45話 遭難8日目 新しい妹会議 みんなで話し合う、理想の女の子 1

文字数 5,015文字


 遭難8日目。
 沙羅達の朝は、早い。
 日の出とともに、目が覚める。

 抜けていない疲れを感じるが。
 日がまぶしいから寝ていられず、体を起こすしかない。

 慣れ始めたサバイバル生活。
 コレを、慣れと言って良いのか、疑問だ。

 今、安眠できる環境で、腹一杯、食べたいものを食べ、笑い。
 寝たら最後だ。

 トイレ以外で起きてくることはなく、一日、二日は、過ぎ去るだろう。


 沙羅は、皆を起こしてまわり。
 目を覚ました、各自の動きにも迷いはない。


 バラつきが、あるにしてもだ。
 水瓶から、タライに水をうつし。
 顔を順番に洗い。
 一人一人、川に向かって、バケツを持って歩き出す。


 ココから、労働が始まる。
 往復20分もかからず、新拠点の水瓶を満たし。
 かまどを囲む頃には、食べ飽きた芋が焼きあがり。
 ボソボソと、口にし始め。

 いまだ、文化的とは言い難い、生活の改善。
 食事問題だけではなく、指をさせば、問題だらけである。


 なにもないよりは、マシだ。
 思えば、そうかもしれないが。

 それでも、ド田舎の、田んぼの中心に家が建っているような環境より、生きづらい。

 昨日決めた、ルールが、ココまでキツイとは思わず。

 不満しかなく。
 昨日、なんで、こんなことを決めてしまったのか、と、後悔しても。
 こうしなければ、死んでしまう。

 絶対の生存ルールが、昨日の自分を、バカにすることを許さない。
 理性では、理解できるのだ、正しいと。

 だが、体と感情が全く理解していない。
 そんな毎日が、一週間以上、続いているのだが。

 いまだ、根本的な解決などしていない。
 全ては、サバイバル生活が原因だ。

 民家が、この世界にも、あるというのに。
 こんな生活など、耐えられるわけがない。


 塀で囲まれたトイレ。
 それが水洗でなくても、ボットンでも。

 ナニも考えず。
 出すモノを、出せる環境だけで、すばらしい。


 冷蔵庫に冷えたジュースを想像するだけで。
 今日、眠れなくなるまである。

 全力で求める糖分。
 この際、虫歯のもと、グラニュー糖でも構わない。


 脂質を分解した、ブドウ糖の甘みには、もう、うんざりなのだ。
 ナンなら、角砂糖一個が、今は、金より価値がある。

 生活改善。
 積み重ねていけば、いずれ改善するのだろうが。
 改善する前に、倒れたら意味がない。

 分かりやすい文化的な暮らしが、この世界には、あるのだ。
 畜産も、農業も、建築もあるのなら、参加しない手はない。

 スグに手が伸びるのに。
 これだけ、遠回りしているのは。
 この世界の言葉が、全く理解できないからだ。

 覚えるにしても、バウリンガルが、いなければ。
 日本語と英語での会話は成立しない。

 言葉の壁は、ドコまでも、つきまとうが。
 沙羅には、全てを、ひっくり返すチート能力がある。

 ココは、十歩も、百歩も前に進み。

 弥生時代から、鎌倉時代まで、一足飛びするには。
 衣・食・住を確保するには。
 やはりコレしかない。

「第一回、妹を作ろう会議~」
 安易だった。

 使うな、使うなと言われて。
 ポンポン、使えるほど沙羅の心は、大きくない。


 それでも、使うには。

 みんなでカマドを囲む中。
 沙羅は、急に話を切り出すしかないのだ。

 朝イチの話し合い。

 昨日、一日の、仕事の振り分けが重要だと。
 話し合ってから、動き出すように決めたのだが。

 切り出されたのは。
 予定でも、努力でもなく。
 楽をしたい欲求だった。

「命をバカにしている気がするのは、私だけですかねぇ? 沙羅様」
 ダメ子にしては、かなりの正論である。

 言語問題の解決。
 コレを解決しないことには。
 村での、買い物すら、ままならない。


 雨の一件での、新拠点の整備で。
 うやむやに、なってはしまったが。


 それで、もう一つ命を誕生させる、責任を負えるのか。

 つきまとうのは、道徳の授業。

 答えなどありはしない。

 答えがないなら、どうするのか。

 こうすべきだと、意見を並べるしかない。

 衣・食・住を改善するには。
 コレ以上ない方法なのだろう。

 文字を学ぶにしろ。

 言葉を学ぶにしろ。

 何もない状態では、身につくものも、身につかない。
 学ぶ方法がないのに、どうするのか。
 知らない言語の中に。
 知らないと分かっていて、飛び込むことがデキるモノなど、そうはいない。


 未知とは、それだけで恐怖なのだ。


 よく分からない。
 考えれば、答えは無数に存在する。
 一つに絞って、こうだと言い切ってしまえれば、楽なのだが。

 言い切れないモノのほうが、多いなら。

 ゴーストか、おばけか、妖怪か。
 あるのか、ないのか。

 そもそも、分からないモノに対する反応は、同じようなモノだ。

 体一つで、外国に行けば。
 嫌でも覚えるなんて言うのは、幻想でしかない。

 なりふり構わず。
 全てを、自分の中にある、全ての感情を無視し。
 あるがままを、受け入れられる、人ばかりなら。
 人間社会が、こうなっていない。

 飛び込む前に、最低限の教養は、必要なのだ。
 片言でも、会話を成立させる程度には。

 圧倒的なレベルの差を感じて、冷静で居られる人は少なく。

 あまり差がないものと。
 似たり、よったりの比較をして、自分を守るのだから。
 そうでなければ、駅前留学で、早々に挫折する人が、続出する理由がない。

 事前準備するにしても、だ。

 異世界中世文化圏で、赤の他人に言葉を教える物好きを、探すのは難しいだろう。

 そもそも、バウリンガルなくして、会話を成立させること自体、難しい。

 会話ができない。
 ソレは、全ての物事の始まりが、全て、できないということだ。

 対策も何もかも。

 日本語しか知らないのであれば。
 入り口で、すべて門前払いを受けてしまう。

 本当の意味で世界を見るなら。
 国々の情報を、日本語に直したモノではなく。


 各国、数々の言語でかかれた、素直なニュアンスで、読み取るべきだろう。
 できないなら、この世界の言葉や、文字が理解できる人物を、用意するしかない。

 いつもどおりの、他力本願に違いない。

 だが、そんなことを言っていては、いつまでたっても。
 スレイに、満足な生活をさせてやることは、デキないだろう。

 今の生活は、小さな子供にはあまりに不憫である。
 と、言う大義名分があれば。

 どうにだって言えるモノだ。

 都合が良い能力を持った協力者を得るという、赤ん坊に、全てを。
 なすりつけるような方法であっても。

 先に生まれたモノは。
 全体を見て、偽善と建前の後に出る行動が、本心を語るというモノだ。

 だが、だからといって。
 こんなにも、ふざけた見出しを付ける必要はない。

「この世界の言葉と文字が扱える妹、植葉(うえは)(仮)は、どんな子? 会議~」
 やることが、前提になっていた。


 文字を尽くして、心情を語ろうと。
 言葉が軽いのは、いつものことである。

 握りこぶしを突き出し。
 みんなに、食いついてほしい気持ちを隠さない、沙羅に。
 みんなは、ため息を吐き出した。

「今まで、成り行きで皆がいるわけですが…。
 言葉にすると、複雑な感情が、わいてきますねぇ~。沙羅様」


 言葉にすれば、こんなにも、せつない。

「いつも、どおりだろうが」


 そうなのである。

「なまえ~。うえはちゃん、かぁ~」
「いや、それも話し合うからな」

 自分一人の責任に、しないためである。

「私達って、沙羅先生がいなかったら、生活デキないんですね…」

 赤ん坊に親を選ぶ権利は、ないのだ。

「生きては、いけるだろ?」


 究極だった。

「沙羅、そういう事を、言ってるわけじゃないんだよ?」
「だから、話し合おうって言ってるんだよ、ブルースカイ。
 成り行きじゃない、妹を誕生させよう企画だ」

 初の試みが、ココに立ち上がった。

「それでも、ですね。
 成り行きで、どうしようもないから。
 妹を増やそうっていうのは、変わらないんですよ、沙羅様」


  事実だった。

「だから、今度は、ちゃんと考えてやろうって、言ってるんだろうが」


 思惑を隠さずに、である。

「パパ~、お魚、たべたいのぉ~」


 スレイは、本当に限界かもしれない。

「スレイ、ちょっと、待ってろ。今日は、食べさせてやるから」


 根拠も、なにもない約束である。
 コレを人は、口から出任せと言うが。

「やった~」


 こうして、負い目を増やしていくのである。

「さらぁ~。どんな子にするのぉ~」
「ソレを決めようって会議なんだよ、岩沢」
「へぇ~」


 もうすでに、前途多難である。

「まず、どんなヤツにするか、なんだが。
 ちゃんと戦えて、魔法が使えて、バカじゃないは、確定だ。
 時計回りで、どんな子が、良いか言ってみ」


 強制参加型会議に、強制力が、更に、上乗せされたようである。

「それはつまり、私達が、そうだと言うことですね? 沙羅様?」

 しばらくの沈黙が、皆の痛い視線を、沙羅に集める。


 闇深き、彼女達。
 言いたくないことは、言いつくろう必要は、ないのだ。

 悪いことほど、沈黙で。
 相手に勝手に想像させた方が、被害は少ない。

 実際は、もっとヒドイのだから。

 知らぬが仏を、ココは利用すべきである。
 良心が、全力で心を突き刺すが。
 全てを明るみに出すより、よほどマシである。

 気にせず話を続ける沙羅は、成長したものだ。
 成長なのか、どうか。


 ただ、都合の悪いことを聞き流すことを。
 どう捉えるかは、その人次第である。


「俺から時計回りな」
 いつもの並びとなっている順番は、こうだ。

 ダメ子・ジュライ子・ブルースカイ・岩沢。
 そして、沙羅の膝の上に座るスレイだ。

「えっと、かわいくなくて」
「あざとくなくて」
「キャラ、作ってなくて」

 沙羅は、女同士の何かを感じ取った。

「えっと、楽しい子が良いなぁ~」
「妹、増えるって何?」
「お前らの悪意を感じるぞ、俺は」


 沙羅は、自分の悪意を棚上げした。

「え~。じゃあ、私達を尊重してくれて」
「ちゃんと、女の子してて」
「性格良くて、思いやりのある子、かな?」

「オイ、ちょっと待て、ソコの三人」

「なんですか、沙羅様」

「お前らの要望だけ、汚いのは、なんでだ?」

「そもそも、なんで女の子なんですか?
 男の子でも良いじゃないですか、沙羅様」

「そうですよ、沙羅先生」

「こんな子いたら、ほとんどの女の子を、無意識に敵にするよ、沙羅」

「お前らが、言い出したんだろうが!?」

「男の子じゃないのは、どうしてですか?」
「生まれてくるの、皆、女なんだから、しかたねぇだろ?」

「沙羅様」
「なんだよ」

「コレ、みんなで話し合う、理想の女の子合戦みたいですね」

「それで、良いだろうが!」
「キモイ。ほんと、キモい!」

「なんで、俺がディスられてんだ!?」

「こんな、よく分からない会議して、なんの意味が、あるんですか?」
「意味は、あるだろうが!」

「名前は、なんですか?」
「さぁ?」

「考えるの面倒くさいからって、こんな会話を、させないでください」

「じゃあ、もっと現実的な話、してやるよ。素材は、何を使うかだ」

 皆は首を傾げ、順番に口にしていく。

 水・木・草・岩・魚・魔法石・野菜。

「終わり」

 ブルースカイが締めくくり、素材会議は終了した。

「沙羅様、考えるまでも、ないですよね?
 そろそろ、沙羅様のバカも、露呈してきましたよ?」

「お前らの知能指数の低さに、ウンザリするわ。元祖バカに、言われたくねぇ」

「元祖ってなんですか! 沙羅様のば~か!」
「んだと、このバカが!」

「「ば~か、ば~か」」

「ジュライ子ちゃん…。また、始まったね」
「ね。とても、私達の生みの親とは思えないね」

「聞こえてんぞ、ソコの二人!」

「じゃあ、とりあえず、全部、集めるってことで、イイですか? 沙羅先生」

「いや、願いを決めよう会議もあるぞ?」


「沙羅。分かって言ってるよねぇ、ソレ?
 もう、答えが分かってて、言ってるよねぇ?」

「言語問題を解決してくれ、しかないじゃないですか、ば~か」

「オマエ、名前を本気で変える気ないだろ?」

「変える気あるんですか?」


 真顔で詰め寄るダメ子に、沙羅は、異様な迫力を感じたが。

「ないぞ」


 素直に言ってみた。

「ば~か、ばぁあ~か、ばぁあ~~ああかぁあああ!!」

 妹作るなら、どんな子?会議。

 結論は、ダメ子改名が、ありえないという結果で締めくくられた。

 泣きながら。

 バカと連呼するダメ子を。

 皆で、慰め。

 誰一人。

 名前を変えてあげてと、言い出さない。

 異様な、慰め現場がデキ上がった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み