戦力増強と言うなの、ダメ子いじり 4

文字数 3,330文字

「すごく、嫌なんだけど!」

「これで、次から岩沢に助けて貰えるから!」

「ものすごく、嫌なんだけど!」

「その努力は、報われるから!」

「殴ったら私、ケガするんだけど!」
 沙羅は、ダメ子の肩をたたき。
 神妙な面持ちで、一言。

「納得させないと、話がオチない」

「オチを、私で作ろうとしているあたり、鬼畜ですよね!」

「岩沢が、納得してないんだから、しょうがねぇだろうが!」

「私じゃなくても、良いでしょう!」

「なら、誰なら良いんだよ!」
 ダメ子が、ブルースカイを見れば。
 草むらの後ろで、しゃがみ込んで、震えていた。

「いないだろ!?」

「ブルースカイちゃんなら、行けるでしょうに!」
 ブルースカイは、草むらの奥から頭だけを出し。

「ウ、ウチがやると、岩沢姉さんごと、切っちゃうから…」
 生死に関わった。

「お前しか、いないじゃないか!」

「きぃい~」

「キャラ崩壊してる場合じゃ、ないんだよ?」

「ブルースカイちゃん、絶対、許さないからね!」

「ダメ子よ」

「なんですか!」

「世界一カワイイから。
 とりあえず、殴ってこい。それで、終わりだ」

「私が、終わりそうなんですけど!?」

「わかった、分かった」
「分かってないですよね?
 一ミリも、私の気持ちを、くみ取ろうと、してませんよね?」

「だから、言ってるだろ?」

「何をですか?」

「オマエが殴らないと、話がオチない」

「変わってますよね?
 前と、セリフ、変わってますよね?」

「早くやれよ~。めんどくさいなぁ~」
 沙羅は、説得するのを諦めた。

「……」

「はやくやれ~」
 下手に出るのすら、放棄した。

 ダメ子は。
 沙羅の態度に、何を言っても無駄だと、やっと理解し。

「どうせ、痛いめ見るなら、本気でやるね」

「そうしないと、本気で怪我するぞ」


 ペンソードを、一筋の光から出現させ。
 スグに、バチバチと電気を走らせる。

 一振りで、刃先を刃に変え、大きく機械翼を広げた。

「棒のほうが、イイと思うんだけどなぁ…」

 沙羅の言葉を無視し。
 周りの雑草を大きくなびかせ、剣を構えるダメ子。
 この姿だけは、本当にカッコ良い。

 ダメ子を、ダメ子だと、一瞬、忘れさせる、カッコ良さだ。

 ダメ子は深く息を吐き。

 表情から、感情が消え。
 一息で、踏み出した。

 一瞬で最大加速まで持っていく、この加速力が。

 ダメ子の攻撃力を、後押し、しているのだろう。

 動く先が、分かっていなければ、目で追えない早さ。

 一瞬、残像が見えているのではないかと、錯覚させる、爆発的な加速力。
 視界から、ダメ子が消え。

 ゴ~ンと。
 擬音が、そのまま森の中に響き。

 岩沢の前で、ぴょんぴょん跳ねる、ダメ子見えた。

「いったぁああああいいぃいいい!!」


 そこで、皆。
 ああ、ダメ子だ。
 と、ホッとするのは、なぜだろう。

 へし折れたペンソードが地面に転がり。
 ぴょんぴょん跳ねるダメ子を、岩沢が、首を傾げながら見る。

「岩沢! 痛くないだろ! 」

「うん! いたくない! 」

「ダメ子! 痛いだろ!」

「そう、見えないんですか!」

「よし、岩沢!」

「よし、じゃないでしょ!
 沙羅様! よし、じゃ、ないでしょ!?」

「よし、岩沢! それを着てると、痛い思いしなくて、済むからな。
 これから、戦う時は、その姿で戦うんだぞ~」
 沙羅は、ダメ子の苦しみを無視した。

「わかった~」
 見た目からは、想像できない、カワイイ声を聞くと。
 複雑な気持ちになるのは、なぜだろう。

 見た目と、声のギャップが、ありすぎる。
 岩沢なんだなぁ、と、思えば。

 目に見えているモノを、疑いたくなるが、間違いなく岩沢である。
 扱い方だとか、なんだとか。
 問題を挙げれば、キリがない。

「…次から、次へと、コイツらは」


 ため息一つ吐き出し。
 沙羅は、この場の空気で。
 全てを、忘れることにした。

「ダメ子! お前が、苦しんだかい、あったぞ!」

「なかったら、沙羅様にキスしてるもん!」

「……」

「え? え? なんで黙るんですか?」

沙羅は、これ以上ないくらい、オーバーリアクションを見せ。

「マジで、よかったぁぁああ~」

「……」

「岩沢、お前は、サイコーだぁああ!」

「……」
 ダメ子を黙らせた。

「え? なんで?
 ソコまで嫌わなくたって、イイじゃないですか…」

「お前の唾液、バッチイ。いらね」

「私、怒ってイイよねぇ?
 そろそろ、怒ってイイよねぇ? 沙羅様!」

「なんで、俺が、怒られなきゃ、ならないんだ?」

 …また始まった。
 ジュライ子の思いは、誰にも伝わらず。

「スレイに傷がついたら、どうする気だぁ!?」

「沙羅様が、肩車してるのが、悪いんでしょ!」

「パパと、ダメ子ちゃん。仲良しだねぇ~」

「ん、違うよスレイ。
 お父さんは、駄目な子に。
 ちゃんと、言ってやる義務があるんだ」

「パパだから?」
「そうだよ、スレイ。あの人の名前は、なにかな?」

「ダメ子ちゃん」
「そうだ、イイ子だねぇ~」

「スレイちゃんに、なんてこと、教えてるんですか!」

「早く、先頭、歩けやぁ~」
 ジュライ子は、ため息を吐き出し。
 面食らっている、ブルースカイの肩をたたく。

「ジュライ子ちゃん、コレ…」
「ブルースカイちゃん。
 気にしなくて、イイからね。
 コレは、あの二人の、スキンシップ方法みたいだから」

「コレが?」
 沙羅とダメ子は、お互いを、お互いに、罵倒し合い。


 落とし所のない、口ケンカを続ける姿を。
 わざわざ、指さすあたりが、ブルースカイだろう。

「そうよ、ブルースカイちゃん。
 息をするように、口喧嘩しないと、気が、すまないみたい」

「ずいぶんと、無駄にエネルギー使いますねぇ~」
「私も、そう思う」
 それでも、沙羅一行は、横穴へと進む。

 口ケンカは、続いたまま。
 最前列と、最後尾で、無駄なやりとりが続き。

 いつまでも続く、不毛な言い合いに、前後に挟まれた皆は、笑うしかなく。
 笑われたことで、さらに加熱する言い合いは。

 二人は、仲が良いのだと、思わせる。
 空気が、ピリッとしない。
 周りが笑って、見ていられるケンカ。

 本人達は。
 必死に、あの手、この手で、相手を言い負かそうとするが。
 お互いに、さといのだ。

 だから、負けそうになると、話の切り口を変えていき。

 まるで、コントのような。

 台本が、あるかのような。

 周りを笑わせる、夫婦漫才にしか聞こえない。

 なんのルールがあるのか、分からない。

 言い返せない方の負けだと言う。
 絶対的なルールが、あるように感じられ。

 それは、罵倒は、罵倒で返し。
 罵倒で返せないなら、切り口を変えるという、モノだと分かれば。

 沙羅と、ダメ子の言い合いは。
 汚い言葉なのに、どこか心地よい、ラジオのようだ。

 スレイは、沙羅の肩の上で笑い。

 ジュライ子は、あきれ。

 岩沢は、どうにかして話に入ろうとし。

 テンポの速さ。
 話題の切り替えの早さに、ついて行けず。


 ブルースカイは、ジュライ子が言った意味を噛みしめる。

「テメェ! その機械翼は飾りなのか、コノヤロウ!」
「見えないんですか?
 ちゃんと、背中から、はえてますよ?」

「なにを、すっとぼけてやがる」

「ダメですねぇ、沙羅様はぁ~。
 現実が見えていないご様子、お教えしますよ?」

「オマエが本物の、他力本願だって事か?」

「沙羅様も、人のこと、いえませんよねぇ~?」
 こんな会話は、犬も食わない。

 笑うしかないだろう。

 馬鹿にしているように聞こえても。
 どこか、相手を気遣っている、口ケンカ。


 相手を多少なりとも、気遣っていれば。
 ケンカは、ケンカのまま。
 二人の中のルールに沿って、続けられ。

 勝敗は、スポーツのように、決められていくのだろう。

 歩く、この集団が静かになるときは、そう。
 竜騎士が、現れたときぐらいだ。

 なら。
 本気で疲れるまで、無駄な体力を使い続けるのだろう。

 彼女たち、沙羅達。
 言い方は、いろいろ、あるのだろう。

 それでも、この集団が、終わらないのは。
 こんな奴らだからだ。

 歩き続けるという、現実を忘れさせるのは。
 やはり、こんな奴らだから、なのだろう。

 日は昇り。
 優しい風は吹く。

 それでも、この二人は、口を止めない。

 そんな、風景が。

 スレイの、満面の笑みが。

 全てを、伝えてくれている、のかもしれない。
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