戦力増強と言うなの、ダメ子いじり 2
文字数 3,361文字
食糧番長の爆弾発言に、頭が真っ白になり。
「…あ、ああ。…そうなのか」
よくよく、考えてみれば。
ジュライ子誕生に使った素材に、食糧を使っていない。
そこら辺にあった、石や枝や、刈り取った草、そして岩沢の魔法石だ。
ダメ子は、スマホを素材として生まれてきたから。
スマホ機能、全てが使える事から考えれば。
最初から、菜っ葉を作れるだけ、スゴいと、思うべきなのだろう。
それでも、物足りないのは、事実である。
種が見つかるまで、もう、仕方ないのかと、黙々と歩き続け。
どれだけの時間がたったのか、分からないまま。
沙羅の思考は、別の方向へ、ズレていく。
「なぁ? ウチの戦力を増強しようと思ったら、どうしたらイイと思う?」
考えなしの発言である。
だが、スレイと岩沢以外は、一瞬行動が止まった。
戦力を増強する方法は、安易で、最も簡単な方法一つしかない、と。
彼女たちは、一瞬で気づいたからだ。
新たな妹の誕生である。
「お父さん。戦力増強って、なに?」
疲れたと目線で訴えた、スレイを肩に乗せて歩く、沙羅が、何かを口にするたび。
沙羅が、頭の上から話しかけてくるのにも、なれてきた頃。
「スレイ、聞いててごらん」
「は~い」
「沙羅様。戦力増強って、急にどうしたんですか」
一番先頭を、ホバー移動する、ダメ子は振り返る。
「また、あんなことになるのは、嫌だなぁと、思ってさぁ~」
誰でも、そうだ。
物理的にも。
精神的にも。
あんなに苦しい思いを、望んでしようとは思わない。
「ソレは、そうかも知れないですが…」
昨日の今日だ。
鮮烈に刻まれた竜騎士の姿。
圧倒的暴力に、何もできなかった無力感。
そして、ただ、疲れ、傷つき。
もう、ダメだと思った絶望感は、拭えない。
それこそ、安易な方法で戦力を増やしても、良いと思えるほどに。
「でも、今以上の戦力なんて、そう簡単に、用意できると思いますか?」
ただ、法の力を使い、もう一人増やしても、人数が増えるだけだ。
一人で、竜騎士に対抗できるような姉妹が生まれるとは、考えにくい。
最も良いモノを素材にしても、ダメ子だ。
単純なモノを使っても、岩沢になり。
かき集めても、ジュライ子になる。
竜の体を使っても、ブルースカイ。
竜騎士本人であっても、スレイなのだ。
一人一人の戦力を見れば。
ダメ子も、ふだんはアレだが。
いざ、戦闘になったときの動きは、目を見張るものがある。
ダメ子を弱いと言ったら。
沙羅は、本当に、タダの役立たずだ。
岩沢のロックフィンガーも、力こそ未知数だが。
もともと、身体能力が、ズバ抜けている。
本人は自覚すらないが。
自身の体重を、コントロールする能力と合わさった、岩沢の動きは。
ダメ子の上を行く、凶悪さだ。
岩沢でも対抗できない。
上位の存在なんてモノに出会ったことが、天災に感じられる。
この二人に加え。
ブルースカイも参加した。
十分以上に戦力増強に、なっているのだろう。
ブルースカイいわく。
空を飛べるのは、自分の中の魔力を、使い切るまでらしい。
鳥のように、物理的に飛んでいるわけでは、ないわけだ。
白龍は、圧倒的魔力を保有し。
この世界のルールが、許す限りの奇跡を、実行できるのが竜なのだが。
大前提として、圧倒的魔力があってこそだ。
白龍から生まれたこともあり。
姉妹の仲で一番、魔力保有量が、あるのだろうが。
竜には、及ばない。
持っている刀は、刃こぼれすることない、一品だ。
魂さえ断つ刀らしいのだが。
切れ味がスゴすぎて、扱いに困るとも漏らしていた。
この刀も。
鞘から抜くと、ブルースカイの魔力を消耗していくため。
コレもやはり、魔力残量がなくなると、使い物にならなくなる。
ブルースカイは、一つ一つを見れば、戦力として極上だが。
完全に魔力に依存のため、長くは、戦えないだろう。
魔力を、込めて刀を振ると、望んだ所に斬撃を飛ばせるという、トンデモ機能がついているのだが。
これこそ、必ず相手を殺さなければ、自分が追い詰められる結果になる。
そう、乱発できるモノでもない。
泳いでいた魚の頭を切り落とし。
回収したとき、分かったそうだ。
この流れも、もう安定だ。
結局、行動を起こした分しか、前に進まないらしい。
三者三様。
強みを持っているのは、嬉しいことなのだが。
また、竜騎士のような、化け物と戦うことを考える、と。
まだ、コレでは弱い。
だからといって、トンデモ能力の持ち主たち以上の戦力を、欲しがっても。
かなり難しいのも分かる。
戦力を上げると言えば。
連携や、各々が戦いに慣れ、自分の戦い方を煮詰めることで、上がっては、いくのだろう。
そんな環境は、ないわけだが。
移動が続く今、環境を見つけても、活かすことはできない。
沙羅が口にしている戦力とは。
純粋な力、パワーの話である。
いくら速さで、上回ろうと。
いくら、うまく立ち回ろうと。
圧倒的な、ナチュラルパワーの前には、無力だ。
人同士の戦い、争いにおいて、人は人以上になれない。
一つの戦場で、一個人が、拳一つで、万人殺せる訳がない。
武器の優劣が、組織の優劣が、練度の優劣が…となるが。
この世界は違う。
一個人が、万人を殺すだけの力を、持っている可能性があるのだ。
大前提として、ナチュラルパワーが、相手と釣り合うからこそ、戦いになる。
戦略が、兵站が、武器が、意味を持ち始める。
竜騎士が、現代社会に現れたなら。
核でも、細菌兵器でも、意識を奪う薬品であっても、通用しないだろう。
殺せない、倒せない、止められない。
一個人で、戦略兵器たりえる。
忠義はすべて、白竜に捧げている。
どこまでも、目的を果たそうとする、彼女を。
止めることは、できないだろう。
人間を前に、アリを何匹、用意した所で、踏みつけられて終わりだ。
それでも、害虫になってしまうなら。
強力な大量殺虫薬で、死滅させられるだけだ。
「そうだなぁ~。ナチュラルパワーを、のばすなら…。
岩沢が、一番、有力なんだけどなぁ~?」
「ん? わたし~?」
「ああ、そうだ。竜騎士と戦った時、どんな感じで、力使ったんだ?」
「ぜんりょくだよぉ~」
「ソレは、分かる。だから、使い方の話をだなぁ~」
「力一杯だよ!」
「うん、分かった。よ~く、分かった」
何も分からないと、言うことが、分かったのである。
これ以上の会話は、無意味。
疲れるだけだ。
「はぁ…。ん? ちょっと待てよ…」
竜騎士との戦闘時。
竜騎士は、岩沢の力を、真正面から、受けてなどいない。
岩沢の力を流して、岩沢の柔らかい体を殴りつけ、無力化させたのだ。
相当な、重量になっていたハズの、岩沢を。
殴り返すだけでも、十分、化け物だが。
竜騎士が、真正面から、力を受けることを、避けたのなら。
岩沢が、鎧などで体を守っていたら。
竜騎士が、岩沢を、殴り返すことがデキなかったら。
竜騎士に、強烈なナチュラルパワーを、振り落とせたのかもしれない。
「岩沢、ほとんど裸だしなぁ~。
って、そうか。鎧を身につければ、イイじゃない」
「沙羅様、鎧って…。
今は、食べるものにも、困っているぐらいなんですよ?
そんなモノ、ドコにあるんですか?」
「自分で言っていて、なんだけどさぁ~。
俺、もうすでに、この話のオチが見えたぞ、ダメ子?」
「…じつは、私もです、沙羅様」
「だよな、絶対、そうだよな?」
「石ですもんね」
「そうだよな、鉄鉱「石」だもんな。
俺達が気づかないのが、本当に、馬鹿らしい話だと思うし。
でも、これ、デキたらヤバいぞ」
「できたら、鉄の造形を、やってのけるんですから、鍛冶屋いらずですね」
鉄を簡単に加工できる。
火もなく、型も必要なしに。
ハンマーでたたき、造形する必要もない。
現代の機械加工以上に簡単に、望んだ形にできるなら。
それは、人類の歴史を見ても、とんでもないことだ。
折り紙のように、紙さえあれば、何でも作れるのだから。
やはり、岩沢が一番、基礎ポテンシャルが、高いのかもしれない。
石だけで生まれたことが、功を奏している。
行き当たりばったりの、試しに、法の力を使ってみよう企画は。
とんでもない生命を、生み出しているようだった。