あとは、ただ、告げるだけ 2

文字数 2,221文字


「かわいそうだとか、同情しろとか。
 そう言う話じゃない。

 ただな、知らなくてな。

 味わったことがないから。
 そう言う経験が、あるヤツが羨ましくてな?

 成人式に行こうと思っても、もう、行けないんだ。

 祝ってもらいたくても、もう、成人年齢は過ぎてしまっている。

 だから、めんどくさい、金がかかると、言われている中身より。

 やること、言うコト、行くこと。
 そのモノに、意味があると思うんだ。

 同時に、オレには、そういったモノは、つかめないと自覚したから。

 そういった、ありふれているモノは。

 三流のハッピーエンドは、オレにはつかめないと、信じているんだ」

「あ、ああ…」

「つかめないのは、なぜだ?

 オレだから、だ。

 承認欲求? 自己肯定感?

 モット砕いて言うなら、そうだな…。

 相手からの善意そのモノを、期待していない。
 そんなモノを、最初から求めていない。

 オマエらは、オレじゃない。

 それに、希望をつかむための力も、スキルも、人柄も持っている。

 だから、しかるべくして、オマエらには。

 つかめると思っているし、信じている。

 オレの中にある、いくつもの小さな後悔を、味あわせたくないし。

 笑っていて欲しいと、心から、思っているんだ。

 法の力で、誕生させたから?
 方便だよ、そんなもんは。

 親から離れていく?
 バカ言うな、イヤに決まっているけど、オレには、つかめないから。
 オレには、どう頑張っても、届かないから。

 そんなヤツに、付き合わせる理由__。
 いや、小さな不幸を、振りまいてしまうヤツが。

 近くにいないほうが、うまく廻るだろ?

 邪魔をしないだろ?

 なら、最善は、何だと言うなら。

 それは、オマエらには、関係ない問題を、全てを取り除いた上で。
 オマエらの前から、消えることだけだ」

 リカの手は、ゆっくりと落ち。
 目元から、ボロボロと、涙がこぼれる。

「…なんで、気づけなかったの、ワタシは」

 沙羅の行動が、異常に思えたときもあり。
 違和感さえ、覚えたときもあった。

 リカよりも、長い時間を過ごしている、姉妹なら、なおさらだろう。

「あとは、簡単だ。

 オレは、目を閉じて、耳を塞ぐから。
 ナニも見えないし、ナニも知らないから。

 バカにでも、恨みでも、何でも、すれば良い」

 最初から、今の今まで。
 言葉で覆い隠してきた。

 沙羅は、いつでも、三流のハッピーエンド。
 最善だと、暖かい未来になるハズだと。

 ガラでもないコトをして。

 自分ではイケないから。
 今、望まれている、キャラを貼り付けて。

 ただ、ただ。
 一つの思いだけで、やってきただけ。

 竜騎士事件、新拠点での雨、ソニャの件。

 ブルーの遺産、白龍としての覚醒。

 全て、一貫されている。

「オレはな? どう、相手が受け取るか、よく分からないからな?

 理由を、バラして。

 一つ一つに、納得できるだろう、理由を。
 貼り付けて、口にしていた、だけだ」

 そう、何一つ。

 沙羅自身が、変わっていた、ワケではない。

 沙羅は、素直で、柔軟なだけだ。

 あるがままを、受け入れ。

 その上で、考え方、やり方を、ドンドン変えていく。

 人が抵抗を感じることでさえ。

 必要だと思えば、やってしまう。

 それが、外から見たとき。

 沙羅が変わったと思えてしまう、錯覚の正体だ。
 
 沙羅は、ドコまでも、周りの評価を気にしていない。

 自己満足を、追求している。

 みんなが笑ってくれれば、幸せになってくれれば良い。

 一見、周りを気にしているようにさえ、思える行動も。

 沙羅が、ソレを見たいから。

 見られれば。

 沙羅は、それ以上の報酬を必要としていない。

 一人笑いながら、傍観者として、ドコかで見ている。

 ソレこそが、沙羅の望みなら。

 大きな問題が、おこるたび。

 沙羅自身が計算に入っていない理由は、まさにコレだ。

 自己犠牲を、容認しているワケでも。

 美しいと、思っているワケでもない。

 英雄か、偉人に、なりたいわけでもない。

 とことん、沙羅のリアリズムによって。

 組み立てられた、感情のない理屈に。

 そうした方が、うまく行くんだ。
 みんな、笑えるんだ。
 という、感情の血を通し。

 沙羅が、信じる理屈に、従っているだけだ。

 ソレがイヤでも、コレしか、知らないから。

 だから。

 裸になってしまえば。

 感情がないと思える言葉が、並び続けるのだ。

「ハッキリと、言葉にしてくれ、か…」

 コウして、前口上を置かれると。

 リカの顔は、上がるが。
 どこか、萎縮して小さくなるのも、仕方ない。

 リカ自身も、分かってしまったから。
 逃げることは、もう、叶わない。

 ただの思い違いであったなら、間違いであるなら。
 すれ違いであったなら。
 どれだけ、救われたのだろうと。

 沙羅の言葉を聞いてから、後悔しても、遅すぎる。

 沙羅は、何一つ、間違っていない。
 正しいと、思える要素が、おおよそ見当たらなくても。

 ありていに言うなら。
 沙羅は、自分の信じる正義を、信じ。
 経験上、実績のある方法で、対処していただけ。

 一貫しただけだ。
 ドコまでも、沙羅が思う、一番成功率の高い方法を。

 一番、最善だと思う方法を。
 感情を無視して、選び取っていたに過ぎない。
 
「オレは、スキだとか。恋愛だとか。愛だとか。
 そうだな…。
 信じてない。存在すら、疑っている」

 コンナことを、聞いた相手が。

 どんな感情を示すか、知ってると。

 沙羅の冷たく、深い目の奥は。

 淡々と、リカに語った。
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