笑って通り過ぎる時間を、作る気はないか? 2

文字数 3,225文字


「沙羅、ツメを受け取りなさい」
 この一言のために、全てが費やされた。
 ブルーの口は、そう言っていた。

 ブルースカイから、ツメの竜紋を取り上げれば、消えてしまう。
 スグに、否定したい言葉なのだが。

 否定すれば、爆発事件から始まった、ウロコの竜紋問題のように。
 笑って通り過ぎるハズだった、あの時間が。

 先送りに、してしまったせいで。
 もっと、血なま臭くなる。
 
 分かってしまうから。
 否定する言葉を、吐き出せない。

「ブルースカイの声で言うのは、卑怯だ…」
 嫌みぐらいしか、返せない。

 続く言葉の先に、壁など。
 作るべきでは、ないのだろう。
 ソコで立ち止まらないため、とは、言葉が良すぎる。

 何も決まらない会議では、時間だけが消費される。
 消費した時間で、拾えたモノを、拾えなくさせていく。

 相手が、伝えようと、してくれているモノ。
ただ、素直に受け取るだけで良い。
 そのあと、ドウするのか。

 どうしようもなく。
 受け取った人の、問題でしか、ないのだから。

 聞き流せない、言葉は。
 それでも、揺さぶるモノなのだから。

「ツバサが、使えない」
 衝撃を伴って。

「沙羅? 笑って通り過ぎる時間を。
 自ら、作る気はないか?」

 沙羅は、竜にまで、気を遣わせている。

 分かりやすく。
 走る馬の前に、ニンジンを、ぶら下げるのだから。

 これで、食いつかないなら。
 全てが、終わるのだろう。

「ブルースカイを、助けられるのか?」
 こう言うこと、なのだから。

「今だからこそ、デキるハズだ。

 この山の鉱石を持ち。
 法の力の練度が上がり。

 この子、ブルースカイが。
 法の生命だからこそ。
 沙羅を、大切に思っているからこそ。
 
 生命の再錬成。

 ゲームなどでは、転成システムと、言うらしいな?
 沙羅は、システムそのものに、なれるハズだ」

 分かりやすいよう、言葉を選んでくれているのだろう。
 だが。

「並んだ、単語のギャップよ…」
 怒りも、なにもない。
 素の沙羅が、ソコにいた。

「法の力は、竜の力でも、使うことが難しいモノだ。
 万全ではない力は、万全ではないなりに、機能する。

 足りないモノは、可能なモノで補填し、形にするなら。

 沙羅自身に、力がついたのだ。
 法の力も同時に、あり方を変えても、おかしくはない」

「変わっているのか?」

「竜の体、三つの神器、絶対無比と、人は言うが。
 私に言わせれば、全て、沙羅へのプレゼントだ。
 法の力を使うために必要な、最低限の力でしかない。

 最低限をもって、使えるだろう、自身の体の作り替えで。
自分自身を強化し。
 力をつけて行くには、時間が、かかるだろう、だが。

 法の力に耐え、本来の力を振るう。
 唯一にして、絶対の方法だ。

 今、なら。
 大量の魔法石、鉱石、素材、だったか?
 必要なモノを、用意さえすれば。
 ツメの竜紋を、沙羅へ返しても。
 この子は、消えずに済むハズだ」

「どうやって?」
 沙羅は、自然に出てきた、フレーズに。
分かっていて、聞き返してしまったと。
 返ってくるだろう、言葉に身構える。

「やろうと思えば、ドウすべきか、方法を探し。
 やりたくなければ、嫌とは言わず、言い訳を探す。

 言葉を栄養にデキるのは、自分自身を偽らない、前者だよ」
 
 デキるデキないは、後の話だ。
 先に決めつけるべきではない。

 あからさまに、怪しいモノはある。

 だが、具体性を持って、自分自身に、何ができるのか。
 想像できたなら。

 あとは、体力と、時間だけで済むモノから、試すべきだ。 
リスクなんて、ないモノから試し。
 試し続けた先で、考えれば。
 デキそうなやり方を、方法は、磨かれ。

 おカネを払わなくても。
 誰かに、やってもらわなくても。
 いつしか、体に備わっているモノだ。

最初に思い描いた、結果とは違うだろうが。
 登った山の景色は、変わる。

「私が、何を言おうと、思おうと。
 たとえ、沙羅に、やらせたとしても。

 決めるのも、ドウするのかも。
責任を背負い、やってみせるのは、沙羅だよ」

「オレ…」
 力の使い方も、見せ方も。
 後ろを振り返れば、リカは小さく頷く。

「言い訳など、必要あるまい?」

「だから、四龍は。
 人を、理解できないって言われるんだ」

「ああ、そうだったな。沙羅?」
 初めて笑顔を見せた、ブルーに、面くらい。

「お、おう?」
「今回は、時間のようだ」
 ブルースカイの目は、リカに向き。

「アトは、笑って通り過ぎたあとに、来るがイイ」
 リカは、ブルーに、頷きを返す。

「なんで、リカに言うんだ?」
「ソレが一番、効くからだな」
「…そうだろうよ」
 ブルースカイの体を覆っていた、光は消え。
 そのまま。ブルースカイは、へたり込む。

「お疲れさん」

「怖かった、本当に怖かった…」
「ブルーが、か?」
 ブルースカイは、沙羅を見上げ。

「沙羅、ちゃんと、自重してくれてたんだね…」
「ナンの話だ?」

「本気で怒ってる沙羅、本当に怖かった」

「…え? 覚えてるの?」
「しっかりと、覚えてるよ」

「忘れてるパターンじゃないの?」

「ちょっと、何言ってるか、分からないけど。
 本当に、殴られるかと思った」 

「なんか、すまんな」

「コレは、コレで。
 私たちに沙羅が、優しくして、くれてるんだって。
 分かったから、イイけど…」

「沙羅様、困ってますね」
 リカの見た沙羅は、なんとも言えない顔をしていた。

「二度とは、ゴメンだよ…。
 疲れた…」

「えっと、しゃべってイイの?」
「岩沢は、空気が読めるようになったんだな」

「ブルースカイちゃん、じいちゃんみたいだったねぇ?」
「ばあちゃんだからな、岩沢」
 気づけば、沙羅は笑っていた。
 手に目線を落とし。
「沙羅様?」
 リカの声を聞く。

 もう一度、白龍の言葉を思えば。
 ドコか、懐かしさを覚えた。
 スレイの事件のとき、来るべき障害を、取り除き。
 迷う前に、覚悟を決めさせてくれた。
 白龍独自の、優しさのようなモノ。
 なくなれば。
 ナイフに指を乗せただけで、あれだけ悩む。

 もう二度と。
 聞くことはないと思っていた、ブルーの言葉。
 ずいぶんと、広い、言い方をしたモノだ。

 決めるのも、ドウするのかも。
責任を背負い、やってみせるのは、沙羅だよ。

「オレにしか、分からないって事だろ…」

 いくら、方法が、あると伝えても。
 結局、沙羅が、やろうとしなければ、始まらない。

 具体的に、どうやって行くのか。
 沙羅にしか、決めようがない。

 ブルーが、教えてくれたのは、目的だけだ。
法の力を、持っているのは。

「オレしか、いないんだ」

 法の力が、変化し続けているなら。
 この瞬間にも、あり方を変えている。

 最初から決まった機能しか持たない、機械とは大きく違う。
 使い方を考える以外、伸びしろのない、スキルなどでもない。 

 なんだかよく分からない、この力は。
 沙羅の意思と。
 願いというキーを、持っていることだけは、確かだ。

なら、あと、必要なのは。
 使ってみる、気概だけだ。

 問題は、示されている。 
自分で、問題を作る必要が、ないなら。
 答えを、考えるだけで良い。

 ツメの竜紋を、ブルースカイから抜き出し、手に入れ。
 ブルースカイの消滅を防ぐため。
 ツメの竜紋の代わりに、何かで補填すれば良い。 

言葉にしてしまえば、簡単だが。
 実際に、どうするのか、難しい問題だ。

沙羅は、ブルースカイ・岩沢・リカを見て。
 自分の手に視線を戻す。

 消滅を防ぐ、具体的な方法。
 言葉にすれば、もっとも、らしく聞こえるが。

 ふんわりしすぎている。

 何かが、分かったようで。
 何かが、決まったようで。 
 何も決まってない。

法の力で、解決できるのだから、使ってみれば良い。

 そんな、単純な話を、ブルーが、するわけがない。

 こんなにも、広く、言葉を尽くしてくれたのは。
 何かに触れないように、気を遣われているのだ。

 改めて、思えば。
 これから、何をすれば良いのか。
 見当も、つかない。

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