第9話 爆発

文字数 2,293文字

 月のない夜だった。不気味に静まり返った街にいきなり、
「ドッカーン!」と爆発音が響いた。それは地球取締局の事務所の一つが爆破された音だった。爆風で周囲の建物の窓ガラスは飛び散り、事務所の建物は燃えて煙を吹きだし、内部は完全に破壊されていた。もちろん中にいた人たちは怪我を負った。そこにはマコウ人だけでなく多くの地球人も含まれていた。
「ううっ・・・」彼らは苦しげな声を発し、血だらけになりながらも助けを呼ぼうと必死に外に這い出してきた。
「大変だ!」「救急車だ!」「とにかく助けろ!」集まってきた人たちは大騒ぎをしながらも何とか助けようとしていた。暗闇の中にサイレンが鳴り響き、辺りは騒然としていた。
 それを見て足早に立ち去る男がいた。彼は真っ青な顔をして震えていた。


「まいど!田中運送社です。」令二は建物の入り口から声をかけた。そこは山根機械工業という小さな工場だった。古ぼけた看板に崩れかけた壁、電灯にはクモの巣が張っていた。
「お荷物です。」令二はまた声をかけた。だがまたしても返事はなかった。彼が持ってきたのは小さな段ボール箱だった。それは見た目以上に重さがあり、伝票では精密機器と書かれていた。
(とにかく配達を終わらせなくちゃ・・・)令二は開いている入り口からそっと中の様子をうかがった。人の気配は確かにしており、中で機械が動く音は聞こえていた。
「中に入りますよ。失礼します。」令二は工場に入ると、音のするパーテーションの奥をのぞいた。
 そこには一人の男が製造機械に必死に向き合っていた。小さな精密機械を作っているようだった。他に人はおらず、その機械以外にはただ机は2つがあるだけで、中はがらんとしていた。
「お荷物です!」令二はその男に声をかけた。すると男は令二の声に気付いて、
「ありがとう。そこに置いて。」と言って顔を上げた。
「あっ!圭吾か!」令二はその男の顔を見て驚きの声を上げた。その男も令二を見て、
「令二じゃないか!久しぶりだな。」と目を丸くして言った。久しぶりの親友の再会だった。
「お前、卒業してどうしていたんだ?」令二が尋ねた。
「俺は細々と電子機械を作って売っているよ。なにせ、保護惑星になって以来、大したものが作れなくなったからな。」圭吾が言った。確かに机の上にある物は過去の遺物というべき、電子バルブ装置だった。
「お前ほどの腕があるのに、もったいないな。」令二が言った。
「仕方がないよ。地球がこんなになったのだから。それよりお前はどうしているんだ?お前も変わった物ばかり作っていたじゃないか。」圭吾が言った。
「俺は親の跡を継いだだけだ。しがない運送会社をやっている。」令二は言った。
「そうだったのか。とにかくまたゆっくり話でもしよう。今はちょっと忙しくしていてな。」圭吾が言った。確かに工場内には様々な部品が置かれていた。その中には見慣れない電子部品もあった。電子バルブの製造だけではないようだった。
「そうだな・・・」令二が言いかけた時、ポケットの携帯電話が鳴った。
「ちょっとすまん。」令二が電話に出ると、
「社長!どこをほっつき歩いているんでっか!早く帰ってきなはれ!配達が混んでいるんでっせ!」長山専務の大きな声が聞こえてきた。令二は耳を押さえながら電話を切った。
「俺も行くよ。じゃあ、またな。」令二は言った。


 総督府の管理官室にサンキン局長が報告に来ていた。それは先日の地球取締局関連の事務所が爆破された件だった。
「爆弾犯はまだ捕まっておりません。ただいま捜査中です。」サンキン局長はリカード管理官に言った。彼は緊張で額から汗を流していた。
「犯人の目星はついていないのか?」リカード管理官は尋ねた。その目は鋭くサンキン局長をとらえていた。
「地球自治運動の過激派ではないかと思っております。」サンキン局長は額の汗をハンカチで押さえながらそう答えた。しかしリカード管理官はその答えに納得がいっていないらしく首をひねった。
「ふむ・・・。だがそれではあまりにも短絡すぎる気がする。他の線は?異星人が関わっていないのか?」
「まさか・・・そんなことをやって喜ぶ奴はいないでしょう。」サンキン局長は大袈裟な身振りで否定した。だがリカード管理官には何か引っかかるものがあった。
「とにかく犯人を捜せ。先入観にとらわれずにな。」


 もう夜が更けていた。地球代表部のビルの1室だけがほのかに明かりがついていた。その執務室では大山参事が机の上に両手を組んで、誰かが来るのを目を閉じてじっと待っていた。そこは不気味なほど静まり返っていた。
「この半蔵を待っているのか?」いきなり部屋に声が響いた。大山参事が目を開けると、部屋の隅から人影が現れた。それは紛れもなく忍び姿の半蔵だった。
「半蔵。よく来た。頼みたいことがある。」大山参事が早速、本題に入った。
「取締局の事務所の爆破のことか?」半蔵が尋ねた。
「そうだ。今だに犯人の目星がつかん。誰が、何のためにしたのか、探って欲しい。当局は地球自治運動の過激派が犯人だと思っている。このままでは地球自治運動に支障が出る。」大山参事は言った。
「犯人を見つけてどうするのだ。取締局に通報でもするのか?」半蔵の目が光った。
「それはわからん。犯人が分かった時点で考える。」大山参事はその目を避けるように視線を外して言った。
「ふむ。そうか。それは大山参事らしい。」半蔵が言葉に含みを持たせた。
「それは皮肉か。半蔵。」大山参事はニヤリと笑った。
「いや、それもよかろう。しかし我らの考えと同じとは限らぬかな。」半蔵はそう言って姿を消した。辺りは元の静けさに戻った。


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登場人物紹介

半蔵 (井上正介) 闇のお頭 笠取荘という旅館で番頭として働いている。

疾風 (佐藤 翔) 闇の者  普段はフリーの雑誌記者

児雷也 (田中 令二) 闇の者 メカ担当 普段は田中運送社の社長

霞 (渡辺 飛鳥)  闇の者のくノ一 普段は雑誌モデル

佐助 (山本 健)   闇の者  普段は地球大学新東京校の大学生。笠取荘でアルバイトをしている。

リカード管理官  マコウ人 総督府のナンバー3  地球取締局を統括している。

大山 文明 参事  地球代表部のトップ 

サンキン マコウ人 地球取締局 局長

ジャコー 地球取締局 取締官

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