遭難9日目 村に行こう・リベンジ 3

文字数 3,649文字


「お前の心が、って言ったら、俺、歩いていくぞ」

「……。飛行するときに、決まってるじゃん!」


 少しの間が、不安をかき立てる。

 沙羅の、危機を感じ取る、嗅覚を、なめてはいけない。
 この一週間、どれだけのパターンで。
 とんでもない目に、あってきたことか。


 彼女達が、ぶっ込んでくるタイミングも、空気も。
 読み切れるほどに、沙羅は成長したのである。

「そんな、取ってつけた言葉を、信じると思うなよ、コノヤロウ!」
「沙羅先生」

 ジュライ子の声に、顔を向ければ。
 ジュライ子の顔は、より一層、微笑んでいた。

「…なんだよ、ジュライ子」
「沙羅先生。もう、めんどくさいんで」

「……」

「さっさと、ブルースカイちゃんに、抱きつかれてください」

「え? そういう趣旨の話なの?
 村に行く道中、優しく飛んでいくとか、そういう話じゃないのか!?」


 ソレは、残念ながら。
 だいぶ前に、済まされた話のようである。

「ソレはもう、優しぃ~く。
 飛んでくれるから、安心してください」

「痛いと行っても止めない、歯医者みたいだな」
「沙羅先生、ブルースカイちゃん。」
「はい」


 沙羅の言葉は聞き流され。
 沙羅に、正面から抱きつくブルースカイ。

 もう、沙羅に拒否権は、ないようだった。

 背丈が頭一つ分、沙羅のほうが高い。
 男に抱きつく、かわいらしい水色の髪の彼女は。

「沙羅、コッチ向いて」
「……。はぁ?」

 抱きつかれた、気恥ずかしさなんて、一瞬だ。

 目線を、ブルースカイ向けたとき。
 沙羅の体を抱く、ブルースカイの力が増し。
 まるで、ジェットコースターの、安全バーのように、ビクともしない。

「なぁ? なんで、空を飛ぶのに、向かい合う必要があるんだ?
 なぁ? ブルースカイ、教えてくれ」

「安定するんです!」

 ナニがだろう。

 自信満々に、胸元から覗く顔に、言い切られれば。
 沙羅は、何も言えなくなった。

「沙羅先生って、言葉キツイくせに。
 コチラから、グイグイ行くと、やっぱり、へたれですね」

「ジュライ子、聞こえてるからな!」

「じゃあ、いってらっしゃぁ~い」
「おま__」

 沙羅の言葉は、上空に消え。

 見上げるブルースカイの、嬉しそうな姿が見え。

 ジュライ子は、なぜか、暖かい気持ちに包まれていた。

「よかったね。ブルースカイちゃん…」

「ジュライ子ちゃん?」
「なんですか、ダメ子姉さん?」

 つい名前を呼んでしまったと、ダメ子を見れば。
 沙羅を見上げるダメ子は、聞き流したようだった。

「もう、喋って良いのかなぁ?」

「姉さんは、そろそろ、自信もとうね」
「何に?」

「……」
「うん、ごめん。話さないほうが良いね」
 暖かい気持ちは、水をかけられ。
 体育座りで、おとなしくなった、姉を見ながら、ジュライ子は、つぶやいた。

「はやく、なんとかしないと、ダメかもしれない…」 



 スレイと植葉を連れ、沙羅は、村の入り口を見上げる。

「長かった…」

 たかが数日、されど数日。
 この世界に来て、はや、一週間以上が経過し。

 最初から求めていた、人里での暮らし。

 ダメ子、岩沢、ジュライ子が生まれ、短い、横穴生活。
 白龍ブルーと出会い。
 ブルースカイが誕生し、スレイ事件。


 そして、会話が、できない絶望を味わい。

 新たな拠点を作るも、雨で、ヒドい目にあい。
 新拠点を、シッカリ作り、相談して、植葉が生まれた。

 文章にしてしまえば、こんなにも短いが。

 石造りの入り口を見るだけで。
 今まで積み立てた努力が、ありありと、頭に浮かぶ。

 もう、あんなに苦しい思いを、しなくて良い生活が。
 この門の向こう側に、待っている。

 堅いベットで、寝る必要がなく。

 品目が多い、温かいご飯を、食べる毎日が、やっとやってくる。

 一つの区切り。

 一つのゴール。

 カッコ良く言うなら、終わりの始まり。


 沙羅は、岩沢に出させた、キレイな魔法石を、ポケットの中で握り。

 まだかと、目で訴えているスレイに、沙羅は、笑顔を返した。

 これで、辛い思いをさせなくて済む。

 そう思うだけで、がんじがらめになっていた心が、軽くなるのを感じ。

 再度、見る植葉は、かわいかった。

「GO、植葉」
「ナニをすれば?」

「町の人と会話をして、これを売って、金を作る」
「うん」

「それで、ハッピーになる」

「うん? 沙羅先輩、大丈夫?」

「なにが?」

「言葉を、話せるようになってから、村に入ることも、デキるけど?」

「……」

「沙羅先輩は、私に、とりあえず、岩沢ちゃんの魔石を売らせて。
 その先は、ノープランなのね?」

「はいぃ。中に入らないと、プランも、ナニもないねぇ」

「GOって言うの、違うでしょ? 一緒に行かないの?」

「なんで、オレは、怒られてるんだ?」
「怒ってないわよ? そんな、ヒモ男な所も好きだから」


 あきれるのでもなく。
 あきらめて、いるわけでもなく。
 植葉の笑顔は、マジだった。

 沙羅は、歩き出し、スレイの手を引く。

「早く行くぞ、植葉」
「私が、沙羅先輩の都合の良い女になるから、行かなくて良いわよ?」

「うるさい! オマエ、ワザとやってるだろ!」

「そんなこと、あるわけ、ないじゃない! マジよ!」

「なお悪いわ!」 

 門をくぐれば、一度目とは違い。
 周りの風景が、もっと、鮮明に、目に飛び込んでくる。

 両脇に伸びる、木の枠に、布の屋根がずらりと並び。

 一つ一つ、全てが、何かを売っている店だと分かり。

 正面から、まっすぐ延びる石畳が。
 奥に見える、噴水まで続いていた。

 石畳の道幅は、馬車が二台、対向ですり抜けても、十分すぎるほどの幅があり。
 商店の裏側には、石と木造の建造物が並び。

 道の端から歩いてくる親子を見れば、住宅だと分かる。
 ようやく、おちついて見渡した、第一発見した村は。

 村ではなく、街だったのだ。

 文化レベルが低いからこそ。
 田舎くささが、残るが。
 それでも、見方を変えれば。

「ファンタジーだ…」
「パパ、ファンタジーってなに?」

「……。説明する言葉が思いつかない、だと?」
「そんな所も、大好きよ?」

「愛情を、確認してねぇから!」

 植葉は、周りを見渡し。
 長く伸びる道の、奥を指さした。

「この奥に、ギルドが、あるみたいよ。
 登録には、お金がいるみたいね。
 ギルドって何? 沙羅先輩」

「ブッた切るなぁ~、おい。
 会話のキャッチボールしようぜ~、植葉」

「魔法石を、さっさと、売ったらどうなの?」
「キャラが安定してないのは、なんでだ?」

「どうしたら良いのか、分からないだけよ!」

「えっと、ソッチが素なのか?」
「そうよ! 沙羅に気に入られようと思って、コッチも必死なの!」

 顔を赤くして言う、植葉の姿に、沙羅は。
 ああ、ツンデレが、デレた後だと、妙な納得の仕方をしてみた。


 デレるまで、がないから。
 ありがたみが、薄れるのだが。


 沙羅が、ため息を吐き出すと。
 並びの店の人から声が、かかったのか、植葉は、口を開く。

 表情や動きから。
 相手が何を言っているのか、察するしかないが。

 丸く、小キレイな服を着た。
 ひげを剃り揃えた、身長の低いおじさんが。

 沙羅の手のひらにのる魔法石を指さし、饒舌に話していた。

 ナニを、恐れることなく。
 自然に、相手の言葉に答える植葉の口から出る言葉は。

 沙羅には、理解できず。 

 言語を仕分け、翻訳する力。

 思念通りに、言葉が伝わると言われ。
 口から日本語が、出るのかと思っていたが。

 なるほど。
 こういうことなのか、と。
 妙に納得して会話を見守る。

 今、植葉が思いを伝えたいのは。
 この店の、おっちゃんに対してだ。

 沙羅に対して、ではない。
 なら、植葉の能力は、実際に、どのように表れるのか。

 言語など知らなくても、スキルが仕分けたなら。
 知らない言語でも、口から出てくるのだ。


 植葉の感覚からすれば。
 日本語を話しているだけ、なのだろう。

 だが、能力は、不自然にならないよう。
 帳尻を合わせるように。
 表に見せる姿は、一般的だ。

 聞いている植葉は。
 相手の言葉を聞いても、言葉そのものを、理解できないだろう。


 それでも、上手い、受け答えを可能としているのは。

 相手が何を言っているのか。
 植葉の能力が、植葉自身に、リアルタイムで、通訳しているのだ。
 そして、植葉の口から言葉が出る前に、翻訳し、外に出している。

 植葉の能力を、知っているからこそ。
 見ているだけで気づけるが。

 何も知らなかったら気づけない。

 少し、不自然に思える反応も。
 ただ、スゴクカワイイ女の子が。
 カワイイだけの仕草にしか見えない。


 目の前で起きている不自然が。
 とてつもない現象だと、理解できるのは。

 知っているモノだけだ。
 植葉は、受付嬢スマイルから、身内スマイルに切り替え。

「魔法石、買ってくれるそうよ?」
「おいくら万円?」

「金、三十って、いくらなのかしら?」

 今更だが。
 沙羅達には、この世界の社会常識が、ないのである。

「ソコから、始めなきゃじゃん?」

「今から気づいても、遅いわよ!」

 なぜ、ソコから始めないのか、疑問である。




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