26.すべてを証明できるのか:後編
文字数 2,588文字
変わったのは、ほんの少しだけ。
頭に「黒い」がついただけだった。
それでも……なんとなく、言いたいことは伝わってくる。
僕が最初に答えたのは、すべてのカラス以外のものを確認するという方法だった。
それは、僕が調べる対象をカラスとそれ以外のものに分類したからだ。
しかし、それでは万が一黒くないカラスがいても確認できない、と指摘された。
――そして、さっきの言葉。
理解に時間は要したが、ギャル子も納得してくれたようだ。
やがて唸っていた石橋先輩も、顔をあげる。
全員の視線が、自然とレン子先輩に集まる。
その口もとが、ゆっくりと動いた。
まっすぐに褒められるのは、何度経験しても慣れることができない。
僕が助けを求めるようにレン子先輩を見ると、応えてくれた。
一度は納得した僕に、レン子先輩はすかさず切りこんでくる。
僕も異論はなかったから、頷いた。
それを見届けたレン子先輩は、おもむろに――
どこから出したのか、長机の上にひとつのリンゴを置き、もう一度僕らを見やる。
一瞬頭が混乱しかけたが、なんとか堪えた。
そう、さっき自分が口にしたことだ。
順序立てて考えてみよう。
赤いリンゴは、『黒くないもの』『白くないもの』両方に該当している。
赤いリンゴは、少なくともカラスではない。
それらを合わせて考えると、レン子先輩の意図が見えてくる。
言いながら、レン子先輩は次々に取り出し、並べていく。
一体どこに隠し持っていたのだろう。
驚くポイントが明らかにズレたふたりを無視して、僕はレン子先輩が指摘した事実にひとり驚愕していた。
すべてのカラスが黒いことを証明する。
すべてのカラスが白いことを証明する。
その方法を、言葉では納得したはずだったのに。
別々に考えれば、なんの問題もなかったのに。
同時に考えただけで、成立しない証明になってしまう。
同じものが、別なことを証明してしまう。
まるで八方美人だと、僕は思った。
見方を変えれば、僕の生きざまのようなものかもしれない。
とにかく合わせることしかできなかったから――。
そのまま自分の暗い思考の底に落ちそうになっていた僕を、レン子先輩の言葉がすくいあげる。
レン子先輩は、いつもの表情を崩さない。
どんな感情も見えない、真顔。
それでもまとう空気は、いつもよりやわらかい気がした。
一度言葉を切り、なぜか僕を見た。
ギャル子が珍しく(ry
だがレン子先輩は、簡単には頷かない。
ふたりの反応を横目に、僕はといえばどこか納得している自分がいた。
パラ研の部員四人を証明しろと言われれば、証明は楽だ。
それぞれが自分は部員だと言えばいい。
だが、パラ研の部員すべてを証明しろと言われたら――
極端な話、もしカラスと同じように考えるなら、この四人以外のすべての人に「あなたはパラ研の部員ですか?」と訊いてまわる必要が出てくる。
そんなのは、到底無理だ。
無理だから証明できない。
そういうことなのだと思う。
そう告げたレン子先輩の瞳は、どこか遠くを見ていた。
(続く)