第6話 文化統制部調査団

文字数 2,027文字

 ある日、文化統制部の調査団が地球大学新東京校に乗り込んできた。
「教育法令を違反した者がいる。捜索するからそこを動くな!」
職員たちは驚いて顔を見合わせた。今まで地球取締局でもこの教育の現場に踏み込んだことはなかったのに・・・。
「どういうことでしょうか?」校長が出てきて尋ねた。するとハバル人の調査員が
「銀河帝圏認定の正史から離れた歴史を教えている者がいる。それは地球大学新東京校の野々口教授だ。書類などを押収して調べる。また教員はすべて逮捕して話を聞く。」と言った。その場にいた教員は訳も分からず、調査団のバイオノイドにとらえられて連行されていった。

「おい、どうなっているんだ?」学生たちもその現場を見ていた。もちろんその中には健もいた。
(こんなところまで・・・。だがマコウ人とは違う? 一体どうなっているんだ?)
健は密かにその後をつけて行った。


「お前たち! どういうつもりだ!」怒声が響き渡った。あるビルの地下施設、そこを文化統制部の調査団が根城にしていた。多くの押収した書類やパソコン機器、記憶装置の入った箱が積み上げられ、その前に教員が床に座らされていた。すべて両手には手錠をかけられたままだった。
「資料はすべてスキャンしてコンピューターにかけた。お前のやって来たことは明白だ!」ズガン部長は前にいた野々口教授の胸元をつかんでそう言った。
「私たちは本当のことを学生に教えているだけだ。」野々口教授は言った。
「本当のことだと! 嘘をつけ! こんなことが本当のことではない!」ズガン部長は大きな声で言った。その迫力に野々口教授は声が出なかった。
「地球人は暴力と侵略を好み、この星で好き放題してきた。上に立つ者は独裁者となり、支配する人民から自由を奪い、過酷なほど縛り上げた。また従わない者たちを投獄して殺害、反抗する民族を根絶やしにした。挙句の果てには戦争で多くの命を奪った。人民は人民で自己の利益のために働き、人を陥れ、人に危害を加え、お互いに争って来た。こんな星に平和はなかった。」ズガン部長は言った。
「い、いや、そんなことはない。それはごく一部のことだ・・・。」野々口教授は何とか声を出した。
「いや、そうだ。そんな野蛮な地球人を我が銀河帝圏が面倒を見ようというのだ。保護惑星として。それで地球人は少しは行儀がよくなってきただろう?」
「そんなことはない。我らはまるで奴隷のように日々を過ごしている。あらゆる権利をはぎ取られて。」野々口教授は反論した。
「奴隷? これがか? マコウ人は手ぬるい。我らハバル人ならもっと締め上げている。その方がうまく矯正できるからな。こうして反抗する者もいるし、デモを起こす者も街中にはいる。本来ならすべて投獄して矯正しなければならないのにな。」ズガン部長は不気味に笑った。
「地球人は自由と平和を愛する者たちだ! しかしそれが踏みにじられるとなると命を懸けて戦う!」野々口教授はきっぱりと言った。
「なにを!」怒ったズガン部長は野々口教授を殴りつけた。
「お前たちがそういう気なら徹底的にやってやる。心の底から服従するようにな!」ズガン部長は部下とバイオノイドに目で合図した。すると野々口教授をある機械の椅子に座らせた。手足を固定し、頭に特殊な金属の帽子をかぶせ、それは拷問具のようだった。
「お前たちもよく見ておけ! 反抗する者はこうなるのだと!」ズガン部長はそう言ってスイッチを押した。すると、
「うわああ・・・。」野々口教授の悲鳴が上がった。

 そこに忍び込んでいた健は、地下室の天井裏から一部始終を見た。あまりに無残な光景に目を背けた。
(こんなことが・・・。こんなことが許されるはずはない!)健はそう思ってその場を離れていった。

 総督府の管理官室にサンキン局長が来ていた。
「文化統制部の調査団は地球大学新東京校に乗り込んだようです。多くの者を逮捕して連れ去ったようです。」サンキン局長が報告した。
「そうか。」リカード管理官は気のない返事をするだけだった。
「文化統制部の権限では独自にそれらの者を処罰することができます。もしかするとすべて者が死刑に・・・。」サンキン局長は事の重大さを伝えようとした。だが、
「そうなるかもしれぬな。」とリカード管理官は興味がないようだった。
「それでは地球大学を管轄してきたわが総督府のメンツがつぶれることになりませんか? 調査団を好き勝手にさせておいて。」サンキン局長はさらに訴えた。
「文化統制部には問題はある。だが総督府は手出しできない。あれは銀河帝圏の指導部直属だからな。」リカード管理官は言った。
「ですが・・・」
「あとは地球人の問題だ。これにどう対処するか・・・。それによってこれからの地球の運命が決まる。ただそれだけだ。」リカード管理官は冷ややかに言った。そう言われると、サンキン局長はそれ以上、そのことについて意見を言えなくなった。彼は半ば理解していないような顔で引き上げていった。

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登場人物紹介

半蔵 (井上正介) 闇のお頭 笠取荘という旅館で番頭として働いている。

疾風 (佐藤 翔) 闇の者  普段はフリーの雑誌記者

児雷也 (田中 令二) 闇の者 メカ担当 普段は田中運送社の社長

霞 (渡辺 飛鳥)  闇の者のくノ一 普段は雑誌モデル

佐助 (山本 健)   闇の者  普段は地球大学新東京校の大学生。笠取荘でアルバイトをしている。

リカード管理官  マコウ人 総督府のナンバー3  地球取締局を統括している。

大山 文明 参事  地球代表部のトップ 

サンキン マコウ人 地球取締局 局長

ジャコー 地球取締局 取締官

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