第28話 妨害

文字数 2,409文字

 大会事務局には地球代表部から大山参事が来ていた。今日の開会式に出席して、開会宣言を行うことになっていた。
「大変です! 競技場に爆弾を仕掛けたとメッセージが届いています。」そこにいきなり係員が飛び込んできた。
「爆弾だって!」関係者は色めき立った。このタイミングでこんなものが届けば中止か延期しかない・・・ただし延期は中止を意味する。地球上のいたるところから来たアスリートたちはそんなに長くこの地に滞在できなかった。
「うむむむ・・・」大山参事は頭を抱えていた。彼はこの大会に賭けていた。これが成功したなら地球人に勇気と元気を与えられると・・・
「心配はいらぬ。」大山参事の耳に声が聞こえてきた。それは半蔵の声だった。大山参事は口元を手で隠しながら小さな声でささやいた。
「どうするのだ?」
「爆弾を見つけて処分する。多分、警備の隙をついて仕掛けたのであろう。だがそちらから提供された爆弾探査器がある。」半蔵の声がまた聞こえた。
「しかしそれはそばに寄らねばわからないぞ。」
「それで十分だ。もう仲間が始めている。参事はそのまま開会式に臨んでいただきたい。」半蔵の声はそれで聞こえなくなった。
(果たしてそれで安全なのか・・・)大山参事は迷ったが、半蔵の言葉を信じることにした。

 いよいよ開会式が始まった。セレモニーが行われ、選手入場となった。辺りは華やかな雰囲気に包まれていた。
「心配していましたが、マコウ人の妨害もなく良かったです。」貴賓席に座る大山参事に大会委員長が笑顔で言葉をかけた。
「はい。本当に。」大山参事も笑顔で返した。しかし大山参事は不安を抱えていた。爆弾を仕掛けたとの脅迫したメッセージを、無理やりガセと判断して大会を強行させた。本当であったら大変なことだ。後は半蔵たちの活躍を祈るしかない。
(頼むぞ。)大山参事は言似るような気持だった。

 一方、半蔵たちは大会関係者や観客に見つからないように小型の爆弾探査機を持って調べていた。
「4つ目です。」佐助から連絡が入った。
「一体いくつあるんでしょう?」児雷也が聞いてきた。
「それはわからぬ。できるだけ探すんだ。」半蔵は言った。マコウの民間人が置いたもので武器探査装置にかからなかったものだから、そんなたいそうなものではないと半蔵は見ていた。しかしそれがもし爆発してしまえば競技場にいる人たちはパニックに陥る。それだけは避けなければならない。
 半蔵は器具の置いてある古いプレハブに入った。物音ひとつしなかったが、彼は人の気配を感じていた。警戒しながら少しずつ中に足を踏み入れていると、
「ガシャン!」と音を立てて入り口の扉が閉められた。そこには一人のマコウ人が立っていた。
「お前か! 大会を妨害しようとしているのは!」半蔵は睨みつけた。
「そうだ! こんな大会などぶっ潰してやる! もうすぐ爆弾が爆発する! お前はここで見ていろ!」そのマコウ人は例の貿易商だった。
「爆弾は我らが処分する。」
「できるかな? どこに何個あるか、お前にはわかるまい。」
「ならば聞くまで!」半蔵はマコウ人に近づこうとした。しかしそのマコウ人は3体のバイオノイドを出現させていた。
「俺には近づけないだろう。」マコウ人はニヤリと笑った。しかし半蔵はゆっくり近づいてきていた。その恐れを知らぬ姿はマコウ人にとって不気味な姿だった。
「いけ!」マコウ人が命令するとバイオノイドが半蔵に迫ってきた。しかし半蔵は慌てもせず。バイオノイドの拳や蹴りを避け、素早く当て身をして倒していった。半蔵の鮮やかで素早い身のこなしに、逃げられないと悟ったマコウ人はへなへなと腰が抜けてしまった。半蔵はそのマコウ人の胸ぐらをつかんだ。
「爆弾の在りかをいえ! すべてだ!」半蔵はそのマコウ人を締め上げた。するとすぐに
「い、言う・・言うから許してくれ。爆弾の場所は・・・の5つだ。もうすぐ爆発するぞ!」マコウ人はおびえながら答えた。
「5つ目はスタート場所の椅子の下か! 佐助! 急げ!」半蔵は無線機で佐助に連絡した。

 佐助はその近くにいたが、そこは観客から姿を隠せる場所ではなかった。だが、
(仕方がない! 姿をさらしてしまうがこのままでは危ない!)と佐助は判断して、忍び装束のまま飛び出した。観客はその姿を見て、
「あれ! 忍者?」と騒ぎ始めた。しかしすぐに演出の一部だと思ったようで大きな騒ぎにならなかった。
 佐助は椅子の下の爆弾を見つけた。それは爆発までもう後、15秒ほどしかないようだった。顔を上げた佐助の先には競技場の地下の下水タンクに通じる穴があった。そこに投げ込めば分厚い壁のタンクで被害は最小限で抑えられる・・・。
 佐助は爆弾を手にもって走った。そのスピードは常人を越えていた。あまりの速さに近くで見ていた短距離のコーチがストップウオッチを反射的に押していた。佐助はその穴のそばまで走ってすぐに爆弾を投げ入れて、その場で身を伏せた。
「ボン!」少し音がしてかすかな煙が上がっただけだった。爆弾の威力は花火程度のものだったようだった。佐助はほっと息をついて、目立たないようにすぐに姿を消した。
 観客はいつまでも佐助に気を取られておらず、選手入場の方に目を向けていた。

 密かに会場に紛れ込んでいたマコウ人が集まってきていた。彼らは、貿易商のマコウ人がすごいことをやってのけると思っていたが、爆弾の爆発する音は何も聞こえず、大会は順調に進んでいることに大いに不満があった。
「いつまでたっても何も起きない! こうなったら我々が正面から妨害してやる!」彼らはプラカードを持って堂々と観客席から下りて行った。
「地球陸上反対!」
「地球人はここから出ていけ!」
 彼らは叫びながら競技場に出て来た。相手が民間人であってもマコウ人に変わりなく、地球代表部でも手が出せなかった。このまま大会は妨害されて失敗に終わる・・・関係者はそう思って落胆した。
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登場人物紹介

半蔵 (井上正介) 闇のお頭 笠取荘という旅館で番頭として働いている。

疾風 (佐藤 翔) 闇の者  普段はフリーの雑誌記者

児雷也 (田中 令二) 闇の者 メカ担当 普段は田中運送社の社長

霞 (渡辺 飛鳥)  闇の者のくノ一 普段は雑誌モデル

佐助 (山本 健)   闇の者  普段は地球大学新東京校の大学生。笠取荘でアルバイトをしている。

リカード管理官  マコウ人 総督府のナンバー3  地球取締局を統括している。

大山 文明 参事  地球代表部のトップ 

サンキン マコウ人 地球取締局 局長

ジャコー 地球取締局 取締官

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