・・・。たとえ天が許しても我らが許さぬ。」半蔵が言った。
「貴様らこそとんだ火に入る夏の虫だ。この時を待っていた。貴様たちを叩きのめしてこの牢に入れてやる。さあ、行け!」その合図でバイオノイドが忍者たちに向かって来た。
半蔵はレーザー刀を抜いた。剣を振り回して向かってくるバイオノイドを一刀のもとに斬り捨てた。他の4人も戦士を斬り倒した。それから次々に戦士が現れて襲い掛かってきたが、5人の忍者はすべて倒していった。
「おのれ! だがここまでは想定内だ。貴様らをとらえるため準備したのだ!」ペリー管理官は近くのパネルを操作した。すると近くの機械が動き出した。
「機械には敵うまい!」それは遠隔操作の警備用ロボットだった。ドグマ副総督に願い出てこんなものをマコウから取り寄せたのだった。人工知能を搭載したこのロボットは5人の忍者を侵入者と認識したようだった。左右のハサミを彼らに向かって振り回した。
「降伏するなら早い方がいい。そうしないと痛い目に合う、いやこのロボットに殺されてしまうぞ。」ペリー取締官は忍者たちを見てそう言った。
「こんなもので我らが参ると思うのか!」半蔵は言った。だがロボットの動きは早く、半蔵たちは何とかそのハサミから逃れるのが精一杯だった。佐助が何とか隙を見て電子手裏剣を放った。だが
「カキーン!」とはね返された。
「お頭、左右から挟み打ちに!」疾風が刀を構えた。
「いや、こいつにはレーザー刀も効果がないだろう。」半蔵が言った。
「しかしこのままではやられてしまいます。」霞が言った。
「児雷也!何かわかるか?」半蔵が聞いた。
「我々5人をロックしています。ロボットの頭脳を混乱させれば何とかなると思います。あれを使いましょう」児雷也はそう言って佐助に小さな箱を投げて渡した。
「よし、佐助。頼むぞ。」半蔵は佐助に目配せをするとロボットの前に立った。他の4人も並んで立った。ロボットはそれぞれにハサミを突き出した。それをそれぞれがレーザー刀で受け止めた。佐助以外は・・・。佐助は身構えもせずただ突っ立っていた。そこにもう一本のハサミが飛んできて佐助の体を貫いた。
「バーン!」鋭い音が響き渡った。
「やったか!」ペリー取締官は声を上げた。しかしよく見るとそれは人の体ではなく、ダミーだった。変わり身の術で本物の佐助は姿をくらましていた。
「どこだ!」ペリー取締官が見渡すと、佐助はロボットの真上に飛んでいた。そして手に持った箱をロボットの頭脳に引っ付けた。その箱の中の装置は電波を発していた。
「クイーン!」おかしな音がしてロボットの動きがおかしくなった。ロボットの人工知能が狂わされていた。動きが全く制御できなくなり、ハサミをあちこち振り回し始めた。
「今のうちだ。みんなを外に。」半蔵が言うと、他の忍者たちが捕まっていた人たちの拘束を解いてビルの外に脱出させた。
「こんなことはあり得ない・・・」ペリー取締官は必死にパネルを操作して何とかロボットのコントロールを取り戻そうとしていた。
「もはやそれはお前の思うようには動かぬ。逃げねば巻き添えを食うぞ。」半蔵が言った。
「うるさい! 貴様らをこのまま行かせるか!」ペリー取締官はパネルを操作し続け、その場を動こうとしなかった。だがロボットの暴走は止まらず、彼の方に向かってきた。鋭いハサミを振り回しながら・・・。
「そんなはずでは・・・そんなはずでは・・・」ペリー取締官は茫然と立ち尽くしていた。数本のハサミが彼に迫ってきた。
「危ない!」半蔵が飛び込んできて助けようと手を出した。しかしペリー取締官は
「貴様らの助けなど・・・俺は手柄を立てるんだ!」とそれを振り払った。敵に助けられるなど彼のプライドが許さなかった。しかし彼の背後からロボットのハサミが襲ってきていた。
「うわー!」ハサミに貫かれたペリー取締官は断末魔の叫びを上げた。
「これはいかん!」半蔵は飛び上がるとロボットを操作するパネルを刀で叩き壊した。するとロボットは止まり、ペリー取締官を貫いたハサミは引き抜かれた。
 血だらけになったペリー取締官はその場に倒れた。だが彼は何とか起き上がろうともがいていた。
「俺は帰るんだ。偉くなってマコウに帰るんだ・・・」ペリー取締官の手にはあのロケットが握られていた。そこから出たマーサの映像は優しく彼に微笑みかけていた。

「地球でのご公務は大変でしょう。優しいあなたのことだからマコウの方はもちろん地球の人にも慕われていると思います・・・」

ペリー取締官はそれに笑顔で答えながらやがて眼を閉じて動かなくなった。
「この男・・・」半蔵はつぶやいた。彼にはペリー取締官が全くの悪人に思えなかった。
(一体、何がこの男を変えてしまったのか・・・)半蔵は静かに手を合わせた。

「ピーポーピーポー」遠くからサイレンの音が聞こえてきた。第3部局のビルの異変を探知して取締局の車両が向かってきているようだった。
「さらばだ。」半蔵はそう言うと、仲間とともにさっと姿を消した。後には安らかな顔をして横たわるペリー取締官の亡骸が残されていた・・・。
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登場人物紹介

半蔵 (井上正介) 闇のお頭 笠取荘という旅館で番頭として働いている。

疾風 (佐藤 翔) 闇の者  普段はフリーの雑誌記者

児雷也 (田中 令二) 闇の者 メカ担当 普段は田中運送社の社長

霞 (渡辺 飛鳥)  闇の者のくノ一 普段は雑誌モデル

佐助 (山本 健)   闇の者  普段は地球大学新東京校の大学生。笠取荘でアルバイトをしている。

リカード管理官  マコウ人 総督府のナンバー3  地球取締局を統括している。

大山 文明 参事  地球代表部のトップ 

サンキン マコウ人 地球取締局 局長

ジャコー 地球取締局 取締官

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