名前をつけてください 2

文字数 4,044文字

「えっと、ですね。私は、沙羅様の、
 スマホと、財布と、携帯充電器と、ハンカチと、
 手帳と、ペンと、ティッシュと、ペットボトルから作られ、生まれたんですよ」

どうやら、ウェストポーチには、それだけのモノが入っていたらしい。

「うん。忘れてたけど、入ってたな、携帯充電器」
「はい。ですから__」

「説明できてないからな! いきなり、ブっこんできすぎだ!
 なんで、どうして、ですから~に繋がるんだよ!
 前段階の話を、すっ飛ばしすぎていることに気づけ!」

「だって、ソウナンですもん」

遭難と、ソウナンとを、かけているのは、気づかなくて良い。

「これだけの会話で、化けの皮、ハゲすぎだからな、マジで!
 いい加減、会話を成立させてくれないか!?」

「だから、沙羅様が、私を作ったって、言ってるじゃないですか!」

「逆ギレ!?
 じゃあ、もう一度、俺に、説明してくれよ。なんでなんだよ!」

「だから、その、ポーチの中にあるものを使って、
 沙羅様が私を生み出したって、言ってるじゃないですか!」

「なるほど、お前が俺を、ココまで追い詰めているのは、伝わってきた。
 俺の所持品、返してくれよ」

「だから、あるわけないじゃ、ないですか。
 それらを使って、私が、ココにいるんですから」

「そんな超常的な能力が、あるみたいな設定、俺には、ないんですけどぉ!?」
「あるんですって!」

「そんな主人公設定、あったのか!?」
「あるんです!」
とりあえず、転生主人公としての体裁は、保たれているようだった。

「…よし。とりあえず信じてやるから、俺は、アンタに、何をすれば良いんだ?」

「信じてませんよね?
 めんどくさくなった、だけですよね? 沙羅様」

「その、沙羅様って言うのを、今すぐ、やめてくれ。
 背中が、ムズムズして、しょうがないから」

「じゃあ、なんて、お呼びすれば良いんですか?」
「沙羅でも、布衣宮でも、どっちでも良いよ」

「じゃあ、沙羅様さんで」

「なかったよね? そんな選択肢。
 今の中に、何一つ、なかったよね?」

「では、沙羅様さん」

「終わってないから!
 今の呼び方の件、終わってないからな。
 しかも何だよ、沙羅様さんって、どうすりゃ、そうなるんだよ?」

「私に、沙羅様さんを、呼び捨てにすることは、できないので、こういう呼び方しか、できません」


「それは、もっと早く言うべきだよねぇ?
 なんで「様」を、外してくれないんだよ」

「沙羅様が、私の生みの親であり、マスターで、あるからです」
「もう、ワケワカラン」

「じゃあ、そういうモノとして、受け入れれば、良いんじゃないでしょうか?」

 緩やかに流れる風は、生ぬるく。
 いくら話したところで、何も変わらないという悟りを、沙羅は授かった。

「じゃあ、そう言う君は、俺に、何をしてほしいわけ?」
「生まれたての私には、名前がありません。名前をください」

「生まれたての割には、よく話してるじゃん」

「ソコすら、疑っているんですか!」
「疑っていると言うか…。
 アンタが、ネタかキャラなのか、分からないけど、
 暴走しすぎて、あきれているだけだよ?」

「もっと、ヒドかった!」

「…もう、いいや。
 名前をつければ、アンタは、満足してくれるんだっけ?」

「満足って…。もう、それで良いです。名前をください」
「ああああ、でイイじゃん」

「もっと、ちゃんとした名前、つけてください!」
「はいはい」

 急に名前を考えろといわれても、すぐ出てくるモノでもない。
 沙羅は、彼女の外装の色合いが。
 自分の持っていた携帯に、良く似ていることから命名する。

「命名、スマ子」

 木と、岩の塊しかない空間に、沈黙が流れ。
 スマ子(仮)は、何かを訴えるように、沙羅を見るが。

 沙羅は、親指を立て、笑顔を貼り付けたままだ。
 スマ子(仮)は、体を震わせた。

「ピーピー、エラーです」
「何、エラーだよ」

「私が気に食わない、エラーです」
「うん、黙ろうか。
 俺の有り金やら、通信手段、もろもろ奪いやがって、返せコノ野郎」

「エラーです。名前を、つけてください」
「…むかつくわぁ、スマ子」

「気に食わないエラー。エラーコード184」  

「嫌なのは、俺だよ!
 とりあえず、かえすもの返してくれたら、考えてやるよ」


 スマ子(仮)は、全く進展しない会話を進める、妙案を思いついたのか。
 背中の複雑に突き出た、機械翼を展開させ、右手を、前に突き出した。

「ウェポン01、ペンソード」

 手元から一本の光が、真横に広がり。
 一振りの剣が、スマ子(仮)手元に握られる。

 こんな演出を、タネもなく見せつけられる。
 コレには、沙羅は素直に驚いた。

 サヤに収まった、身の丈ほどの、長い直剣だったら、なおのこと。

「走れ、電流」
 柄を握り、スマ子(仮)の、掛け声の呼応し。
 サヤだと思われていた部分は、男心をくすぐる、複雑な変形を見せ。

 そのまま、軽く一振りすれば。
 雷が落ちたような轟音が弾け。
 意思を持った青白い電流は、変形した、刃渡りを踊る。

 その武器の姿こそ、まさに。

「電気警棒の、カッコ良いヤツじゃん。ソードは、ドコにいった?」
「柄の辺りです」

「ペンは、ドコいった?」
「この剣は、このように」
 近くの木に、剣先をなぞらせると、黒いインクが、一筋の線を描く。

「その剣(笑)、芸が細かいなぁ…」

剣ですらないと、突っ込まない沙羅に、諦めが見える。

「書き心地抜群! 最後の一滴まで使える! ジェルインクを搭載!」
「それ以上、口にするの、やめろよ。商品名まで、飛び出そうだから」

「沙羅様、ソレ知ってる!」
「なにをだよ」

「そういうの、メタいって、言うんですよね!?」

「お前は、ソレで良いのか? 抜群の笑顔で、何言ってるんだ?」
「ペンソード、すごいでしょ!?」

「うん、そうだね…」
「信じる気に、なったでしょ?」

「…それで、スマ子や、他に何ができるんだ?」
 沙羅は、今の現象を、記憶から抹消すると決めた。


 嬉しそうに、自分の能力をプレゼンしている彼女は。
 沙羅の瞳の奥が、死んでいることに気づかない。

 右腕の袖を上げ、防具のガントレットに、液晶がついているモノを、沙羅に見せつける。
 防具として使えば、確実に、画面が割れる代物だ。

「このガントレット、充電ができます!
 充電量は、バッテリーに比例しますが」

「いらないよねぇ?」

「スマホ性能の全てを、使用できます!」
「おっそれは、使えるかも。水を探せるじゃないか!」

「スマホアプリを、なめないでください。
 今、お探し、します!」

 これで、この何も分からない状況が、やっと変わる。

 スマ子(仮)を、見れば。
 ペンソードを、地面に付きたて。
 右腕に向かい、人差し指を走らせる姿は、実にシュールだった。

 ガントレットに、スマホが付いているようなモノなのだから。
 使い方も、スマホと大差ない。

 小さい頃、右腕に通信機をつけて誰かと話す、という設定の。
 ごっこ遊びを思い出させる光景だった。

 こうすれば、中二病が満足いく。
 通信手段を、手に入れることがデキるのである。

「沙羅様」

「水、どこにあった!? やっと顔を洗い流せる!」

「ここの地形、そもそも、データになくてですね」

「…ほぉ?」

「GPSが、どうやら使えないようでして、ですねぇ」

「へぇ…」

「電波も、ないみたい、なんです」

「…うん、それで?」

「何も、分からないです」

「知ってた! そんな気がしてた!」

「でも、メモ機能とか、カレンダーとか、使えますよ。時間も、分かりますし」
「電源切れたら、それも、使えなくなるわけですかねぇ?」

「……。はい」
「つっかえねぇ!」

「もはや、かくなる上は」
「かくなる上は?」

 沙羅の声に反応するように、スマ子は、ペンソードを地面から引き抜き。
 流れる動作で刃、というか、棒を、首筋に向ける。

「私の命をもって、素材を、お返しいたします」
「どうして、そうなった!?」

ソレは、誰もが知りたい。

 スマ子(仮)の奇行は、止まることを知らず。
 無表情で綺麗な顔に、二つの雫がつたい。
 スマ子(仮)の体が、小刻みに震えだした。

「私は、沙羅様が空から落ちるとき、助けてほしいという強い思いから、生み出された存在です。
 もう、私が生まれるために使われた物は、なくなってしまいました」

 スマ子(仮)は、まっすぐ沙羅を見つめる。

「ソレを、先に言えよ! お願いだから!」
 スマ子(仮)は、自分に酔っているのか、それとも、本当に、追い詰められているのか。

 沙羅の言葉は届かない。

「それを返さなくてはいけない、ちゃんとした名前も頂けないと、言われるのならば」
「言われるのならば?」
 無表情の顔の口元から整った歯が見え、決意を沙羅に伝えた。

「私の命をもって、コノ体を、お返ししましょう!」

「死体を押し付けられても、迷惑、極まりないんだが!?」

「素材からできた、私の体しか、お返しできません。
 名前も頂けないのです、もう、コレしか、ないないです」

 スマ子(仮)が語尾に、ちゃめっけを入れているところを、拾ってはいけない。
 なぜなら、話しが進まなくなるからである。

「ソコか! それが、そんなに嫌なのか!?」

「沙羅様は、とても希少な力を持って、この世界にこられました。
 私のような生命を、物から生み出すというお力です。
 そのお力、存分にお使いになり、これからも、お励みください」

「待て! 何、そのチュートリアル!?」

 スマ子(仮)は、沙羅の問いかけに、首をかしげた。

「え、沙羅様。ご存知でない?」
「まったく、な! だから、その電気警棒を、しまってくれ」

「電子警棒じゃありません、ペン__」
「イイから、しまってくれ」

 ペンソードは、地面に向かい、光の中に消える。
 ここまで、胸をなでおろすという表現が、似合う場面も少ないのだろう。

「えっと…。私も、実体験しか、お伝えできないのですが、
 私は、沙羅様が、生み出したんですよ?」

「どうやって?」

 お互いに首をかしげ。
 相手に答えを求める不思議空間に、沈黙だけが残った。
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