ベーシックインカム・奴隷商 サイモン 3

文字数 3,402文字


 街という「社会の中」で、より多くお金を得て。


 より良い生活をするために、家族を増やすのだ。

 まわりの評価が、大事になってしまっている、この社会で。
 自ら、評価を底辺に、突き落とす、と、言うことは。

 おカネは、あるが。

 ナニも、買えなくなるし。
 なにも、手に入らなくなると言うことだ。

 考えてみれば、当たり前だ。

 モノを、売り買いするのは、人であり。
 人にとって。
 必要なモノを、提供するのも、作り出すのも、人なのだ。

 原始的な文化レベルの、この世界で。
 信用は、何よりも重い。

 この世界で、クレーマーや、職業や収入によって、人を見下す人物は。


 仮面家族と言われる、外面だけ整え、内側に闇を抱えている状態では。

 まわりの信用など、得られるわけもない。


 街社会・村社会の中で。
 窓際族になったモノに、温情など、誰も与えないだろう。


 実力うんぬんでは、なく。


 生活費を、稼がなければいけないという、首輪が外れている彼らは。
 ヒドく、人間的なのだ。

 余裕なく、毎日電車で、居眠りしながら、通勤し。
 決まった道を、何度も往復するだけの生活から、解放されている。


 忙しいからと。
 見て、見ぬフリされるモノも。

 目に触れなかったモノも。


 考えもしなかったことでさえ。


 すべて、目についてしまう。

 目についてしまうなら。
 自動的に、社会的刑罰を受けることに、なるのだ。


 警察等や、自警団。
 ある意味、暇人をつくって、人が、人を、取り締まる必要がない。

 この世界で、彼らに捕まると言うことは。
 極刑が、確定している場合だけだろう。

 社会的性制裁と、言葉の上では聞くが。

 この世界は、実際に、肌で感じられるほど。
 隣人、まわりの人々の存在は、大きいのだ。

 「罪」を取り締まる法律ではなく。
 隣人が、取り締まる「目」に、なっている。


 隣人が声を上げてしまえば、事件になってしまうのだ。


 その基準を示すのが、ソニャのような、領主になるのだろう。

 領地ごとに、別の法律があるようなモノだ。

 モノを大きく言えば。
 州ごとで法律の違う、アメリカのような統治体制だろう。

 法律は、領主だ、と、なれば。

 領主に選ばれる人とは、相当なモノだ。

 この制裁は、個人の世界を、つくっているモノを。
 直接的に、破壊する方法として、これ以上のモノはない。

 小さな、人の集団社会で、声が通るのは早い。
 村八分が、これ以上なく、発揮されるのだ。

 沖縄でさえ、東で言ったことなのに。
 西へ帰れば、皆、知っているほどだ。

 規模の小さい、一つの街や、村となれば、なおのこと。
 
 暴力でも、物理的な刑ではない。

 社会的に、駄目になったグループは、失墜し。
 買い物さえ、デキなくなり。

 街の中で、それこそ、サバイバルを強要される。

 こうなってしまえば。

 いくら、お金を積んでも。

 どんなに、持っていても。

 あれだけ欲していた、お金が、無用の長物に、なってしまう。

 こうなれば、グループ解体。
 一家離散の道しかなくなる。

 社会的評価を得るには。
 人と関わりを持ち。

 どう言う形でアレ。
 集団生活での立場を、確立する必要あるのだ。

 元来、誰かのために、何かをするのが、「仕事」なら。

 金を稼ぐためだけに。
 手を出さざる得ないモノに、成り下がった「仕事」とは、大きく違う。 

「俺が思っているより…」

 容疑者という肩書きは、重いのだ。

 このまま、罪人となれば。
 殺されても、おかしくない。

 警察も、ナニも。

 警備も、ナニも。

 必要としないのだ。

 贅沢をしたいが為に、頑張るのなら。

 皆、縦横無尽に、手を、つなぎ合う必要が、あるのだから。

「一家離散があり得るなら…。
 安易に、親族を増やすことはデキない、なら…」

 一家離散の、具体的な形を想像するなら。

 なにかの罪人を、つり上げた時点で。

 罪人を、生み出してしまった、親族グループは、一家離散の危機だ。

 名字という看板は、非常に重いモノになる。

 身内で、不祥事を起こさないよう、身内が、誰よりも気を払う。


 それこそ、身内の中で、汚いモノは。


 どうしようもない、モノは。

 ないモノに、しようとするだろう。

 必死に、よりよい家族に。

 一人一人が、良くなろうと。

 個人ではなく、家族で努力するだろう。

 それでもダメなら、名字を捨てさせて、追放だ。
 
 親族の中に、普通の人が、デキることが、できない。
 ナンの才覚もない。
 グーたらが、産まれる分には、まだ、カワイイ問題だ。


 デキることを探して、やらせていれば。
 一応の決着を、見せるだろう。

 それ以外の問題を抱えた場合。
 非常に、厄介だ。

 言葉通り、ナニもできないモノは。
 見ているだけで、不愉快なモノは。

 ただの迷惑となる。

「……」

 サイモンの後ろにある、階段が。
 沙羅には、奈落へ続く階段に、見え始め。

 この先に、売る気がある「商品」が、あるのなら。

 安ければ、安いほど。

 けして、気持ちのよいモノなど、出てこない確信が、沙羅の中で膨れた。


 本人の、人間的な意思とは、関係なく。
 生まれ持った、肉体そのものに、意味がある。

 女性であるから、奴隷になれる。


 女性奴隷であるだけで、社会的立場を、手に入れることがデキる。
 ハイリターンを、購入者に、返すことがデキる存在に、なれる。


 明日の金のために、働く必要がないなら。
 「仕事」は。
 望んでやるか、誰かに求められてやるのか、しかないのだ。

 社会には、必要とする立場が、無作為につくられる。
 その枠に、無理矢理にでも、ハマってしまうか、しかない。

 働くことが、不得意であるから。
 社会でウマく、やっていくことが、デキないから。

 昼職で、やっていけないから。
 夜職に、ついているから。

 大人のお風呂屋さんで、働くこと。
 俗に言う、風俗店で働く立派な女性達が。

 なぜ。
 わざわざ、自分の体と、心を、切り売りしてまで。

 男相手を選べない、サービス業で。
 相手の体液を。口に含まなければ、ならないのか。

 想像できない、のではなく。

 十人十色、いろんな色が、ある。
 と、皆が、口を、そろえて言うように。


 想像しないように、してしまっているだけだ。
 想像できる最悪は、必ず存在する。


 見えないから、ないと思っているだけなのだ。


 SNSが普及しても。
 まだ、見えない世界は、広く。


 事実と異なる色で染めてしまっている、場合の方が多いが。


 十人十色を、認めるなら。
 橋の下で、住所もなく暮らしている、彼らを。

 自分の世界である社会に、受け入れるべきである。

 自分がデキるのだから、相手に、デキないわけがない。
 こんな、常套句を、ぶら下げて。

 十人十色を、否定していることに、誰も気づけない。


 十人十色を、良い言葉のように受け取るのは。
 建前上、良い方向に話を、流しやすい言葉だからだろう。

 なにも、言わず。

 ナニも、解決せず。

 問題を解決した気にさせる、魔法の言葉だ。

 本当の意味で、この言葉を、飲み込むなら。

「ご覚悟は、お決まりに、なりましたか?」 


 サイモンの的確な言葉が、沙羅の心に、のしかかる。

 一番、良いモノを見れば。
 商品の善し・悪しが、分かる。

 先に、悪いモノを見せつけ。
 嫌悪にゆがむ、相手の顔を見た方が。
 早かったのでは、ないだろうか。

 沙羅の疑問に。
 沙羅の頭が、答えた。

 気づけば、サイモンは。
 沙羅に、欲しいモノを。
 小出し、しているじゃないか、と。

 明言を避けているのは。
 会話を必要、最小限に、とどめているのは。

 サイモンの配慮だ。

 奴隷商として。
 一、商人として、買い手に、配慮しているだけ。

 この大陸に住んでいるモノなら、この屋敷を、一周しただけで。
 サイモンが、これから見せようとしている。
 「商品」のキレイな、うわべをなでた、だけで。

 この先に進むか、どうか。


 スグに、判断が、ついてしまうのだろう。


 この階段の前で、立ち止まるのは。
 サイモンが、何度も、繰り返してきた、行動の一つ。

 ココが、ターニングポイントだと、相手に、知らせるためだ。

 知らぬが仏は。
 この先に行けば、通用しない。

 否定するぐらいなら。

 最初から。
 足を踏み入れるべき、入り口では、ないのだから。

 沙羅は、深く、ため息を吐き出し。

「行きましょう」  
「では、参りましょう」

 いとも簡単に、虎穴の入り口。
 その一段を、沙羅は、踏み込んだ。


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