第8話 救い出す

文字数 2,929文字

 地下室の大部屋に捕らえられた教員が集められた。それらの人々は歩くのもやっとという状態だった。
「貴様らの中でまだ意地を張っている者がいる。」ズガン部長が合図すると、両脇からバイオノイドに抱えられて野々口教授が連れて来られた。
「強情な奴だ。こんな奴は見せしめにしてやる。」ズガン部長は横にあった棍棒を手に取った。
「どうだ? 気が変わったか? この棍棒で殴ればお前は死ぬぞ。それでもいいのか?」ズガン部長が野々口教授を小突きながら聞いた。
「こんなことで私が変わると思うのか! 私がいなくなってもその意志は後に引き継がれる。地球人の誇りを失うわけにいかない!」野々口教授はズガン部長を睨みつけて言い放った。
「なにを! 地球人のくせに生意気な!」ズガン部長は棍棒を振り上げて、野々口教授を殴り殺そうとした。その時だった。
「バーン!」暗闇から何かが飛んできて、その棍棒を叩き落とした。それには電子手裏剣が刺さっていた。
「何者だ!」ズガン部長をはじめハバル人たち、バイオノイドが辺りを見渡した。すると
「ふふふ・・・」と笑い声がこだました。
「出て来い!姿を見せろ!」ズガン部長は怒鳴った。すると暗闇から人影が浮かび上がった。それは一つずつ増えていき、5つになった。よく目を凝らしてみるとそれは忍び装束を身にまとっていた。
「我らは闇だ。」半蔵が前に出た。
「闇だと!」
「そうだ。闇に生まれ闇に生きし者。闇からお前たちを見ている。真実の歴史を教える者を捕まえ、歪曲した地球の歴史を強要しようとした。しかも拷問までして。そして今、見せしめに人を殺めようとしている。」半蔵は静かに言った。
「それがどうした? 野蛮な地球人を矯正するためだ。」ズガン部長が怒鳴った。
「野蛮? 人々を強制的に変えようとする方が野蛮ではないのか?」
「貴様! 我らを野蛮扱いするのか! いやしくも銀河帝圏の文化統制部だぞ! 許せぬ。不法侵入、いや銀河帝圏に対する反逆だ! 反逆者を排除しろ!」ズガン部長が大声を上げた。するとバイオノイドたちが剣を抜いた。
「ならば我らが相手をしてやる。このようなことは天が許しても我らが許さぬ。我らが地獄に案内仕る!」半蔵は刀を抜いた。後ろに控える4人も刀を抜いて構えた。
「構わぬ。斬れ! 斬り殺せ!」ズガン部長が叫んだ。その言葉で前にいたバイオノイドが半蔵に斬りかかってきた。
「ズバッ!」半蔵はその剣を潜り抜けて胴斬りでバイオノイドを斬った。そのバイオノイドはばったりと倒れた。
「お前たちの暴力で我ら地球人を押さえることはできぬ。」半蔵はズガン部長を睨みつけた。
「おのれ! 生きてここから帰すな!」ズガン部長がさらに叫ぶと、バイオノイドたちが半蔵たち5人に剣で斬りかかってきた。その広間で刀と剣の斬り合いが始まった。
「うわあ!」「きゃあ!」教員たちが悲鳴を上げて逃げ惑った。バイオノイドは辺り構わず、それら教員にも斬りかかろうとした。だが、
「チャリーン!」と児雷也が電子鎖でその剣をからめとった。そしてそのバイオノイドを引き寄せて斬り捨てた。一方、野々口教授はまだバイオノイドに両脇から抱えられたままだった。そこに佐助が向かった。バイオノイドはあわてて野々口教授を放り出して佐助に斬りかかってきた。佐助は四方八方に動いてその剣を避け、最後は後ろに回り逆手に持った刀で突き刺した。2体のバイオノイドは、
「ぐあっ!」と声を上げてその場に倒れて消えていった。
 野々口教授は床に倒れ込んでいた。体が弱っており、すぐに立ち上がれないようだった。
「しっかりしてください。」佐助が野々口教授を助け起こした。
「あ、ありがとう。君たちは・・・」
「僕たちはあなた方の味方です。安心してください。」佐助はそう言った。
 バイオノイドはまだ次々に現れてくるが、疾風と霞も向かってくるバイオノイドを次々に斬っていった。目の前に刀や剣が飛び交い、それを恐れたハバル人たちは腰が抜けて部屋の隅で震えていた。だがただ一人ズガン部長だけは戦意は旺盛で、
「行け! 行け!」とカプセルからバイオノイドの兵士を取り出して立ち向かわせていた。だがそれらも半蔵たちに斬り伏せられた。半蔵はズガン部長を追い詰めていた。
「さあ、どうする?」バイオノイドはすべて倒され、半蔵の刀の切っ先がズガン部長の喉に当てられた。
「た、助けてくれ! 何でもする! 逮捕した地球人たちはすぐに解放する。お願いだ!」ズガン部長は震えてその場にしゃがみこんだ。
「よし。それとお前はこの地球からすぐに出ていけ! 調査部をすべて引き連れてだ。」半蔵は言った。
「わかった。言うとおりにする。」ズガン部長はうなずいた。
「それからもう一つ。我らのことは他言無用。またここで起こったことも誰にも言ってはならぬ。我らは闇。お前たちがもし約束を破ったなら地獄の底まで追いかける。よいな。」半蔵が念を押すように言った。
「わかった。わかった。約束する。このことは絶対、誰にも言わない・・・」ズガン部長は何度もうなづいた。
「よし。それなら放してやろう。」半蔵が刀を収めると、
「ひいーっ!」と声を漏らしながらズガン部長をはじめ、ハバル人たちはそこから逃げて行った。

「改めて礼を言う。君たちのおかげで助かった。君たちがいればこの地球の未来に希望が持てる。」野々口教授は佐助に助けられて何とか立ち上がった。
「いや、我々は所詮、闇。あなたたちのような方がこの地球を支えているのです。これからも頼みます。」半蔵は言った。野々口教授は静かにうなずいた。
「僕も未来に希望を持っていますよ。今は暗くてもきっと夜明けが来ると信じて。」佐助は言った。その言葉に聞き覚えがあった野々口教授は頭をひねった。
「君は・・・」野々口教授が尋ねようとすると、すでに5人の忍者は消えていた。


 文化統制局の調査団はまるで夜逃げをするように地球を離れていった。逮捕されていた教員はすぐにすべて釈放となった。
 地球大学新東京校で講義が再開された。そこでは多数の若者が集まって勉学に励んでいた。もはや、地球取締局であっても干渉してくることはなかった。野々口教授をはじめ教員たちは誰に遠慮することもなく講義を進めていた。彼らは以前よりやる気に満ちて生き生きしていた。健もその様子をうれしく思いながら講義を受けるのであった。

 総督府にまたサンキン局長が報告に来ていた。
「調査団が急に地球を立ちました。調査は済んでいないはずですが。」
「何か急なことでもあったのだろう。気にするな。」リカード管理官は言った。
「それにしても不思議です。あれほど教員に弾圧を加えようとしていたのに、それを放り出すとは・・・。何かおかしいことでも起こったのでしょうか?」サンキン局長は首を傾げた。
「ふむ。そうかもしれぬ。だが詮索しても仕方があるまい。ハバル人たちがいなくなっても、我々は自分の仕事をきっちりしていくだけだ。」リカード管理官は言った。
 サンキン局長が部屋を出て行くと、リカード管理官は椅子から立ち上がって窓の外を見た。そこからは遠くに地球大学新東京校のビルがかすかに見えた。
「地球人め・・・」リカード管理官は静かにつぶやいた。
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登場人物紹介

半蔵 (井上正介) 闇のお頭 笠取荘という旅館で番頭として働いている。

疾風 (佐藤 翔) 闇の者  普段はフリーの雑誌記者

児雷也 (田中 令二) 闇の者 メカ担当 普段は田中運送社の社長

霞 (渡辺 飛鳥)  闇の者のくノ一 普段は雑誌モデル

佐助 (山本 健)   闇の者  普段は地球大学新東京校の大学生。笠取荘でアルバイトをしている。

リカード管理官  マコウ人 総督府のナンバー3  地球取締局を統括している。

大山 文明 参事  地球代表部のトップ 

サンキン マコウ人 地球取締局 局長

ジャコー 地球取締局 取締官

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