34話 私達の立ち位置が、かなり微妙になってますよ 1

文字数 4,528文字


「はい、あ~ん」
 シャクシャクと、菜っ葉を平らげるスレイは、どこか不満そうだ。

「パパ。もっと、もっと」

「おうよ。俺の分も、食わせてやるぞ」
 パパと言われることに、違和感も感じず、世話をする沙羅。

 これが、元来。
 自分の生み出した命にするべき、正しい行動なのかもしれない。

 シャクシャクと、同じく菜っ葉を食べる皆は、微妙な表情を浮かべ。


 沙羅に、声を、かけようとしても。
 全力で無視を決め込んだ沙羅に、何を言っても無駄だと、食べ進めている。

 思えば。
 彼女たちには、親の愛情が足りないのかもしれない。


 生まれてから、かなり、ぞんざいに扱われている。

 自分たちと。
 スレイのギャップに、彼女たちが思うことは、同じだろう。

 スレイの育ち盛りの体に、菜っ葉一玉では、やはり足りないのだろう。

 食物繊維とは言うが、ほとんど水の固まりのようなモノだ。

 味と言われても。
 菜っ葉だ、としか言いようがない。

 こんな、あじけのない食事に。
 文句を言い出さないスレイは、大変、良い子なのだろう。

 食べ物の味も、種類も知らないだけなのだが。
 いろいろなゲームがあるから、神ゲーと、クソげーがあるように。
 比較するものがなければ。
 食べること、そのモノを否定するしかないが。
 ゲームとは違い、そうでは、生きてはいけない。
 受け入れなければいけない、菜っ葉の食生活。
 不憫で仕方ないのだが、考えても今すぐ解決できるモノでもない。

 その部分を考えないようにして、スレイの世話をしている沙羅も、たいがいである。

 ジュライ子が見つけた湖へ移動し。

 薪の前での、できごとを。
 なかったことにしたい、沙羅の思惑を、皆が読み。

 仕切り直しと、再度、腰を下ろした一行。

 湖の水は、湧き水で満たされ。

 その先は、小さな川となって、森の中へ静かに消えている。

 サワサワと流れる水音、自然が作り出した風景。

 作為的なモノなどない。
 ただ、生きているだけの空間が、すんなり目から入り。

 何もないのに、心を洗われるような気持ちさせる。

 湖そのモノの水質は、目で見ても。
 口にしても、とても良いモノだと思えるモノだ。

 飲んでも、変な匂い一つなく。
 すんなり、体に入るようにさえ感じる。

 喉が張り付くまで、体から水が抜けきった一行は。

 群れで行動する野生動物のように。
 湖に顔を突っ込んで、水を平らげた。

 水とは、なんと。
 貴重な、モノなのだろう。
 飲めるものとなると、さらに。


 絶対に必要で、なくてはならない根源的なモノだ。


 水が、あるかないか。
 どれだけ、取れるかだけで。

 国境線を引いた、バスルーム文化が、変わるのも、うなずける話しだ。


 そして、潔癖症に、なる方々の人口が。
 そのまま、比例してしまうのだろう。

 ドコにでも、水がある環境になれた、都会っ子が。
 静かな田舎に行っても、地獄を感じるだけである。

 虫嫌い、泥汚れ、土煙。

 自然一杯の田舎とは。
 網戸にビッシリ張り付く、カブトムシだ。

 ホームセンターで買う必要がないどころか、害虫である。

 カブトムシは、木製住宅に卵を産み付け、ボロボロにしていく。
 油をなめるゴキブリより、タチが悪い。

 彼らは、養分を欲しがる、角の生えたゴキブリと同じだと言う。

 カブトムシと一緒にいるのは、クワガタだけではない。
 羽の生えた虫は、光に引き寄せられ。
 見るもおぞましい、網戸を見ることができるだろう。

 環境に慣れていなければ、ただの気色悪い異常でしかない。

 自販機が、人工の数ある国で。
 水がないと、どうなってしまうか、なんて。

 想像できるハズがない。

 水があれば、喉を潤せるのはもちろん。
 体を、モノを、洗うことがデキる。

 考える必要もなく。
 キレイな水を、目の前にすれば。
 自然に体が動くモノだ。

 川のせせらぎで、泥だらけの手足、顔、髪を洗い。
 我慢できず、犬のように水をすすり。

 落ち着いたら、ジュライ子に食料を作らせ、土まみれの野菜を洗えば。

 澄んだ、キレイな水の大切さを。
 体全てで、感じるのだから。


 ホッとしたのも、つかぬまである。


 沙羅以外の目に。
 献身的に、スレイの世話をする、自分たちの、生みの親の姿が。
 彼女たちの心に、一石、投じる。

 沙羅とスレイ以外の心情は、同じだった。

 あまりの待遇の違いに、心を震わせる。


 だが、沙羅は。
 ドコまでも、彼女たちを、ないがしろにするのである。

 そして、沙羅内部の、キャラクター人気投票通り。
 スレイに軍配が上がるのだ。

「う~ん。野菜ばっかりじゃ、なぁ…。ブルースカイ?」
「ん? なに?」
「湖の魚、とれないか?」


 たとえ、皆の思いが同じでも。
 言葉にして、シッカリ伝えることを、しなければ。

 核心に触れなくても。
 さわりを感じさせなければ。

 この大自然は、何事もなかったように、すべてを飲み込む。

 何を思っても伝わらないと。
 彼女たちは、このとき理解した。

「とれるよ。分かった、ウチ、魚を皆のために、ちょっと、とってくるね」

 この空気の中。
 必死な得点稼ぎである。
 だが。

「頼んだ」


 と。
 スレイを、かまう沙羅の姿に。
 ブルースカイは、それ以上、何も言えなくなり。


 前に出ようとした岩沢以外は、静かに口と目を閉じた。
 やるといった以上、やらなければならない。

 評価は上がらないのに。
 評価が下がる理由だけは、明確だった。

 ブルースカイは、刀を抜き。
 背中から、白く美しい竜の翼をバサリと開く。

 日の光を、真っ白に返す銀色の翼。
 立つ姿は、同性でも見惚れるほど、美しいのだが。

 悲しいかな。

 見なければ、評価されないのである。


 こうなれば、ブルースカイは。
 黙って湖に、そのまま、飛び込むしかない。

「アイツ、どうやって、魚を捕る気だろう?」
 飛び込んだ音に気づいた沙羅に、こんなことを言われながら。

 だが、ここで諦めたら、試合終了である。
 ブルースカイは、自分にデキることをやりきり。

 そこまで時間をかけず。

 ブルースカイは、湖の岸に身を上げ。

 着物が体に張り付き、ボディラインが強調され。
 体中から、水を滴らせる自分の体に。
 勝機を見いだした、ブルースカイは。

 わざと、周りの小枝を折っては集め、沙羅の隣に座った、のだが。

「ぐちゃぐちゃだな、オマエ。大丈夫か?」


 この、素の反応である。
 沙羅は。
 彼女たちに、女性を感じていない事が。
 今、彼女たちの間で判明した。

「大丈夫だよ」
 イケると思った勝機は、風と一緒に流れ。
 水のしずくと一緒に、希望が地面に落ちていく。

 これでもかと、胸の谷間から。
 頭が落とされた魚の身を、一枚づつ抜き出し。

 小枝に突き刺しては、火の近くに刺していく。

 だが、沙羅はスレイに夢中である。

 もう一度、言おう。
 残念ながら。

 どんなに良いモノでも。
 見なければ、評価されないのである。

 だから、ブルースカイは、努力をしてみた。

「う~ん。もっと太い木のほうが、良いかなぁ? 燃えちゃうかも」

 もう、自分自身の女を使い果たした、ブルースカイに。
 羞恥心は、ないらしい。

 恥ずかしがっていては、完全敗北が確定してしまう。
 羞恥心より、沙羅にかまってほしい気持ちが、勝ったのである。

「なら、燃えにくい木を、岩沢の作った囲いにかけて、上で焼けば良いんじゃないか?」

 自分の胸の谷間が青臭く。
 あざとく、肌を見せようとした。
 物理的にも、汚いブルースカイだけが、残された。


 ダメ子は、口パクで、カワイイと伝え。
 ジュライ子は、音のない拍手を送る。

 だが、沙羅は平常運転である。

 この空気を、どうにかせねばと。
 ブルースカイの可愛さを、完全肯定する彼女たち。

 女性だけが、女性を評価する。
 女子社会が生まれた瞬間だった。

 こうして、男のカワイイと。
 女性のカワイイは、ズレていくのである。

「そっか。ウチ、ちょっと探してくるねぇ~」
 この言葉の重みを、どれだけ軽くできるか。
 それは、沙羅ではなく。
 ダメ子と、ジュライ子の仕事になった。

「たのむ。スレイ、もうちょっと待ってろ。
 今、お魚さん、食べさせてやるからなぁ~」
 他力本願である。

「わ~い」
 ドコまでも、純粋無垢である。

 という光景を。
 沙羅の真正面に座る三人は、見せつけられていた。


 湖で頑張るブルースカイ。

 スレイが、可愛くて、しょうがない沙羅。

 ドコまでも、子供のスレイ。

 ダメ子が、つい、本音を口にしても許されるだろう。

「なにこれ?」
 カオスである。

「ダメ子姉さん、分かりましたよね?」
 ジュライ子の発言も、カオスである。

「私達の立ち位置が、かなり微妙になってますよ!」
 事実である。

 そもそも、立ち位置なんてモノが、あったのかすら、疑問である。

「たちいちぃ~?」
 正確には、彼女たちが勝手に思っていた、株価の値段である。


 沙羅自身が生み出した。
 人ではない人型で、見た目はグレイトな、生命が。
 どのように反応してくれたら、一番、嬉しいのか。

 その、ド真ん中を。
 イヤみなく、打ち抜いているのは、間違いなくスレイだ。

 キャラクター設定。
 その背景も、漫画のヒロインクラスより、格上である。

 それは、この小説の一章が。
 分かりやすく、遭難開始、スレイ編と。

 作者本人のデータファイルのタイトルに、書かれているのだから、間違いないハズである。


 では、彼女たちの立ち位置は、ドコにあるのだろう?
 それは、作者本人も分かっていないのである。


 思ったよりも、深い話題に。
 岩沢のちゃちゃ入れすら邪魔である。

「岩沢ちゃんは、ちょっと話を聞いてようねぇ~。
 ジュライ子ちゃん。コレは、一体どうなってるの?」
 作者自身も、分かっていないのである。

「そういうのは、ダメ子姉さんのほうが、詳しいと思いますが?」
 ジュライ子は、優しくダメ子を担ぎ上げ、他力本願を実施した。

「そうね、コレは…」
 そうね。
 では、ないのである。

 話の展開的には。
 この小説が、ご破算になるから、音便に済ませてほしい。

 だが。
 作者の思惑からハズレていくのが、彼女たち、なのかもしれない。
 初期プロットが、ご破算になったのも頷ける。

 沙羅様一行は。

 気づいても無視してしまうような。
 微妙なヒエラルキーの中、成り立っているのだ。


 意識していない役割分担が、各自、シッカリしていたからこそ。
 今まで、バランスが保たれていた。

 だが、こうなってしまうと、話は別だ。

 沙羅の気は全て、スレイに向けられ。
 普通以上に働ける、ブルースカイの登場によって。

 ブルースカイが、デキないことにしか、役に立つことがデキない。

 ダメ子・岩沢・ジュライ子は。
 あまりに、得意分野特化すぎるのだ。

 野球だけ頑張って、サラリーマンになれば。

 膨大な時間をかけて手に入れた、野球の技術など。
 何の訳にも、たたないのである。

 気構えや、いかにして技術を手に入れてきたかと言う過程。
 経験は、生かせるのかもしれない。

 だが、打率を上げる技術、そのものは、死んでしまう。
 彼女たちの場合。

 持ち味は、経験も過程もなく。
 持っているスキルで、貢献してきたのだから。

 技術・スキルを会得する前提が、全く存在しない。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み