25.すべてを証明できるのか:前編
文字数 2,138文字
その日部室に行くと、いたのはレン子先輩とギャル子だけだった。
ギャル子はふたりきりの時間を邪魔されたせいか、露骨に睨んできたが、もう慣れてしまった僕は怯まない。
我ながら、だいぶ成長したとは思う。
男ひとりだと、どうにも落ちつかないのだ。
やはりパラ研は、四人揃ったときが最も安定している気がした。
やがて石橋先輩が部室に飛びこんでくる。
その手には、なぜか謎の実が握られていた。
なんとなく意外に思いつつ見せてもらうと、赤くて小さな木の実だった。
どうして木の実であるとわかったかといえば、まだ枝がついていたからだ。
石橋先輩はどこか腑に落ちない表情で、口を開く。
そうして始まりかけた漫才を、レン子先輩の一言がとめる。
どうやらレン子先輩もやられたことがあるようだ。
どこから突っこんでいいかわからなかったので、黙っていた。
僕に、レン子先輩が振ってくる。
今日はなぜか、レン子先輩もノリがいいようだ。
黙っているとまた脱線しそうだったので、話しかけられた僕が先を促す。
そんな方法、あるわけがない。
出題者がレン子先輩以外の人物だったなら、おそらくそう即答したと思う。
だが今日も、レン子先輩は言った。
これはパラドックスの問題だと。
つまり、答えは存在するはずなのだ。
どんなに荒唐無稽なものであれ――。
そこで元気よく手をあげたのは、ギャル子だった。
ちょっと拍子抜けしてしまったが、さっき荒唐無稽でもいいと考えたのは僕自身だ。
それに、ギャル子の言うことは間違っていない。
確かにすべてのカラスを実際に捕まえて確認できるならば、それが最も確実な方法と言えるだろう。
だが気になるのは、レン子先輩の応えだった。
まだ考える余地はあるらしい。
無茶な方法でもいいとわかれば、僕にも思いつけるかもしれない。
そう考えた僕は、思考を転がしはじめる。
すべてのカラスは黒い。
それを証明するためには、すべてのカラスを確認する必要がある。
これを逆に考えてみたらどうだろう?
黒くないカラスはいない。
それを証明するためには――
結構自信を持って口にした回答だったが、レン子先輩は首を横に振った。
言われてみればそのとおりだった。
カラス以外のものを確認しただけでは、すべてのカラスが黒い証明にはならないのだ。
流れについてこられないのだろう、石橋先輩が首を傾げる。
次いでギャル子が、
実にストレートな条件を追加してきた。
が、レン子先輩はそれを華麗にあしらう。
シュンとしてしまったギャル子に、レン子先輩はため息をひとつ。
どれのことだろうと訊き返した僕に、レン子先輩は最後のヒントを投げてくる。
(続く)
Q.すべてのカラスが黒いことを証明する、もうひとつの方法とは?
ぜひ考えてみてください。