第4話 闇の制裁

文字数 2,855文字

「勝手に動くことは許さぬ。」腕組みをしている半蔵は静かに言った。疾風は児雷也に助けられて隠れ部屋に逃れてきたのだった。
「お頭、すいません。」疾風は頭を深く下げた。半蔵は、
「疾風、我らは闇。それを忘れるでないぞ。」半蔵は厳しい顔をして言った。その時、
「お頭。」霞が隠し部屋に入ってきた。
「わかったか?」半蔵が訊いた。
「はい。奴らの後をつけ、隠れ家を突き止めました。佐助が見張っております。」霞が言った。
「うむ。よくやった。」半蔵は言った。
「お頭、踏み込みましょう!俺は奴らを許せないんです。」疾風が顔を上げて言った。半蔵は疾風の顔をじっと見た。
「今夜も奴らは人を斬っていました。まだ放っておくつもりなのですか!誰も彼らを止めようとしないのに。」疾風の声は少しずつ大きくなった。
「確かにこれほどの人は殺されているのに、取締局や代表部が動かないのは妙だ。何かあるに違いない。」半蔵は何かを考えていた。

地球代表部の執務室に大山参事がまだ残っていた。彼は急に何かの気配を感じた。
「半蔵か。」大山参事が呼びかけた。
「そろそろ我らが必要かと思い・・・」部屋の影から忍び装束の半蔵が姿を現した。
「何のことかな?」大山参事が言った。
「おとぼけになるか。街で地球人が惨殺されておる。我らに頼まぬのか?」半蔵は言った。
「犯人は私的武装集団のランジ人だ。町はずれの古い洋館を根城にしている。だが手が出せない。取締局であっても。彼らは強いバイオノイドを持っているが、彼らの剣の腕も確かだ。それ以上に彼らには強い力で守られている。権力という。」大山参事が言った。
「我らは権力に屈するものではない。誰もせぬなら我らがやる。」半蔵は言った。
「待て!半蔵。」大山参事が言ったが、もう半蔵の姿はなかった。大山参事は眼鏡をはずして布で拭きながら、
「頼むぞ・・・」とつぶやいた。

古い洋館では大きな笑い声が響いていた。
「取締局の犬かなんかは知らぬが、尻尾を巻いて逃げていきよったわ!」
「我らに敵う者などいるわけがない。鍛え上げられた剣の腕には!」
「それに我らにはさるお方がついておる。捕まる心配もない。」
「まだまだ斬り足りぬ。下等な地球人をまだまだ試し斬りしてやる!」
「ははは、地球人はそれぐらいしか役に立たぬからな!」
「邪魔する奴は斬り捨ててやるわ!」
5人のランジ人が騒いでいた。しかし急に明かりが消えた。
「明かりが消えたぞ。どうした?」ランジ人が叫んだ。
「ふふふ。お前たちこそ自らの身を心配するのだな!」低い声が響いてきた。
「誰だ!姿を現せ!」ランジ人は辺りを見渡しながら叫んだ。すると薄暗い広間にぼんやりと5つの人影が浮かび上がった。その影はランジ人に近づいてきた。
「何の罪もない地球人を試し斬りのために次々に斬り殺す。こんな非道が許されようか・・・いいや、許されるはずがない。」声が聞こえてきた。
「貴様か!何者だ!」ランジ人が剣を構えて言った。
「我らは闇に生まれ、闇に生きる者。誰もお前たちに手を下せないのなら、闇に落ちた我らが手を下すのみ。天に変わって地獄に案内仕る。」半蔵が姿を現した。その後ろに疾風、児雷也、霞、佐助も並んでいた。
「何を!」ランジ人は近くにあったカプセルからバイオノイドを出現させた。
「いけ!」命令すると、バイオノイドたちは暗闇に浮かぶ人影に斬りかかっていった。だが、
「カキーン!ズバ!」と次々に斬り倒されていった。
「くそっ!ならば我らが相手だ!」ランジ人は剣を振り上げて斬りかかってきた。その鋭さに半蔵は一旦、後ろに下がった。
「それそれ!」ランジ人はさらに剣を振り回した。向こうでは疾風と霞が、奥では児雷也と佐助がランジ人と戦っていた。それぞれのランジ人はかなりの腕前で、忍者たちはその剣の勢いに押されていった。
「我らを見くびったな! あの世で悔め!」ランジ人たちはさらに勢いを増して迫ってきた。佐助は壁に追い詰められていた。逆手に持ったレーザー刀で必死の防戦の態勢を取った。
「死ね!」ランジ人の剣が振り下ろそうとした時、佐助は一瞬、早く前に飛んで一回転しながら刀を払った。
「グオッ!」腹を斬られたランジ人は倒れた。
児雷也は何とかレーザー刀で刀を受け止めていたが、急に後ろに下がり懐から玉を投げつけた。ランジ人はその玉を真っ二つにしたが、そこから煙が噴き出した。
「ううっ!」とひるむ瞬間、児雷也はランジ人を上から斬り倒した。
霞は斬りかかるランジ人の剣を右や左に避けていた。しかし逆手に持ったレーザー刀が叩き落とされた。
「そこまでだ!」ランジ人が剣を振り下ろした。霞はそれを避けて飛び上がって空中で一回転した。霞が着地するや否や、ランジ人は前に倒れた。その背後には霞が空中から放った電子手裏剣が深く突き刺さっていた。
半蔵はランジ人と激しい斬り合いを続けていた。剣と刀がぶつかり火花を上げた。
「貴様!地球人のくせに歯向かいよって!」ランジ人が言った。
「天が許そうとも、我らはお前たちの非道を許せぬ。我が刀を受けよ!」半蔵が言った。
「何を!」ランジ人が刀を振りかぶって迫ってきた。そこを半蔵は身をかがめて踏み込んで横切りにした。ランジ人はそのまま前に倒れた。
仲間が次々にやられたランジ人は焦っていた。剣を振り回したが、疾風に叩き落とされた。
「許してくれ!この通りだ。俺じゃないんだ。あいつらに命令されて仕方なく。」ランジ人はひざまずいて頭を下げた。そのランジ人は左腕を負傷していた。
「悔いているか?」疾風が言った。
「悔いている。悔いている。この通りだ」ランジ人は右手を上げた。しかし左手は後ろ手で何かを持っていた。翔が刀をしまった瞬間、そのランジ人は
「死ね!」と左手に持った短刀を疾風に突き立てようとした。
「ズバッ!」一瞬、早く疾風は一回転して刀を出すと、すぐにランジ人を斬った。
「おのれ!」と言いながらそのランジ人は倒れていった。

次の日、廃墟になった洋館で5人のランジ人が斬り殺されているのが見つかった。当局の発表では、彼らは地球人斬殺の犯人で、内輪もめでお互いに斬り殺したということだった。その日以来、夜中に地球人が斬られる事件はなくなり、夜間に束の間の平和が訪れるようになった。。

総督府にサンキン局長が報告のために、リカード管理官のもとに来ていた。
「街中を騒がせた地球人斬殺の件は片付きました。お互いに殺し合ったようです。」サンキン局長は言った。
「果たしてそうかな。」リカード管理官はその報告書をデスクの上に投げた。
「と言われますと・・・」サンキン局長はリカード管理官の顔色を窺った。しかしリカード管理官は表情を変えず、
「もう、よい。」と冷ややかに言った。
「それでは私は・・・」冷や汗をかいたサンキン局長は、その場から逃げるように管理官の部屋を出た。
リカード管理官はため息をついて席を立った。そしてまたあの窓際に立った。外はいつもと変りない日常の風景だった。彼はそれをぼんやり眺めながら、
「地球人め・・・」とつぶやいた。
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登場人物紹介

半蔵 (井上正介) 闇のお頭 笠取荘という旅館で番頭として働いている。

疾風 (佐藤 翔) 闇の者  普段はフリーの雑誌記者

児雷也 (田中 令二) 闇の者 メカ担当 普段は田中運送社の社長

霞 (渡辺 飛鳥)  闇の者のくノ一 普段は雑誌モデル

佐助 (山本 健)   闇の者  普段は地球大学新東京校の大学生。笠取荘でアルバイトをしている。

リカード管理官  マコウ人 総督府のナンバー3  地球取締局を統括している。

大山 文明 参事  地球代表部のトップ 

サンキン マコウ人 地球取締局 局長

ジャコー 地球取締局 取締官

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